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アカネ科[後編] ヤエヤマアオキとギョクシンカなど

小杉 波留夫

こすぎ はるお

サカタのタネ花統括部において、虹色スミレ、よく咲くスミレ、サンパチェンスなどの市場開発を行い、変化する消費者ニーズに適合した花のビジネスを展開。2015年1月の定年退職後もアドバイザーとして勤務しながら、花とガーデニングの普及に努めている。
趣味は自宅でのガーデニングで、自ら交配したクリスマスローズやフォーチュンベゴニアなどを見学しに、シーズン中は多くの方がその庭へ足を運ぶほど。

アカネ科[後編] ヤエヤマアオキとギョクシンカなど

2025/01/28

アカネ科植物で最も知られる属を見てきましたが、なんとこのファミリー(科)は、熱帯・亜熱帯域を中心として600属、1万種(しゅ)以上の大家族らしいのです。クチナシやコーヒーノキをご存じの方は多いと思いますが、1万種に及ぶアカネ科植物の全容を知ることは不可能に違いありません。温帯域にもアカネ科植物は生息していますが、その話は別の機会にしたいと思います。今回は、東アジアや日本の亜熱帯域に原生するアカネ科植物のいくつかを紹介していきます。

ヤエヤマアオキ

ヤエヤマアオキMorinda citrifolia(モリンダ シトリフォリア)アカネ科ヤエヤマアオキ属。ヤエヤマアオキの名は、聞き慣れないかもしれませんが、ハワイ語で「Noni(ノニ)」と聞けば、ご存じの方もいらっしゃるでしょう。体によいとのことで、「ノニジュース」という飲み物を飲んだことがありますが、残念ながら、私の口には合いませんでした。属名のMorindaは、「桑の果実に似た」という意味を持っています。

ヤエヤマアオキは、オーストラリア、東南アジアから東アジアの熱帯・亜熱帯地域の海岸付近に広く見られる常緑樹で、私が見たのは2m程度の低めの木でした。多くが太平洋の赤道付近にある島々に生息していて、日本の沖縄県が分布の北限域です。研究者によると、この植物は、インドネシアとニューギニアの間にあるモルッカ諸島が発生の起源とされ、実の中に空洞を持つことから浮力があり、海流によって分布域を広げたと考えられています。

ヤエヤマアオキの種形容語のcitrifoliaとは、「かんきつ類の葉」という意味です。その葉は、海浜植物らしく、塩分を防ぐためにクチクラ層が発達してツヤツヤ。ヤエヤマアオキという和名は、葉の形と大きさが温帯林に生えるアオキAucuba japonicaのようであり、日本では沖縄県八重山諸島などに生息することが由来とされています。

ヤエヤマアオキの花は、コーヒーノキのそれに似ています。白い花の大きさは2cm程度。花は、一つ一つが独立して咲くのですが、子房が集まってこの形になります。この果実の形状こそヤエヤマアオキ独特のものなのです。その大きさは5cm程度です。

ヤエヤマアオキの根からは黄色の色素が取れ、染色に利用するようです。緑色をした果実は白く熟し、太平洋の島々では、貴重な自然の恵みとして盛んに利用されています。しかし、そのエビデンスには不明なことが多く、日本での利用は推奨されていません。

ギョクシンカ

次は、沖縄北部、石灰岩地帯の林の中で見かけた植物です。ギョクシンカTarenna kotoensis(タレンナ コトエンシス)アカネ科ギョクシンカ属。属名のTarennaとは、スリランカの言語、シンハラ語が由来です。属名のkotoensisとは、「古都に産すること」を意味します。この古都とは、日本の古都ではなく、台湾南部の都市「恒春(ヘンチュン、こうしゅん)」のことで、そこでギョクシンカが発見されたことに由来します。

種形容語のkotoensisの命名者は、台湾植物の父といわれる早田文蔵(はやた ぶんぞう、1874~1934)です。この植物は、日本の九州中南部から南西諸島に見られるのですが、亜熱帯森林にひっそりと生息するため、他の植物学者の目にとどまらなかったのでしょう。

ギョクシンカ属も多くの種属を持ちますが、分布の北限種がこのギョクシンカです。世界再最北限のサンゴ礁を持つこの国土は、植物の世界でも分布の北限種を多く持つのです。ギョクシンカの和名は「玉心花」です。よく見るとアカネ科を代表するコーヒーノキに花が似ていました。

上の写真は、中国南部で見つけた、アカネ科ムサエンダ属の植物。おそらくコンロンカMussaenda parviflora(ムッサエンダ パルビフローラ)または、ケコンロンカMussaenda pubescens(ムッサエンダ プベスケンス)だと思うのですが、自信がないのでMussaenda sp.としておきます。実は、コンロンカ属の北限種が屋久島から南に分布しています。この属の特徴は、低木で花が筒状で5裂、がく片が花びらのように発達して、色づくのです。

ヒゴロモ コンロンカ

『アカネ科[後編]』の最後に、ムサエンダ属の特徴的な種を少し紹介しておきます。ヒゴロモ コンロンカMussaenda erythrophylla(ムッサエンダ エリトロフィラ)アカネ科ムサエンダ属。属名のMussaendaは、スリランカで使われているシンハラ語由来で、種形容語のerythrophyllaは、ギリシャ語で「赤い葉を持つ」という意味です。本種の原生地はアフリカのコンゴなどです。

ムサエンダ フィリピカ

ムッサエンダ フィリピカMussaenda philippicaアカネ科ムサエンダ属。フィリピンなどに生息する種で、2mほどの常緑低木です。特に大きく発達したがく片が、白またはピンク色に色づいているのが特徴です。

私たちにはあまり知見のないアカネ科…。ヤエヤマアオキ属は40種ほど、ギョクシンカ属が200種以上、ムサエンダ属も200種以上が熱帯・亜熱帯域に生息していました。アカネ科の多種性と多様性には、まったくあきれてしまいます。この植物記は、その一辺をのぞいてみました。

次回は、何となく愛嬌(あいきょう)のある名前に親しみを覚える 「ボケとノボケ」のお話です。お楽しみに。

JADMA

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