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ウワミズザクラ

小杉 波留夫

こすぎ はるお

サカタのタネ花統括部において、虹色スミレ、よく咲くスミレ、サンパチェンスなどの市場開発を行い、変化する消費者ニーズに適合した花のビジネスを展開。2015年1月の定年退職後もアドバイザーとして勤務しながら、花とガーデニングの普及に努めている。
趣味は自宅でのガーデニングで、自ら交配したクリスマスローズやフォーチュンベゴニアなどを見学しに、シーズン中は多くの方がその庭へ足を運ぶほど。

ウワミズザクラ

2024/03/19

桜の国に住む私たち、花がすみのように咲き乱れるソメイヨシノの花が終わるころ。湿った谷筋や、小川の周辺、林縁(りんえん)※などに白い花を総状(そうじょう)※に咲かせる、ウワミズザクラの仲間が咲き始めます。サクラといわれながら、小さな白い花がブラシのような房状になって咲く姿が妙でもあります。私たちの住まいの周辺にもたくさん生えていて、春の訪れを知らせてくれる、ウワミズザクラの植物記です。

※林縁…森林と草地や裸地の境目、すなわち森林の周りの部分のこと。
※総状…房のように三角すい状になること。

動物の鳴き声の表現が、国によって違うように、サクラをサクラCerasus(ケラスス)属として分類するのか、スモモPrunus(プルヌス)属にするのか、国や人によって見解が分かれます。同様にウワミズザクラの分類も、意見が分かれているのでした。

ウワミズザクラ

東アジアの春は、花木たちが一斉に花を咲かせる季節。4月ころの湿った雑木林などでは、新緑を展開させ、白い小花を総状に付けた、こんな花もよく見かけます。ウワミズザクラPadus grayana(パドゥス グラヤナ)バラ科ウワミズザクラ属。私は、ウワミズザクラの仲間を日本の植物分類表に沿ってウワミズザクラ属と解釈しました。

バラ科ウワミズザクラ属は、サクラと同じような茎葉を持つ落葉の低木から高木。サクラと思えない、小さな花を総状に密生させ、雄しべが長いのでブラシのような形状になるのが特徴です。北半球に20種ほどが生息しています。東アジアを生息範囲とするウワミズザクラは、日本と中国の東部などに原生し、よく見られます。

ウワミズザクラの種形容語のgrayanaは、シーボルトと同じ時代、生涯の大半を東アジアの植物層の研究に費やしたロシアの植物学者Carl Johann Maximowicz(カール・ヨハン・マキシモヴィッチ、1827~1891)の命名です。彼は、東アジアと北米東南部の植物における同一性を研究したアメリカの植物学者Asa Gray(エイサ・グレイ、1810~1888)の名を記念して、この植物にgrayanaと献名しました。北米中南部にも、ウワミズザクラとよく似たPadus virginiana(パドゥス バージニア)というウワミズザクラ属が原生しています。

このウワミズザクラの花色は白色、花序の長さは10cm程度、先端がやや詰まります。一つの花の大きさは7mm程度で、花弁は5枚、雌しべは1本、雄しべは多数あります。一つの花序に多数の花を付けます。

イヌザクラ

ウワミズザクラの生息域と環境が似ている関東などでは、イヌザクラPadus buergeriana(パドゥス ブレギリアナ)バラ科ウワミズザクラ属がよく見られます。イヌザクラは、花色がやや黄色く、総状花序に小さな花が多数付きますが、ウワミズザクラよりやや小ぶりです。

イヌザクラの種形容語buergerianaは、かのPhilipp Franz Balthasar von Siebold(フィリップ・フランツ・フォン・シーボルト、17961866)の助手であったHeinrich Burger(ハインリヒ・ビュルゲル、18041858)への献名です。この種(しゅ)は、暖地を好み、日本の本州から、韓国、台湾を通り、東ヒマラヤを含めたアジアのモンスーン地帯にまで生息する種属です。

ウワミズザクラとイヌザクラの違いは明確です。上の写真で左のウワミズザクラは花序の下に葉が付くのに対し、右のイヌザクラは花序に葉が付きません。花序の大きさ、密度、花色などは見ての通りです。

ウワミズザクラ属の果実は、6月には熟します。英語でこの属をbird cherryといいますので、鳥たちの好物なのでしょう。私は、ウワミズザクラの花を天ぷらで食べましたが、春のほろ苦い味でした。上の写真のように果実を比較すると、イヌザクラの果実にガク片が残っているのがを確認できます。

シウリザクラ

暖地を好んで生息するイヌザクラに対し、寒地を好み、これらより遅く咲くのがシウリザクラです。シウリザクラPadus ssiori(パドゥス シシオリ)バラ科ウワミズザクラ属。種形容語のssioriは、アイヌ民族の言葉で苦いことを意味します。果実にはタンニンが豊富で、アイヌの人々に利用されてきたのでしょう。

シウリザクラは、ウワミズザクラ属の中では落葉の高木で、よい材が採れます。花穂(かすい)は長く、無限花序(むげんかじょ)※のように先細りながら伸びやかに開花します。この植物は、ミヤマイヌザクラHokkaido bird cherryなどとも呼ばれ、日本の本州中部以北、千島列島やロシア、東アジア北部などで見られるウワミズザクラの仲間です。

※無限花序…花が下から上へ咲き進んでいくもの。

これらのウワミズザクラ属の仲間は、暖地では春の訪れ、寒地では夏が来たことを知らせてくれます。皆さんの地域では、どのウワミズザクラ属が咲くのでしょうか?花の香りがよいので、ぜひ観察してみてはいかがでしょうか。

※「野菜」として販売しているもの以外の植物は、観賞を目的としているものです。それらの商品は、有毒もしくは健康上、害を及ぼす場合がありますので、取り扱いにご注意の上、絶対に食べないでください。

次回は、春の野山で見られる「ショウジョウバカマ」のお話です。お楽しみに。

JADMA

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