小杉 波留夫
こすぎ はるお
サカタのタネ花統括部において、虹色スミレ、よく咲くスミレ、サンパチェンスなどの市場開発を行い、変化する消費者ニーズに適合した花のビジネスを展開。2015年1月の定年退職後もアドバイザーとして勤務しながら、花とガーデニングの普及に努めている。
趣味は自宅でのガーデニングで、自ら交配したクリスマスローズやフォーチュンベゴニアなどを見学しに、シーズン中は多くの方がその庭へ足を運ぶほど。
ゴマ科とその近辺[後編]
2024/11/26
ゴンドワナ大陸の分裂に伴い、アフリカから分かれたマダガスカル。そこにはアフリカを起源としながら、太古から遠く離れた島であるため、独自の進化をした動植物が多いことを、さまざまなメディアを通じて私たちは知っています。大陸の乾いた草原を起源とするゴマ科の植物も、同じ運命をたどりました。この大きな島には、前回の後半に紹介したゴマ科植物の「ライオンゴロシ」という植物に負けない面白い果実を付ける植物群があります。
ウンカリーナ グランディディエリUncarina grandidieriゴマ科ウンカリーナ属。属名のUncarinaとは、フック(かぎ型のもの)を意味するギリシャ語の「unca」が由来です。種形容語のgrandidieriは、フランス人で19世紀にマダガスカルを探検した、Alfred Grandidier(アルフレッド・グランディディエ、1836~1921)に献名されています。
ゴマ科ウンカリーナ属は、このウンカリーナ グランディディエリをはじめ、全14種。その全てが、島の乾燥林や茂みで独自に進化した固有種です。乾燥の大地に生えるため、茎や根に水をため込む形状(コーデックス)の植物の一つでもあります。ウンカリーナ グランディディエリは、ほとんど枝分かれしない落葉の低木です。紫色の花茎や葉に軟毛が生えていました。花はご覧の通りの黄色で筒状、喉元が赤紫でゴマと同じ1日花です。大きさは5~6cm程度で、先端は浅く5裂しています。
この植物を世界的に有名にしているのは、そのおかしく恐ろしい果実の形状ゆえだと思います。上の写真には若い果実が写っているので、その「ウニ」みたいな実を確認しましょう。かわいいからと思わず触れては、いけません。そのとげ状の突起には、悪魔のような罠が仕組まれているので取り扱いに注意です。
ウンカリーナ グランディディエリの果実は、成熟して乾燥すると上の写真のような形と大きさになります。かわいい見た目に反してとっても危険な果実ですから、決して手に取ってはいけません。私は、そのことをよく分かっている人間ですが、それでも恐る恐る手に取りましたので、決してまねはしないでください。
果実は、木質で横方向に平らな卵型状をしていて先端はくちばし状です。表面には2種類のとげがあります。一つは、短く鋭いやり状のとげ。二つ目が長くて四方八方に伸び、硬いのに柔軟性がある、銛(もり)状のとげです。
この銛状の先端を拡大してみました。それは、先端が丸みを帯びていて、優しい触り心地です。ところが離そうとすると四方に付いている鋭い「返し」が、毛や繊維などいたるところへ巧みに引っかかります。それをはずそうとすればするほど、柔軟な銛状のとげと「返し」が邪魔をして容易に離れないのです。知恵のある人間でも外すのは至難です。手の機能が発達していない動物にそれが付着したら大変です。その果実が、壊れるか、朽ちるかして、果実の中に秘められたウンカリーナの種子が拡散して行くのでした。
アフリカの「ライオンゴロシ」と共に「devil’s claw(悪魔の爪)」と呼ばれるのが、ツノゴマ科の植物が付ける果実です。ツノゴマ科は、南北アメリカ大陸に生息していて、植物体の形状がゴマ科に似ているのでクロンキスト分類体系では、ゴマ科に分類されていたことがあります。
キバナツノゴマIbicella lutea(イビセラ)ツノゴマ科イビセラ属。モコモコのフリースを着た私の腕に引っ付いているのが、キバナツノゴマの果実です。そのサイズ感は、腕を覆うほどで、ツノの長さがわかります。属名のIbicellaとは、ラテン語でヤギを表す「ibex(アイベックス)」が由来とのことです。種形容語のluteaとは、ラテン語で黄色のことで、この植物の花色を表します。この果実は、草食動物が若い果実を食べたり、この果実の上を通った際に、このように引っ付くのだと思います。
獣に果実が付着すると、乾燥した果実の中央の隙間から中身の種子がこぼれ落ちます。徐々に少しずつ振りまくことで、広い範囲に種子が拡散されるのです。このキバナツノゴマの果実は結構な大きさですが、熊やバファロー(水牛)はもっと巨大なので、このような大きさと形状の果実に進化したのでしょう。
さて、今度は植物的にはゴマ科やゴマ属とは関係がないのですが、ゴマ○○○○と呼ばれる植物です。植物のことが好きな人や、植物分類などに興味のある人なら、その名前は聞いたことがあるに違いありません。でも、その植物の姿を見たことがある人は少ないでしょう。なぜなら、一つ目に生息数が少ないこと、二つ目は特に目立つ植物でないことが理由だと思います。
ゴマノハグサScrophularia buergeriana(スクロフラリア ビュルゲリアナ)ゴマノハグサ科ゴマノハグサ属。ゴマノハグサ科は、今まで園芸種として有名なキンギョソウ属、ジギタリス属、ウンラン属、カルセオラリア属を含むとても大きな分類上の科(ファミリー)だったので、多くの方が、ゴマノハグサ科という分類名を覚えました。その科と属の基準となる種が、ゴマノハグサという植物でした。現代の分子分類体系において、キンギョソウ属はオオバコ科に移され、多くの属がゴマノハグサ科に属さなくなりましたが、それでもいまだに50属以上2000種以上を要する大家族。その大家族の名を背負うのが「これ」です。
ゴマノハグサは、日本、朝鮮半島、中国等、東アジアの湿った草原や湿地に原生する多年草です。ゴマと同じように直立して育ち1メートル程度に育ちます。花は夏に開花するのですが、小さな黄緑色をしていて目立ちません。草原や草むらの緑に紛れて探し出すのは難しく、見る機会が少ない植物だと思います。
上の写真がゴマノハグサの花です。小さな黄緑色の筒状花ですが、ゴマ科との類似性は見当たりません。ゴマノハグサの属名のScrophulariaとは、頸部(けいぶ)リンパ節炎(scrofula)という病気の治療に、この草が生薬として使われたことに由来します。種形容語のbuergerianaとは、シーボルトの助手であったHeinrich Burger(ハインリヒ・ビュルゲル、1804~1858)に献名されています。彼はドイツ生まれの生物学者で、薬剤師でもありました。
正直に言って、ゴマノハグサの葉は、ゴマの葉に似ていません。なぜ、ゴマノハグサがゴマノハグサといわれるのかはよく分かりませんでした。ゴマを巡る植物記の落ちが不明とは情けない気もしますが、ゴマとその身の回りについて理解が深まったら幸いです。
次回は、木へんに秋と書く植物「トウシュウ(唐楸)」とその仲間たちのお話です。お楽しみに。
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