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小杉 波留夫
こすぎ はるお
サカタのタネ花統括部において、虹色スミレ、よく咲くスミレ、サンパチェンスなどの市場開発を行い、変化する消費者ニーズに適合した花のビジネスを展開。2015年1月の定年退職後もアドバイザーとして勤務しながら、花とガーデニングの普及に努めている。
趣味は自宅でのガーデニングで、自ら交配したクリスマスローズやフォーチュンベゴニアなどを見学しに、シーズン中は多くの方がその庭へ足を運ぶほど。
ボケ属
2025/02/04
2025年の2月3日は、暦の上では立春でした。まだまだ寒いですが、確実に日照時間が延びている実感があります。冬至のころ、東京を目安にすると日の長さは約9時間30分でしたが、今ごろは10時間ほど明るい時間となりました。春の予感には気が早い感じもしますが、植物たちの蕾も膨らんでいるように思います。
クサボケ
早春に近所の畑の土手が、オレンジ色に染まります。クサボケ(草木瓜)Chaenomeles japonica(カエノメレス ジャポニカ)バラ科ボケ属。種形容語のjaponicaは、ご存じ日本に産するという意味です。クサボケは、日本の野に原生する種(しゅ)で、ノボケとも呼ばれる天然ボケです。
土手一面にクサボケが咲いている景色は、なかなか見応えがあります。この場所のクサボケは、茎が地を這(は)い、野に緋毛氈(ひもうせん)を敷いたようなパフォーマンスを示します。秋に草刈り機でススキなどを刈り込んだ時に、クサボケの伸びた部分も一緒に刈られたのでしょう。
ボケ属は、東アジアに固有のとげを持つバラ科の落葉低木です。主に、日本に原生するクサボケを含み4種あるとされ、残りは大陸産です。上の写真のように瓜(ウリ)に似た果実を付けるので、漢字では「木瓜(ボケ)」と書きます。「木の瓜(モクカ、モケ)が転じて、ボケになった」と説明されているので、「惚け(ほうけ)」とは、何のゆかりもありません。それでも、何となく愛嬌(あいきょう)のある名前は親しみがあります。
気の早いクサボケは、 3月になると出葉し、同時に3cm程度の5弁花を咲かせます。ほとんどの花は朱色から赤色をしていて、雌しべ5本、雄しべ多数です。葉は、互生の楕円(だえん)形で鋸歯(きょし)があります。
クサボケは、山地に生える樹木ではありません。その生育環境は、よく日の当たる丘陵地の斜面や農耕地の土手やあぜ(畦)でした。この植物は、昔から人の手が入る里に生育環境があったのです。土手などに花を咲かせるクサボケは、草刈りされても生き残るために、地下茎をよく発達させるようになったのかもしれません。この形態こそ、他のボケ属と区別される特徴なのです。
地下茎で増えていくクサボケですが、何も手を入れないと、1m程度の枝を斜上させるか下垂させます。冬枯れの野にオレンジの花を咲かせるクサボケは、早春の風物詩の一つ。実は、ボケ属の中でも小さく、果径4cm程度です。
ボケ
クサボケに対し、全体的に大きいのが中国産のボケです。ボケ(木瓜)Chaenomeles speciosaカエノメレス スペシオサ)バラ科ボケ属。種形容語のspeciosaとは、「美しい」「華やか」「見栄えのする」という意味です。
ボケの野生種は赤や朱赤ですが、白やピンク、咲き分け株が選抜され、園芸種として昔から楽しまれています。ボケは剪定(せんてい)にも強く、手ごろな花盆栽になるので人気があります。日本への来歴は不明ですが、平安時代に持ち込まれたとのこと。時代背景から推測すると、遣唐使など大陸との交流によって日本に持ち込まれたのでしょう。戦国武将の織田信長は、家紋としてボケを紋章にしました。
ボケは、中国を南北に分ける秦嶺(しんれい)山脈がある南の東部各省から、南はミャンマーに至る暖地に生息する種です。落葉の低木ですが、小さいうちはやぶのように茂って生育します。大きなものでは2mを超える株を見たことがあります。
ボケは花付きがよく、開花盛期には株が花で覆われるほどです。これほど花を咲かせるボケですが、果実が鈴なりになっている姿を見たことがありません。
ボケ属は、5枚花弁で雌しべは花弁数と同じ、雄しべ多数なのですが、よく見ないと雌しべが確認できないので拡大してみます。
左上の写真の花には、雌しべと雄しべがあり、右上の写真の花には、雌しべが見当たりません。ボケ属は、両性花と雄花を付ける樹木だということが分かりました。
ボケ属の属名であるChaenomelesは、大きく裂けたリンゴを意味するようです。ボケの果実は5cm程度で堅く、渋みがあるので、生では食べられません。それでも、とてもよい香りがして、果実酒(ボケ酒)などに利用します。生食できないことやその香り、利用方法は、カリンに似ています。
果実を包丁で切ってみると、その形状やタネもマルメロやカリンに似ていました。
私は、マルメロやカリンとの近縁性がとても気になりました。というわけで、次回は、マルメロとカリンの植物記を書いてみようと思います。お楽しみに。