![気になる外来種[その2] ハゼランとタマザキクサフジ](../../image-cms/header_kosugi.png)

小杉 波留夫
こすぎ はるお
サカタのタネ花統括部において、虹色スミレ、よく咲くスミレ、サンパチェンスなどの市場開発を行い、変化する消費者ニーズに適合した花のビジネスを展開。2015年1月の定年退職後もアドバイザーとして勤務しながら、花とガーデニングの普及に努めている。
趣味は自宅でのガーデニングで、自ら交配したクリスマスローズやフォーチュンベゴニアなどを見学しに、シーズン中は多くの方がその庭へ足を運ぶほど。
気になる外来種[その2] ハゼランとタマザキクサフジ
2025/03/25
幕末から現代までに国の枠を越えて、人と物が行き交う中で、1000種を超える外来植物が日本に住み着いたそうです。その中には、おしゃれな色合いを持ち、かわいらしくてアイドルのような植物もありました。
ハゼラン
ハゼランTalinum paniculatum(タリナム パニキュラタム)ハゼラン科ハゼラン属。この植物は、カリブの島々を含む南北の亜熱帯熱帯アメリカに生まれ、世界の熱帯域に移入しました。現在は、温帯の東アジアまでに広がり、日本の道端などでも見られる植物です。
ハゼラン属は、南北アメリカ、カリブ海の島々などに10種以上が原生しています。この植物記では、ハゼラン(Talinum paniculatum)とサンカクハゼラン(Talinum fruticosum)を同種と見なして話を進めていきます。タリナムという属名の由来はつまびらかではありませんが、豊かさと開花をつかさどるギリシャ神話の女神Thaleia(タレイア)に由来するのだろうと考えることができます。種形容語のpaniculatus は、ハゼランの花の形状が円すい花序(かじょ)であることを表します。
なんともファンシーで、おしゃれなハゼランの花ですが、その花径は5mm程度の大きさしかありません。あまりに小さく、おまけに少しの間しか咲いていません。午後3時ごろに咲き始め、次々と咲くのですが、夕方にはしぼんでしまいます。それでも、人々はこの花に大変、魅了されるのです。英名の一つでは、「Three Time O‘Clock Angel(三時の天使)」と呼ばれ、愛されています。和名にはそんな情感がなく、ただの「三時草」と呼ばれています。そのピンク色の花弁は5枚、雌しべ1本、雄しべ多数で葯(やく)は黄色です。
ハゼランの葉は、広く滑らかでちょっと厚みがあります。その形状からハゼランには、Talinum crassifolium(タリナム クラッシフォリウム)というシノニムもあります。この種形容語のcrassifoliumは、ベンケイソウの葉という意味です。ハゼランの高温乾燥に強い性質は、多肉質の葉によるものだと考えられます。
世界に広がったハゼランは、実にいろいろな名前で呼ばれています。英語で、この花の色合いと雰囲気から「coral flower(サンゴの花)」や「jewels of opal(オパールの宝石)」などと呼ばれる反面、移入した地域では、「Ceylon spinach」「Philippine spinach」「Florida spinach」「lover´s vegetable(恋人たちの野菜)」などとedible(食用)に関する名前が並びます。spinachとは、ホウレンソウを意味します。
このハゼランは、観賞用として各地に移入されたのですが、生息域が拡大した熱帯の国々では、野菜として重宝され栽培されています。特に西アフリカのガーナ共和国、ナイジェリア連邦共和国、コンゴ民主共和国などでは、シチューやスープなどに加えられて盛んに食べられているようです。ミネラルやビタミンが豊富な反面、シュウ酸も多いので、日本では食用として利用されていません。
ハゼランの立場は複雑です。日本では道端の雑草、熱帯の国々では、栄養価の高い野菜、ガーデナーたちには園芸植物です。この植物、地域や人によって実に多くの名前が付けられていると記しました。もう一つ、「pink baby breath」という名前を紹介しておきます。それは「赤ちゃんの吐息」と訳すのでしょうか?いや、このハゼランが持つ雰囲気から、それは、「いとしい人の吐息」と訳することがふさわしいと思います。
次も、ハゼランに負けず劣らずファッショナブルな色合いを持っている植物です。
タマザキクサフジ
タマザキクサフジSecurigera varia(セキュリゲラ ヴァリア)マメ科セキュリゲラ属。この植物もクサフジのような葉と草姿、シロツメクサと同じように、花を頭状に付けます。
タマザキクサフジの学名は、この植物のグラウンドカバーとしての能力を表します。属名のSecurigeraとは「〜を確保する」「固定する」という意味です。種形容語のvariaとはvariabilis のことで、色や形などが「変わりやすい」「変化の多い」ことを表します。
タマザキクサフジは、イタリア、ギリシャなど地中海沿岸域と西アジアの国々に起源を持つ多年草です。成長速度は遅い反面、粘り強い根群と大地を覆う葉によって、道路ののり面や傾斜牧草地などで土地への浸食防止機能を持ちます。他に反すう動物の飼料に適する有用植物として、世界各地に導入されました。日本でも、同じ理由で使われ、各地に散らばって、道端などに住み着くことになりました。
タマザキクサフジの花を各地で見ると、個体群によって色彩がずいぶんと違うと見受けます。レンゲと同じようなファンシーな色合い。旗弁(きべん)と竜骨弁(りゅうこつべん)の咲き分けです。蝶形花(ちょうけいか)という1cm程度のマメ花が、10個ほど集まって約3cmの頭状となっています。葉の様子は、細かい小葉(こば)が15枚を越える奇数羽状複葉です。その様子は、先ほど書いたクサフジ属のようでもあります。
ビロードクサフジ
最後に、ビロードクサフジVicia villosa(ビシア ビルロサ)マメ科ソラマメ属です。こちらも地中海沿岸地域に原生するカラフルな外来種で、日本に住み着き「ナヨクサフジ」や「ヘアリーベッチ」と呼ばれています。前ページのタマザキクサフジは、このクサフジ類に似ていることから、「クラウンベッチ」という英名になっています。Vetch(ベッチ)とはソラマメ属のVicia由来の名前ですが、両方とも人には有毒とされています。きれいな花にも毒があるのでした。
次回も気になる外来種の続き、キクザキリュウキンカとオオケタデのお話です。お楽しみに。