![外来の春咲き小球根植物[その4] チリアヤメとミツカドネギ](../../image-cms/header_kosugi.png)

小杉 波留夫
こすぎ はるお
サカタのタネ花統括部において、虹色スミレ、よく咲くスミレ、サンパチェンスなどの市場開発を行い、変化する消費者ニーズに適合した花のビジネスを展開。2015年1月の定年退職後もアドバイザーとして勤務しながら、花とガーデニングの普及に努めている。
趣味は自宅でのガーデニングで、自ら交配したクリスマスローズやフォーチュンベゴニアなどを見学しに、シーズン中は多くの方がその庭へ足を運ぶほど。
外来の春咲き小球根植物[その4] チリアヤメとミツカドネギ
2025/03/11
ハナニラ、ハタケニラ、アノマティカなど春咲きの小球根たちも原生地の枠を越えて、グローバリゼーションのトレンドの中にいました。地球の裏側に生えていた植物が故郷を遠く離れ、私たちの身近で見られることは興味深いのですが、それがよいことか、悪いことか、議論があると思います。
今回は、チリ、アルゼンチン、ウルグアイなどの草原地帯に生息しているアヤメ科の外来春咲き小球根からスタートします。
チリアヤメ
チリアヤメHerbertia lahue(ハーベルティア ラフェ)アヤメ科ハーベルティア属。属名のHerbertiaとは、19世紀イギリスの国会議員、植物学者であったWilliam Herbert(ウィリアム・ハーバート、1778~1847)に献名された名です。属名のHerbertiaは、ハーバルティアやヘルベルティアとも発音されます。基本的にラテン語の発音は、自由に任されているのです。種形容語のlahueの意味は、不明です。
チリアヤメは、チリ、ブラジル、アルゼンチンなど南アメリカの草原地帯に原生しているアヤメ科の球根植物です。そのかわいらしい様子から、大正時代に観賞用園芸植物として導入され、現代でも球根が市販されています。
種子を多く付けるため、一度植え付けるとそれらの種子が、やがて庭やコンテナから飛び出して野生化したようです。その状況は、関東や東海地方でよく見られるのですが、私は山口県にある「きらら博記念公園」の芝生で、今回の写真を撮影しました。道端などでも見られますが、掘り返されない牧草地や芝生環境がお好みです。
チリアヤメは、英語で「Prairie Nymph(プレーリーニンフ、草原の妖精)」と呼ばれています。ニンフとは、若い女性の姿をしている、神と人の間にいる妖精のような存在だそうです。そんな花の妖精に、一度は会ってみたいものです。この植物の花は、なんとも幻想的な色合いで、飛行機のプロぺラのようにも見えます。
チリアヤメの花は、大きさ4cm程度、4~5月に咲く一日花で、花弁が3枚しかないように見えるユニークな姿です。アヤメ科などの花は、花弁とガクの区別がつかないので、区別をつけずに花被といいます。大きく淡い藤色の外花被3枚、その基部には濃い青色の斑紋と白色の中心部があります。そしてよく見ると、とても小さくて花被に見えないような、色濃い内花被3枚があり、合計6枚の花被です。
花被の中央部には、先が三裂している1本の雌しべと分かりにくい3本の雄しべがあります。
近年の国際化や温暖化で、これまで見られなかった植物が、身近に生えている昨今です。この草原の妖精と呼ばれる小さな植物を、皆さまの地域で見たことがあるでしょうか?次は、道端などのやや薄暗い樹木の下などで数多く見られる外来のネギについてです。
アリウム トリケトラム
アリウム トリケトラムAllium triquetrumヒガンバナ科ネギ属。園芸愛好家の皆さまには、流通名の「アリウム トリケトラム」になじみがあると思いますが、和名では「ミツカドネギ(三角葱)」と呼ばれています。ネギという名の通り、この植物を触ると、ネギやタマネギのにおいがします。
この植物は、スペイン、ポルトガル、イタリアなど南西ヨーロッパまたは、モロッコ、アルジェリア、チュニジアなど北アフリカをはじめとした地中海沿岸域に広く原生していて、現地では「wild onions(野生のタマネギ)」、 「white flowered onion(白花のタマネギ)」などさまざまな名前で呼ばれ、ハーブや野草として利用されているようです。
アリウム トリケトラムは、春になると、釣り鐘形で、すがすがしい白い花を咲かせるので、園芸種として日本に導入され、球根が市販されました。きれいな花だったので、私も喜んで庭に植えました。しかし、ハナニラやハタケニラ同様に種子と分球で増え、日本の気候にもよくなじんだために、今ではあちらこちらに自生している様子が見られます。
通常の春咲き小球根たちは、よく日が当たる環境を必要とするものが多いのですが、このアリウム トリケトラムは、あまり日の当たらない場所がお好みです。いつの間にか庭から逃げ出して、建物の日陰や木々の下などでも大きな群落を作ってしまいます。その繁殖能力は、雑草と呼ばれる植物たちに匹敵するものがありますが、憎めない美しさも持ち合わせているのがアリウム トリケトラムです。
アリウム トリケトラムの種形容語であるtriquetrumの説明です。花が咲いていたら花茎を切って確認してみましょう。その切断面は三角形をしています。ラテン語のTriquetrumは、「三つの角度を持つ」という意味があります。この花茎の形状から英語の別名は、「three cornered leek(三つの角を持つネギの仲間)」や「angled onion(角があるタマネギ)」などとも呼ばれています。さまざまな別名を持つということは、英語圏で広く親しまれている植物ということです。
アリウム トリケトラムは、種子繁殖をして地下部に貯蔵器官を作ります。それは、地中の葉に栄養をためる形態の鱗茎(りんけい)といいます。鱗茎は白色で丸く、周りに多数の子球根が付きます。球根から3枚程度が出葉し、草丈は20~30cm。三角形の花茎を40cm程度立ち上げて、てっぺんに白い花を咲かせるのでした。それにしても上の写真は、葉タマネギによく似ています。
このアリウム トリケトラム、おいしそうに見えますが、この植物が通常生えている環境を想像してみましょう。道端に生えていれば、犬が散歩していると考えます。庭や空き地に生えていても、そこには有毒なヒガンバナやスイセンなども混ざって生えています。食べて大丈夫という根拠がない他の草花もたくさん生えているはずです。そのような物を収穫すると、衛生上の問題や有毒植物の混入が心配です。害を及ぼす恐れもありますので、食用として栽培されている物以外は、取り扱いに注意の上、口にしないでください。
次回は、小球根と異なる、東アジアでよく見るようになった、気になる外来種についての植物記です。お楽しみに。