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ノボタン科[中編] ハシカンボク属など

小杉 波留夫

こすぎ はるお

サカタのタネ花統括部において、虹色スミレ、よく咲くスミレ、サンパチェンスなどの市場開発を行い、変化する消費者ニーズに適合した花のビジネスを展開。2015年1月の定年退職後もアドバイザーとして勤務しながら、花とガーデニングの普及に努めている。
趣味は自宅でのガーデニングで、自ら交配したクリスマスローズやフォーチュンベゴニアなどを見学しに、シーズン中は多くの方がその庭へ足を運ぶほど。

ノボタン科[中編] ハシカンボク属など

2024/07/02

日本の屋久島は、北緯30.6度です。南西諸島の島々は、日本における亜熱帯気候に分類されています。そこには、二次林や道端などではなく、自然度が高い原生林の林縁などに生息する日本に固有のノボタン科植物が生息しています。

二次林…伐採など人の手が加わった林のこと

上の写真は、日本の亜熱帯原生林です。そこには、ヒカゲヘゴなどの大きな木が茂り、暗く湿った林床があります。嵐で大きな木々が倒れたり、人が道を開くと林床に日が差し込むので、多種多様な植物が生えます。

そんな原生林の小道を歩いていると、小さな草に呼び止められました。上の写真の中央にピンク色の小さな花が咲いています。それは、日本にしか生えていないノボタン科の植物です。

ハシカンボク

ハシカンボクBredia hirsute(ブレディア ヒルスタ)ノボタン科ハシカンボク属。属名のBrediaは、インドネシアの植物属を記述した、オランダ人の生物学者であるJacob Gijsbertus Samuël van Breda(ヤコブ・ギスベルトゥス・サムエル・ファン・ブレダ、1788-1867)に献名された名です。この属は、10種以上が東アジア東部と南部に生息している種属です。種形容語のhirsuteとは、「多毛の」「毛深い」という意味があり、葉に生えている多くの毛に由来します。

ハシカンボクは、鹿児島の屋久島から沖縄に固有の植物。漢字で「波志干木」と書きます。これは沖縄の呼び名に由来します。葉は、幅広で明確な葉脈があります。常緑の樹木ですが、30~100cmの低木となります。花弁は4枚で小さく1.5cm程度、茎の先端に花序を伸ばし、ピンク色の花を咲かせます。

こちらは、沖縄北部の山原(ヤンバル)です。沖縄北部は、米軍施設があった経緯があり、開発から逃れた原生の亜熱帯林が多く残る地域です。この地域にも、独特のノボタン科の植物が生息しています。

コバノミヤマノボタン

それがこれです。コバノミヤマノボタンBredia okinawensis(ブレディア オキナウェンシス)ノボタン科ハシカンボク属。それは、沖縄北部に固有のノボタン科の植物です。ハシカンボクと同じように小さな4花弁の花を付けるのですが、全体に無毛、葉はハシカンボクのように幅広ではなく小さいことから漢字で「小葉深山野牡丹」といいます。種形容語のokinawensisは、沖縄に産することを表します。

コバノミヤマノボタンの花は、ハシカンボクよりやや大きく、色が濃いので見栄えがよいです。花が5cmぐらいに大きければいい園芸花きになったことでしょう。

分類学の父と呼ばれる、Carl von Linne(カール・フォン・リンネ、1707~1778)。彼の仕事は多くの弟子に支えられていました。鎖国の日本にやってきて植物調査をしたCarl Peter Thunberg(カール・ピーター・ツンベルク、1743~1828)もその1人でした。彼らは、「リンネの使徒」と名付けられ、世界中で植物の探索をしました。18世紀後半、未開未知の国での活動はしばしば危険を伴い、海外に赴いた弟子は17人。そのうち、7人は行ったきりで帰ることはできませんでした。

ヒメノボタン

そんな「リンネの使徒」の1人に、スウェーデンの博物学者Pehr Osbeck(ペール・オズベック、1723-1805)がいました。彼は、中国の広州でリンネのために植物採取をしたのでした。リンネは、ヒメノボタン属の学名に弟子の名前、ノボタン科ヒメノボタンOsbeckia(オスベキア)属とつけました。ヒメノボタン属は、日本から東アジア南部などの熱帯亜熱帯に10種を越える種属が生息します。

ヒメノボタンOsbeckia chinensis(オスベキア シネンシス)ノボタン科ヒメノボタン属。種形容語のchinensisは、ご存じの通り「中国に産する」という意味ですが、日本の紀伊半島から沖縄、中国南部、南アジアなど生息域が広く、暖地の山地に生息するノボタン属の一つです。温帯にも生息する、この種(しゅ)がノボタン科の北限分布種になると思います。

ヒメノボタンは、ハシカンボクと同じような4枚の花弁を持ち、大きさは3cm程度。草丈は、10~50cmの小低木となります。葉は、細く葉脈がはっきりと見られます。花期は、夏、枝先に2~3個の花を頂生させます。通常は濃いローズ色ですが、まれに白花もあります。

次回は、「ノボタン[後編] シコンノボタン属など」です。お楽しみに。

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