タネから広がる園芸ライフ / 園芸のプロが選んだ情報満載

連載

Rain lily(レインリリー)[前編]

小杉 波留夫

こすぎ はるお

サカタのタネ花統括部において、虹色スミレ、よく咲くスミレ、サンパチェンスなどの市場開発を行い、変化する消費者ニーズに適合した花のビジネスを展開。2015年1月の定年退職後もアドバイザーとして勤務しながら、花とガーデニングの普及に努めている。
趣味は自宅でのガーデニングで、自ら交配したクリスマスローズやフォーチュンベゴニアなどを見学しに、シーズン中は多くの方がその庭へ足を運ぶほど。

Rain lily(レインリリー)[前編]

2024/08/20

近ごろ、観光地に行くと外国人の姿が目立ちます。今までこんなに多く外国の方々を日本で見かけたでしょうか?Globalization(国際化)は、人間だけではありません、植物も同じです。植物たちは、観光はしないですが、さまざまな理由で日本に連れて来られて、日本に適応しなければなりませんでした。多くの植物は、異なる気候に戸惑い、一代限りで絶えてしまうものが多いのですが、中には、naturalized(帰化)して東アジアの日本でも世代を更新するつわものがいます。

まとまった雨が降った数日後に、何の前触れもなく15~20cmの花茎から蕾を立ち上げて、黄金色の花が咲きました。それは、葉も付けていません。花は、1~2日ほどしか咲かず、いつの間にか草たちの間に姿を消してしまいました。

この植物は、道路の隙間、石組みの間、空き地など、さまざまな場所に咲いています。私は、花の種苗を専門に仕事をしましたが、この植物が観賞用として販売されていたことはなかったと思います。誰が日本に持ち込んだのか?いつどのように広まったものなのか?よく分かりません。

この植物は、ヒガンバナ科の植物だということは、明らかに見て分かります。球根でも種子でも増えて群落を形成するようです。そして、しっかり雨が降ると、それに呼応して何度も花を咲かせます。

ゼフィランサス ツビスパサ

Zephyranthes tubispatha(ゼフィランサス ツビスパサ)ヒガンバナ科タマスダレ属。属名のZephyranthesとは、ギリシャ神話の西風の神様Zephyros (ゼピュロス)と、ギリシャ語で花を意味するanthoの合成語で 「西風(Zephyr)が雨を運ぶ」という意味があります。タマスダレ属は、夏場に乾燥した後、まとまった雨が降るたびに花茎を伸ばし、花が咲く性質があるので「Rain lily(レインリリー)」と呼ばれます。

この植物の地下部を観察しました。上の写真の球根が埋まっている深さは1cm程度でした。球根(鱗茎、りんけい)は、長さ3~3.5cm、幅は2.5~3cmです。ヒガンバナ科の球根によくある固く締まった質感、根群はあまり発達していません。種形容語のtubispathaの意味は、よく分かりませんが、ラテン語の「turbinatus」は「倒円すい形の」という意味ですので、この球根の形を表しているのだと思います。

球根を含めた、この植物全体の写真は、2024年7月1日に撮影しました。枯れた果実の殻は6月8日の開花跡で、青い果実は6月22日の開花跡です。すでに、今年になって雨の後に2度咲いたということです。花茎の長さは20~25cm、日本のヒガンバナと同じように開花時に葉は出ません。

その球根を切断して、花芽の状況を確認しました。上の写真に写っている一番下の芽は、6月8日の開花跡、次が6月22日の開花跡、次は間もなく開花に至る花芽です。中心部の芽は、葉芽だと思います。球根を切ってみて、レインリリーと呼ばれる植物の仕組みが理解できた気がします。

ゼフィランサス ツビスパサの開花は突然です。そして、唐突に花が終わる潔さ。それでも効率よく受粉を行い種子を残します。春に花が咲き、秋に果実が成長するのんびり屋さんの植物が多い中、急速に種子を結ぶ、そのスピードには驚かされます。

上の写真は、ゼフィランサス ツビスパサの種子です。子房は三室に分かれていて黒く平たい種子がびっしり。50~80粒の種子が詰まっています。その種子の形状から、この植物は風の力を利用して種子を散布させることが分かります。これが、日本で生息域を広げる原動力になっているのでしょう。

ゼフィランサス ツビスパサは、この色合いから「copperlily(銅色のユリ)」ともいわれます。もともとは、ブラジル、アルゼンチン、パラグアイ、ウルグアイの亜熱帯気候の地に原生していた球根植物でした。耐寒性はなく、凍結に絶えられないので、今までの移入先は限定的でした。しかし、近年の温暖化で温帯に当たる日本の暖地でも生育が可能になったようです。来歴は不明ですが、東京の某所では、道端でも増殖中のようです。

この植物を私は、Zephyranthes tubispatha(ゼフィランサス ツビスパサ)と書きました。ところが多くの文献では、Habranthus tubispathus (ハブランサス ツビスパティス)と記していると思います。

気持ちが晴れないのは分かりますが、その疑問は、Rain lily(レインリリー)[後編]まで保留にしておいてください。それでは、次回をお楽しみに。

JADMA

Copyright (C) SAKATA SEED CORPORATION All Rights Reserved.