小杉 波留夫
こすぎ はるお
サカタのタネ花統括部において、虹色スミレ、よく咲くスミレ、サンパチェンスなどの市場開発を行い、変化する消費者ニーズに適合した花のビジネスを展開。2015年1月の定年退職後もアドバイザーとして勤務しながら、花とガーデニングの普及に努めている。
趣味は自宅でのガーデニングで、自ら交配したクリスマスローズやフォーチュンベゴニアなどを見学しに、シーズン中は多くの方がその庭へ足を運ぶほど。
アリストロキア属[後編]
2024/06/11
中南米の熱帯雨林には、妙なアリストロキア属が多く生息していて、この属の分布中心があるとされています。アリストロキア サルバドレンシスは、ヘルメットみたいでおかしな植物でした。後編も前編に負けず、面妖で風変わりな花を付けるアリストロキアが登場します。
アリストロキア トリカウダタAristolochia tricaudataウマノスズクサ科ウマノスズクサ属。種形容語のtricaudataとは、tri(数詞の3)+caudata(尾のある)の合成語です。これは、がく片に尻尾のように垂れ下がる付属物が三つ、付いていることによります。
この種は、メキシコ南西部にある、オアハカ州とチアパス州の雲霧林に生息する低木状のアリストロキアです。森の中のいろいろな高木の下に育ち、4~5m程度の大きさになります。低木状のアリストロキアは豊富な降水量を必要とします。
このトリカウダタは、エルサルバドル共和国などに生息するサルバドレンシスに近縁とされる常緑低木で、木姿や葉の形状などがよく似ています。前種は、幹元から長い花茎をはわせ、その先端に花を付けましたが、トリカウダタは、葉腋(ようえき)から花を単生させていました。この色合いと容姿、開花時に放つ腐臭でハエたちをいざない、その開いた口に誘い込んで花粉を媒介してもらいます。
パイプカズラAristlochia elegans(アリストロキア エレガンス)ウマノスズクサ科ウマノスズクサ属。種形容語のelegansとは「上品な」「優雅な」「すてきな」さまを表しますが、この花を見る人の意見が分かれるところでしょう。パイプカズラは、ブラジル南部を流れるRio Parana(パラナ)川の畔(あぜ)で発見されたので、ブラジル産と記載されたのですが、この種の分布は、ブラジル、ボリビア、コロンビア、エクアドル、パラグアイ、アルゼンチンなど、南米に広範囲に生息しています。
このアリストロキアは、英語でDutchmans Pipeと表現します。花被筒に模様はなく、黄緑色でヘアピンのように曲がっています。その内部には、開口部から下に向かって毛が生えていて、誘い込まれたハエが簡単には逃げられないようになっています。
南米のパイプカズラは、東アジアのウマノスズクサとよく似た環境に生息しています。動物や人との関係、アリストロキア酸という猛毒を含みながら、伝統医薬に使われてきた歴史なども同じです。違う点は、開いたがくの大きさと、ウマノスズクサが落葉、パイプカズラが常緑であることです。
アリストロキア ギガンテアAristolochia giganteaウマノスズクサ科ウマノスズクサ属。種形容語のgiganteaは、巨大な、非常に大きいことを表します。おそらくウマノスズクサ科最大の花を付けるのだと思います。花の大きさが30cm程度のものを植物園などで見ることがありますが、花被の広がりが、最大で25×50cmに達する物があるというのだから驚きです。
アリストロキア ブラジリエンシスAristolochia brasiliensisウマノスズクサ科ウマノスズクサ属。アマゾンなど熱帯の森林に産するつる性常緑樹で5m程度に育ち、他の植物に絡みついて生育します。種形容語のbrasiliensisは、ブラジルに産することを表します。
私の手が写っているので、この植物と花被のサイズ感は伝わると思います。それにしてもこの形、この色、変で妙としか言えません。花被の広がりは、袋のような下部とくちばしみたいな上部に分かれ、ペリカンのくちばしを連想させます。このように、アリストロキア属は珍妙な色合いと意匠を持っています。腐った肉を模していると思われるこのデザインは、ハエの好みに合わせた結果なのでしよう。
次回は、赤色色素を持つ有毒植物「ヤマゴボウ属」のお話です。お楽しみに。