小杉 波留夫
こすぎ はるお
サカタのタネ花統括部において、虹色スミレ、よく咲くスミレ、サンパチェンスなどの市場開発を行い、変化する消費者ニーズに適合した花のビジネスを展開。2015年1月の定年退職後もアドバイザーとして勤務しながら、花とガーデニングの普及に努めている。
趣味は自宅でのガーデニングで、自ら交配したクリスマスローズやフォーチュンベゴニアなどを見学しに、シーズン中は多くの方がその庭へ足を運ぶほど。
parasitic plants[その1] ヤドリギ
2024/04/02
落葉広葉樹たちが葉を落とすと、幹や枝に付いている常緑のヤドリギが目につきます。見上げて探すと、あんなところやこんなところにも見つかります。この植物が、冬になると目につくのは、人間に見つかるのが目的ということではありません。しかし、冬に目につくということは、ヤドリギという植物にとって必要不可欠なことでもあります。
葉を落とした木々の幹や枝に、こんもりとした緑の球体を見つけることがあります。それがヤドリギです。「宿り木」と書いてヤドリギ。この子たちは、いつどこで、どのように生まれたのでしょうか。「生い立ちが木(気)になります」。ヤドリギは、ちゃんと緑の茎葉を持ち光合成をしながら、大地に根ざす代わりに、樹木の組織中に根を伸ばし、養分を奪うチャッカリ者。流行(はやり)の言葉でいうと、二刀流の生き方です。
ヤドリギたちには、大家さんが必要です。山地では、ブナやミズナラ。里では、ケヤキやエノキ、コナラ、サクラなどたくさんの樹種に宿ります。ヤドリギの漢方名を桑寄生(そうきせい)と呼ぶので、クワにも付くようです。この子たち、落葉広葉樹であれば大家さんのえり好みはしないようです。
ヤドリギViscum coloratum(ウィスクム コロラツム)ビャクダン科ヤドリギ属。属名のViscumとは、英語のviscous(粘性)を意味し、ヤドリギの果実の性質を表します。種形容語のcoloratumは、彩色されたことを意味し果実の色についての言及です。
この植物は、しばらくヤドリギ科として分類されていたのですが、新分類体系(APG)では、ツクバネと同じビャクダン科ヤドリギ属となりました。日本をはじめ東アジアに産するこのヤドリギは、ヨーロッパなどに産する、オウシュウヤドリギの亜種としてViscum album subsp. coloratumと表記されることが多いです。しかし現在は、独立種扱いとの見解となりました。旧学名は、シノニムとなっています。
※シノニム…同一と見なされる品種に複数の名前が付けられたときの同種異名、異名、同物異名とした呼称
樹木に半寄生する樹木として、ヤドリギ科が考えられた時代には、7属400種以上がそこに含まれていました。熱帯域が主な生育地であり、ヤドリギ科に宿るヤドリギ科もあり、それは正体の知れない植物でした。APGの分類体系で、ビャクダン科ヤドリギ属70~100種に整理されて、私にも理解できるようになりました。それでも、専門書がないと世界のヤドリギ属を調べるのは難しいです。
上の写真は、中国雲南省昆明市の標高1900mで見つけたヤドリギ属です。Viscum SP.ビャクダン科ヤドリギ属。葉は、退化してありません。茎だけで光合成を行うタイプだと思います。いろいろ調べましたが、種(しゅ)の特定に至っていません。
話は、日本のヤドリギに戻ります。この植物は、メスとオスが別々の株になる雌雄異株(しゆういしゅ)です。早春、ヤドリギたちも恋の季節。ヤドリギの枝先が、黄色くなっています。
ヤドリギの雄株に花が咲いています。大きさは1cm以下、これがヤドリギにとっては精いっぱいのおめかしです。雌花には、蜜があるとの情報がありますので、虫媒花なのだと思います。寒い時期にどのような生き物が、この花に訪れるのでしょうか?
ヤドリギの雌株です。雌花は、直径2mm程度、すこぶる小さく目立ちません。上の写真は、枝の先端にある雌花の蕾が少し膨らんでいる状態です。葉は、細長く硬い皮質、プロペラのように枝の先端に2枚だけ付けます。
ヤドリギの果実は、やや黄色がかった上の写真のような色合いの液果です。果実の中には一つの種子があり、ヤドリギが作り出した天然のセルロース系粘着物質「viscin組織」に包まれています。ヤドリギの果実は、鳥によって果実ごと食べられます。viscin組織は、鳥の消化管の中でほぐれて、とても粘り気の強いふんとして排出されるのです。
日本では、レンジャクという冬鳥が、ヤドリギの実をよく食べるとされています。私もレンジャクを目にしましたが、撮影のタイミングを逃しました。レンジャクなどに食べられたヤドリギの果実は、粘液となり種子を包み、鳥の尻からぶら下がります。そして、他の枝や樹木に付着して生息域を広げます。運よく大家さんにたどり着いた種子たちは、そこから「臥薪嘗胆(がしんしょうたん、苦労を重ねること)」「石の上にも3年」「雨だれ岩を穿(うが)つ」という生活が始まります。viscin組織というゲル状のセルロースに守られながら、種子から胚軸が伸び、寄主の中に寄生根を侵入させて行きます。そして、双葉を開くまで3年以上という時間をかけて半寄生生活を開始します。
ヤドリギは、春に花を咲かせ、冬に果実が熟します。前回の東アジア植物記で、果実は種子の散布手段になっていることを述べました。冬季、鳥たちは食べ物が少なく飢えています。その時、鳥たちに分かるように食べ物のありかをアピールする必要があります。常緑のヤドリギのこの姿は、落葉広葉樹が葉を落としているときによく目立つ看板なのでした。
次回は、「parasitic plants[その2] スナヅルとネナシカズラ」のお話です。お楽しみに。