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Rain lily(レインリリー)[後編]

小杉 波留夫

こすぎ はるお

サカタのタネ花統括部において、虹色スミレ、よく咲くスミレ、サンパチェンスなどの市場開発を行い、変化する消費者ニーズに適合した花のビジネスを展開。2015年1月の定年退職後もアドバイザーとして勤務しながら、花とガーデニングの普及に努めている。
趣味は自宅でのガーデニングで、自ら交配したクリスマスローズやフォーチュンベゴニアなどを見学しに、シーズン中は多くの方がその庭へ足を運ぶほど。

Rain lily(レインリリー)[後編]

2024/08/27

Zephyranthes(ゼフィランサス)といえば、よく知られているのがタマスダレです。最近は、めっきり見かけなくなりましたが、昔から人里に咲いていた気がします。それは明治時代に渡来し、まとまった雨が降ると、一斉に白い花をたくさん咲かせます。レインリリーという名前が一般的に知られていないころから、日本になじんでいた植物でした。

タマスダレ

タマスダレZephyranthes candida(ゼフィランサス カンディダ)ヒガンバナ科タマスダレ属。病虫害と縁がなく、手入れをしなくてもよく花を咲かせるタマスダレは、南米ラプラタ川流域を原生としている常緑の宿根草です。その地域は、南緯34度付近にあります。北緯に直すと日本の中国地方から近畿地方付近と同じ緯度です。そこは、暑くも寒くもなる気象条件でした。日本と同じような気象条件に、タマスダレは生まれ育ったのです。

タマスダレの種形容語のcandidaとは、ラテン語のcandidus=「純白」を意味し、この花色を表します。花の大きさは3~4cm、上向きに花を咲かせていることに注目しておいてください。今までの分類では、この上向きに花を咲かせるという特徴が、近縁種であるハブランサスとの相違点の一つとされてきました。

右上の写真、ピンクの花は、ハブランサス ロブスタスHabranthus robustusヒガンバナ科ハブランサス属とされてきました。横向きに咲くその花容(かよう、花の形)を、タマスダレと比較してみましょう。今まではタマスダレのように花が上向きになるのは、ゼフィランサスとされ、横向きがハブランサスだったのです。

ゼフィランサス ツビスパサ

以前からハブランサスとゼフィランサスは、別属として区別されてきました。ところがです。分子分類学の研究によって、二つの属を区別する根拠がないことが分かり、2019年にハブランサスをゼフィランサスに含むことが、現代植物分類学の集団知になったのです。私がレインリリー[前編]でゼフィランサス ツビスパサの名前で紹介していたゆえんです。こうした新知識は、過去の文献や標本に記載された名称を否定するものではありません。新しいコンテンツを作る場合、新しい知見に基づき使用するものだと思います。

Zephyranthes robusta synonym Habranthus robustus(ゼフィランス ロブスタ シノニム ハブランサス ロブスタス)の花は愛らしい花色をしていて、pink fairy lily(ピンクの妖精ユリ)との別名もあります。シノニムとは同義語という意味です。そして、レインリリーの中でも花が大きく、7cm程度と見ごたえがあり、まるで小さなアマリリスのような植物です。種形容語のrobustusは、ラテン語で「強健な」「丈夫」といった意味を表します。

このゼフィランサス ロブスタは、南米のブラジル、アルゼンチン、ウルグアイの亜熱帯気候に生息している植物です。耐寒性が弱いので、冬季は寒さからの保護が必要なのですが、黒い種子を子房3室にたくさん付け、種子からの繁殖も可能です。

ゼフィランサス カリナータ

レインリリーの中でも有名なのが、ゼフィランサス カリナータZephyranthes carinataヒガンバナ科タマスダレ属だと思います。花が6cm程度と大きく、花色が美しく、丈夫で、まとまった雨が降ると1年のうちに何度も花を咲かせるところが、人気の品種です。

この植物、サフランモドキという和名があるのですが、アヤメ科クロッカス属のサフランとは植物的なつながりがまったくなく、似てもいません。江戸時代、日本に導入されたときにサフランと呼ばれたといった経緯があるとはいえ、ふさわしい名前とは思えないのです。この植物記では、ゼフィランサス カリナータとします。

ゼフィランサス カリナータの種形容語のcarinataとは、脊梁(せきりょう、背すじ)のあることを表します。観察していると、稔(ねん)性が低いので種子で増えている様子はなく、帰化は限定的です。原生地は、メキシコ、中央アメリカ等とされますが、耐寒性や環境耐性があります。そして、球根が分球することによって栽培から逸出し、一部で野生化しているようです。

ゼフィランサス カリナータの中国名は、「韭蘭」や「韭蓮」といいます。これは、葉がニラのようで、ランやハスのように美しく香りがあるという意味を見たまま、漢字にしたようです。上の写真は、一度咲いた後、再び花芽が立ち上がっている様子を撮影しました。他のレインリリーと同じく、花が咲いている期間は短いものの、まとまった雨が降ると何度か開花します。

ゼフィランサス ツビスパサが群落を作っていた道端の空き地。その近くに、上の写真の花を見つけました。最初は色が濃いのですが、徐々に花色が薄くなりレモン色になります。この植物は、稔性があり自由に種子を飛ばしていました。

ゼフィランサス シトリナ

ゼフィランサス シトリナZephyranthes citrinaヒガンバナ科タマスダレ属。種形容語のcitrinaは、ラテン語でこの花色である「レモン」を表します。英語ではYellow rain lilyと呼ぶようです。この植物は、メキシコから中央アメリカ、カリブの島々など亜熱帯気候に生育しているのですが、温暖化の影響で日本の暖地では、野放し状態で自生しているようです。

中南米の草原に生えていて、東アジアにも分布を広げている、西風の神ゼフィランサスたち。それは、雨という呪文で、花を咲かせる魔法のお花。花を咲かせたら、すぐに草むらにかくれんぼ。Rain lilyは、そんなことを何度も繰り返すおかしな植物たちでした。

次回は、レインリリー同様に南北のアメリカ大陸が起源で、東アジアに自生しているマツヨイグサ属のお話です。お楽しみに。

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