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アカネ科[前編] クチナシ

小杉 波留夫

こすぎ はるお

サカタのタネ花統括部において、虹色スミレ、よく咲くスミレ、サンパチェンスなどの市場開発を行い、変化する消費者ニーズに適合した花のビジネスを展開。2015年1月の定年退職後もアドバイザーとして勤務しながら、花とガーデニングの普及に努めている。
趣味は自宅でのガーデニングで、自ら交配したクリスマスローズやフォーチュンベゴニアなどを見学しに、シーズン中は多くの方がその庭へ足を運ぶほど。

アカネ科[前編] クチナシ

2025/01/14

皆さまは、本年もさまざまな正月料理をお召し上がりになったことでしょう。年の初めに食べる料理には、それぞれの意味や歴史があって、縁起を担ぐものが多いと思います。今回は、その定番料理の一つ、「きんとん」にちなむ植物のお話です。

子供のころは、正月の準備にサツマイモをゆでて、裏ごしをかけるのがお手伝いの一つでした。芋の繊維が裏ごしの網に詰まるので、かなり面倒な仕事です。そのサツマイモをゆでるとき、クチナシの実を入れないと鮮やかな色の「きんとん」になりません。金運にちなんだ料理なので、きれいな黄色でないといけません。

もう一つ、クチナシの実を使う、有名な料理の紹介です。絞りダイコンを買ったのですが、鮮やかなたくあん色に染めたいと思い、クチナシの実を使って漬け直し、何ともきれいな黄色に染まりました。クチナシの色素は、サフランと同じものとされています。

暖地の照葉樹林に生えるクチナシの木を森の中で見つけるのは、まれなことです。タイミングよく開花期に出会えば、クチナシと見分けられますが、花が咲いていないと他の照葉樹に紛れて、見つけるのは難しいです。

それでも冬になると果実が朱色に染まるので、クチナシはよく目立ちます。その実に包丁を入れて水にさらすと水溶性の黄色いカロテン色素が染み出てきます。この実は、食用色素としての用途の他にサンシシ(山梔子)と呼ばれる生薬の一つでもあります。

クチナシ

クチナシ属は、アジアをはじめアフリカ、オーストラリア、太平洋の島々に原生し、120種を越える多くの種属を分布させています。この標準種となるのが、皆さんもよく知っているクチナシGardenia jasminoides(ガーデニア ジャスミノイデェス)アカネ科クチナシ属です。それは、東南アジアから中国を経て、東アジアに生息しています。

クチナシの属名のGardeniaは、Garden(庭、庭園) とは何の関係もなく、人の名です。その名は、Alexander Garden(アレクサンダー・ガーデン、1730~1791)といいます。彼は、クチナシには何も関係のないスコットランドの博物学者です。

Jasminoidesという種形容語は、ジャスミンに似たという意味なのですが、この命名を巡り、一悶着(ひともんちゃく)ありました。ジャスミンの仲間だとする意見と、今までにない新種だとする博物学者John Ellis(ジョン・エリス、1710~1776)らの論争でした。エリスは、Carl von Linne(カール・フォン・リンネ、1707~1778)に標本を送り、新属と特定し命名しました。その際、エリスとリンネ共に文通関係にあったアレクサンダー・ガーデンに敬意を表し、属名を献名したのでした。

クチナシの白い花~♪と歌にもありますが、クチナシの白い花は、すぐに色が変わってしまいます。たぶん、この黄色がクチナシの本質のような気がします。色の他に香りが強いのがクチナシの長所であり、誰が選んだか三大香木の一つとされています。それは、night smelling flowers(特に夜に強く香る植物)として世界的に人気があります。

自然界では、照葉樹下の低木として薄暗い環境に生育するクチナシですが、日当たりのよい環境で育てると、多くの花を付けます。野生種は一重ですが、花が大きく、八重咲きの品種が選抜され、親しまれています。花のボリュームがある八重咲きは魅力的ですが、八重咲きからはあの果実は採れません。

クチナシは、数あるクチナシ属の中でもその北限に分布する種です。日本の太平洋岸では、静岡県、日本海岸では福井県以西に生息すると資料にありますが、その地域で私は野生種を見たことがありません。やはり、熱帯起源の植物ですので、九州、沖縄などに多く、南西諸島に生えているのを確認しました。

クチナシの開花は、6~7月の梅雨時です。葉にはツヤがあり、対生で皮質です。花弁は6~8枚あり、雄しべは花冠(かかん)の数と同じで、雌しべは1本でこん棒状です。果実は、冬に熟します。その果実に穴がないのが「クチナシ」となった由来とのことですが、いろいろ説があるようです。

クチナシの果実の中には平たい種子がびっしり。種子を数えてみましたが、120粒ほどありました。観察しているとヒヨドリがやってきて、力任せに果実を引きちぎり、中身を飲み込んでいました。あまりおいしくない中身ですが、生薬にもなるクチナシの実は、鳥たちにも利益があるのだと思います。カキ(柿)などのおいしい秋の実が減る中で、鳥たちの食料は少なくなりました。クチナシたちは、おなかの減った鳥たちの胃袋を経て、種子が拡散されていくのでした。

次回、「アカネ科[中編]」では、ほかのクチナシ属とクチナシに近縁とされるアカネ科の植物記です。お楽しみに。

JADMA

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