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parasitic plants[その2] スナヅルとネナシカズラ

小杉 波留夫

こすぎ はるお

サカタのタネ花統括部において、虹色スミレ、よく咲くスミレ、サンパチェンスなどの市場開発を行い、変化する消費者ニーズに適合した花のビジネスを展開。2015年1月の定年退職後もアドバイザーとして勤務しながら、花とガーデニングの普及に努めている。
趣味は自宅でのガーデニングで、自ら交配したクリスマスローズやフォーチュンベゴニアなどを見学しに、シーズン中は多くの方がその庭へ足を運ぶほど。

parasitic plants[その2] スナヅルとネナシカズラ

2024/04/09

暖かい地域、亜熱帯や熱帯域に暮らす植物たちほど、地面に縛られずに三次元的に暮らしています。古木や大きな木の幹や枝には、ヤドリギの仲間、ランやシダが多く見られます。

クスノキ

皆さんがよくご存じのクスノキは、クスノキ科クスノキ属です。この属は、特に温暖な熱帯地域を中心に生息する常緑高木や低木などで構成され、3000種近い種属を持ちます。それだけ多くの種属を持つということは、今の地球環境に適応進化した証しでもあるわけです。このクスノキ科には、妙なparasitic plants(寄生植物)があります。それは、見た目にはクスノキ科には見えません。上半身が人間で下半身が馬の「ケンタウルス」のように、ある植物とある植物をつなぎ合わせたようにも見えます。

このクスノキの大木には、ボウランLuisia teres(ルイジア テレス)ラン科ボウラン属とヒトツバPyrrosia lingua(ピロシア リングア)ウラボシ科ヒトツバ属など、いくつもの植物が着生していました。

こちらのクスノキには、ラン科デンドロビウム属が枝に付いています。これらは、他の樹木に着生しているだけで、この木から養分を奪っているわけではありません。コケ植物やシダ植物、ラン科などの単子葉植物には、parasitic(寄生的な)種は見つかっていません。植物に寄生して生きるという方法は、かなり進化した被子植物に見られるように思います。

スナヅル

スナヅル(砂蔓)Cassytha filiformis(カッシタ フィリフォルミス)クスノキ科スナヅル属。属名のCassythaとは、ギリシャ語で「よろよろしている」ことを意味しています。この姿からクスノキ科を想像するのは難しいと思います。しかし、分類学者は、この植物がクスノキ科とする明確なエビデンスがあるといいます。

グンバイヒルガオ(左)とグンバイヒルガオに寄生するスナヅル(右)

スナヅル属は、オーストラリアなどを中心に世界中の熱帯から亜熱帯に分布し、主に日当たりのよい海岸周辺を生息環境にして、17~20種が知られています。日本では、九州南部以南などの亜熱帯域の暖地で見られ、グンバイヒルガオなどの海浜植物に寄生して生息しています。

スナヅルの種形容語のfiliformisとは、糸状を表します。この植物は、太い糸のような植物で、根もなく、葉は退化しています。緑色をしていて葉緑素があり、光合成をするので、半寄生植物になります。宿主にたどり着くとつるを巻き、接した場所から吸器と呼ばれる(吸着根)を出し、宿主から養分を吸収するのです。するとつるからは葉緑素がなくなり黄色く変色します。

宿主がスナヅルに覆われるさまを見て、外国ではWoe Vine(悲しみ、災いのつる)と呼ぶようですが、実害は後から述べるネナシカズラほどではないようです。スナヅル属は、世界にいくつかの種(しゅ)を分布させていると書きました。カリブのある地域では、スナヅル属の自生種をlove vine(愛のつる)と呼んで媚薬(びやく)に使用するといいます。スナヅルとクスノキの花を比較しました。何となく花の形態は、似ている気もします。

スナヅルの果実とクスノキの果実は、よく似ていると思います。大きさは、両方とも8mmほどの核果です。大きな種子が中に一つ入っています。この果実は、同じクスノキ科のアブラチャンにも似ています。スナヅルの果実は、鳥などに食べられて拡散するか、海流に流されて旅をするのでしょう。

スナヅルの花や果実の形態は、確かにクスノキに似ていましたが、この姿は、どう見てもネナシカズラに似ています。スナヅルは、クスノキ科の樹木とヒルガオ科のネナシカズラが一つに合体した植物のようでもあります。右のネナシカズラ属は、熱帯を中心に生息し、世界に200種以上あると見積もられているヒルガオ科のparasitic plants(寄生植物)の一つです。

Cuscuta(クスクタ)ヒルガオ科ネナシカズラ属。手の届かない場所に生えていたので種の同定に至らず、学名の前半のクスクタとだけ表現しておきます。ネナシカズラ属の種子は地表で発芽し、茎を伸ばし、宿主に巻き付きます。その接点から吸器と呼ばれる(吸着根)を出し、宿主から養分を吸収するようになると根が枯れて、寄生生活を始めるのです。

温帯のネナシカズラ属は一年草ですが、熱帯のネナシカズラ属は宿根草となり雄大です。バイクに乗った人が写っているので、そのサイズ感が分かると思います。ネナシカズラ属の葉は、ごく小さく分かりにくいものです。葉緑素を持ち、光合成をする種もあり、宿主を選ばないものが多いです。種子は小さく多数付けることから、作物に大きな被害を与える場合もあります。

クスノキ科のスナヅル属、ヒルガオ科のネナシカズラ属。それぞれの生い立ちは、かなり違います。沖縄でヒルガオ科のグンバイヒルガオに寄生していたスナヅル、ヒルガオ科のネナシカズラ属は、宿主を選ばないというだけあって、また違う植物に寄生していました。両方とも、最初は自活しますが、しばらくすると寄生を始めるので、絶対的な寄生進化の途上にある植物なのかも知れません。

次回は、どう見ても植物に見えない植物、「parasitic plants[その3]ツチトリモチ」についてです。お楽しみに。

JADMA

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