![外来の春咲き小球根植物[その2] ハタケニラとベツレヘムの星](../../image-cms/header_kosugi.png)

小杉 波留夫
こすぎ はるお
サカタのタネ花統括部において、虹色スミレ、よく咲くスミレ、サンパチェンスなどの市場開発を行い、変化する消費者ニーズに適合した花のビジネスを展開。2015年1月の定年退職後もアドバイザーとして勤務しながら、花とガーデニングの普及に努めている。
趣味は自宅でのガーデニングで、自ら交配したクリスマスローズやフォーチュンベゴニアなどを見学しに、シーズン中は多くの方がその庭へ足を運ぶほど。
外来の春咲き小球根植物[その2] ハタケニラとベツレヘムの星
2025/02/25
そういえば、前回のハナニラは、ハナニラ(アイフェイオン)属に分類するとか、トリスタグマ属に分類されるとか意見が分かれていました。
今回の植物記は、キバナハナニラという和名が付く植物から始まりますが、これにもいくつかのシノニム(複数の学名)があり、何属なのか議論があるようで、現在は、ハタケニラ属とするのが一般的なようです。
キバナハナニラ
どの種属になるのか?といった、大人の事情はともかくとして、早春に太陽のような色合いとチャーミングな花姿をしているのがこの植物です。キバナハナニラ Nothoscordum felipponei(ノトスコルダム フィリッポネイ)ヒガンバナ科ハタケニラ属。ハナニラ属と同じ、ウルグアイ、アルゼンチンなどに原生し、さまざまなシノニムを持つ植物です。ハナニラほど丈夫ではないですが、きちんと栽培管理をすれば、東アジアの地でも毎年咲いてくれます。
キバナハナニラの属名のNothoscordumとは、ギリシャ語で「偽りの」を意味するNothos+「ニンニク」を意味するScordumの合成語です。種形容語のfelipponeiとは、ウルグアイなど、南アメリカのフローラ研究に貢献した、植物学者Florentino Felippone(フロレンティーノ・フェリッポーネ、1852~1939)に敬意を表しています。
キバナハナニラは、ハナニラより細い根出葉を持つ多年草です。何よりこの鮮明な花色は、ハナニラ属にはない色合いだと思います。そして、比較的に降水量が多い地域に生息していて、粘土質の土壌に適応しています。ハナニラ属と同じく地下に鱗茎(りんけい)を作りますが、少し繊細な植物なので、周囲の草むしりや水やりなどには気を付けましょう。
ハタケニラ
ハタケニラ属は、いずれも新世界と呼ばれる、南北アメリカ大陸に全ての種(しゅ)が原生しています。ハタケニラ属には、きれいな花を咲かせる種がある一方で、強壮な増殖力を持ち、畑や花壇に入り込み、根絶が難しく、世界的に迷惑な雑草となった種があります。それが、上の写真の植物です。
ハタケニラNothoscordum gracile(ノトスコルダム グラシレ)ヒガンバナ科ハタケニラ属。種形容語のgracileとは、「痩せた」「細い」「きゃしゃ」という意味です。日本には、明治時代に観賞用として持ち込まれたらしいのですが、現代では農地や道路際、植え込みや花壇などに生える雑草として、よく見るようになりました。
ハタケニラは、英語でSlender False Garlicとも呼ばれます。それは「細長い偽りのニンニク」という意味です。この葉を千切りにしてもニンニクやニラのにおいがありません。逆に、花はよい香りがします。もともとは、南メキシコからホンジュラスなどの中米、ペルーやアルゼンチンなどの南米に原生し、日当たりのよい川岸や道路際などに生息していました。日本では、「ハタケニラ(畑韮)」と呼ばれますが、食用の根拠はありませんので、ご注意を。
当初は、ハタケニラの白くてかわいらしい鐘状の花に価値を見い出し、園芸利用されたのだと思いますが、一度植え込むと次の年には驚くように増えてしまいます。疎ましくなって地上部だけを取り除いても、地下部で栄養繁殖をするために取り除くことができず、ハタケニラの楽園はますます広がり続けるのでした。
ハタケニラを庭から取り除こうとしてみましたが、親球根には小さな子供の球根がたくさん付いていて、掘り上げるとそれがバラバラに散らばるのです。その栄養体を土の中から完全に取り出すのはとても難しいです。周りの土ごと、フルイにかけて除去しないといけないと思います。そして、種子繁殖の能力も高いのです。そのような理由で、しばらくこの異国の植物は厄介な侵入植物として、日本に広がっていくのではないかと思います。
とはいえ、「おごれるもの久しからず」と申しますか、異国に故郷を持つ外来の植物たちにも、理由は分かりませんが、栄枯盛衰があるように思うのです。
上の植物は、英語で「Star of Bethlehem(ベツレヘムの星)」といわれる植物です。私が20代のころは、春になると道端や公園、ちょっとした空き地にたくさん花を咲かせていました。しかし、最近は見ることも珍しいほどになったと思います。あんなにたくさんの花を咲かせていたこの帰化植物は、どこに行ったのでしょう。
オーニソガラム ウンベラータム
その植物は、オーニソガラム ウンベラータムOrnithogalum umbellatumキジカクシ科オーニソガラム属。属名のOrnithogalumとは、ギリシャ語のornithos(鳥)+gala(ミルク)の合成語です。それは、比喩的な表現で、この属が美しい事を表現しているのだと思います。種形容語のumbellatumは、ラテン語でumbella(傘)のことで、この植物の花の咲かせ方を表します。このように花序が広がる形状を散形花序(さんけいかじょ)といいます。
ハナニラやハタケニラなどが新世界と呼ばれる南北アメリカ大陸の植物であるのに対し、オーニソガラム属の故郷は、旧世界と呼ばれる北西アフリカ、中央ヨーロッパを含む、地中海沿岸域に原生しています。新世界に産するハナニラ属と見た目が同じで、生えている場所も同じなので混同しそうですが、花序が違うので区別は容易です。
オーニソガラム ウンベラータムは、日本の野にも咲き、その和名はオオアマナ。食用にもなるアマナ(Amana edulis)に類するような命名ですが、有毒ですので注意しましょう。日本には明治に観賞目的に導入されました。それ以来、種子と旺盛な分球で、東アジアの地に野生化しました。近ごろは道端や公園の片隅で見掛けることも少なくなりましたが、春になったらぜひ、ハナニラと同じ6枚の花被を持つ「ベツレヘムの星」と呼ばれる植物を探してみてください。
次回は、これらの他に東アジアに移住した、春に咲く外来の小球根類たちについてです。お楽しみに。