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翼を持った果実[その7] 翼果samara

小杉 波留夫

こすぎ はるお

サカタのタネ花統括部において、虹色スミレ、よく咲くスミレ、サンパチェンスなどの市場開発を行い、変化する消費者ニーズに適合した花のビジネスを展開。2015年1月の定年退職後もアドバイザーとして勤務しながら、花とガーデニングの普及に努めている。
趣味は自宅でのガーデニングで、自ら交配したクリスマスローズやフォーチュンベゴニアなどを見学しに、シーズン中は多くの方がその庭へ足を運ぶほど。

翼を持った果実[その7] 翼果samara

2024/03/12

このシリーズでは、動けない宿命を持つ植物が、風や空気抵抗を利用し、自分の子供に旅をさせるいろいろな工夫を見てきました。他には水に種子を浮かばせて、その動きを利用する植物もありました。もっと有機的に、動物を利用する方法も植物たちは獲得してきましたが、風などの物理性を利用する方法が原初的だと思います。

被子植物のご先祖様である裸子植物の種子には、翼が付いているものが多くありました。上の写真で見る翼と、このシリーズで紹介してきた翼には大きな違いがあります。それは、種子翼と果実翼の違いです。

まず、果実とはなんでしょう。私たちは、果実というと果汁あふれるおいしい果物を想像します。しかし、果実とはミカンやブドウのようなジューシーな果実=液果だけを指す植物用語ではありません。成熟した状態で乾いている果実=乾果もあります。これらを含めて果実といいます。

ヤブツバキ

それでは果実は、どのようにできるのでしょうか?左上の写真では、ヤブツバキの雌しべと子房が確認できます。柱頭の先に花粉がついて受精が行われると、胚珠は種子になり、子房が成熟して果実になります。果実というものは、雌しべを構成する子房から作られるもので、その機能の多くは、種子の散布手段になっています。おいしいブドウの果実は、種子を含み動物に食べられることによって旅をします。その意味では、現代人が果物を食べる行為は、植物の役に立っていません。

私たちは、ヒマワリの種子を知っています。しかし、私たちが思い描くヒマワリの種子を植物的には、果実(乾果)といいます。ストライプ模様の殻は、果実の皮、つまり果皮です。それを割ると薄く透明な膜(種皮)に覆われた本当の種子があります。豆果から出てくるササゲやダイズの種子、莢から出てくるストックやパンジーなどの種子は、たしかに種子で間違いありません。果実と種子の定義は違うのです。

今までに紹介した、キリやアルケミトラ、神樹やユリノキ属の種子などは、果実の皮(果皮)が翼状になった付属物を付けていました。それを植物学的に翼果、英語でsamara(サマラ)といいます。

ツクバネやフタバガキ科などは、果皮以外のがくや苞(ほう)などが発達したものなので、厳密には翼果とはいわず、偽翼果(pseudosamara)といいます。この植物記では、難しい用語を避けて「翼を持った果実」と表現しました。植物学は、いろいろややこしいです。

イロハカエデ

さて、翼果や翼を持つ果実を求めていろいろ旅をする必要はありません。私たちの身近にもそれらはありますので、散歩の途中などで観察することもできます。紅葉のきれいな、イロハカエデは、Japanese mapleともいわれ、東アジアに広く原生する落葉樹木です。品種が多く、カエデ属を代表します。

イロハカエデAcer palmatum(アケル パルマツム)ムクロジ科カエデ属。属名のAcerとは、先が尖(とが)ったことに語源があるようです。和名のカエデは、葉がカエルの手に似ていることによります。種形容語のpalmatusも手の「ひら状」を意味していて、いずれも葉の形状を表します。カエデの果実は、果皮が乾燥して翼状になっているので翼果です。それは二つにつながっています。しかし、乾燥するとそれは、一つずつに別れて風に乗り、クルクルと回転して落ちていくので、分離翼果ともいいます。

ウリハダカエデ

こちらは、同じカエデでも果実が連なっている姿が面白いウリハダカエデの翼果です。これらのカエデの翼果が、木枯らしに吹かれて、一斉に空から回転して降ってくるさまを眺めるのは楽しいことです。

カバノキ属

上の写真は、シラカバやダケカンバを含むカバノキBetula(ベトゥラ)属の果実です。中国の中部を東西に貫く秦嶺山脈(しんれいさんみゃく)で撮影しました。どの種なのかまだ特定できていません。こちらも成熟すると果皮が膜状になり翼果となります。

ポップノキ

ホップノキPtelea triforiataペテレア トリフォリアータ)ミカン科ホップノキ属北米の東部、中南部に生息する落葉低木です。ミカン科の植物にも翼果を作る種属があり、特定の科や属にだけ、翼果が見られる訳ではありません。翼果や偽翼果の形態は、植物ごとにさまざま。中には、驚くような飛行機能を持ったものもありました。それでも、残念なのは、翼果に包まれた種子たちが、どこにたどり着くのかは、風の吹くまま、気の向くまま、運次第です。翼果や偽翼果で種子を散布する植物たち。「下手な鉄砲も数ちゃ当たる」方式でこれからも果実をたくさん付けて、次世代を旅に送り出すのでした。

翼を持った果実シリーズを終えた次回は、季節の話題「ウワズミザクラ」です。お楽しみに。

JADMA

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