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気になる外来種[その3] キクザキリュウキンカとオオケタデ

小杉 波留夫

こすぎ はるお

サカタのタネ花統括部において、虹色スミレ、よく咲くスミレ、サンパチェンスなどの市場開発を行い、変化する消費者ニーズに適合した花のビジネスを展開。2015年1月の定年退職後もアドバイザーとして勤務しながら、花とガーデニングの普及に努めている。
趣味は自宅でのガーデニングで、自ら交配したクリスマスローズやフォーチュンベゴニアなどを見学しに、シーズン中は多くの方がその庭へ足を運ぶほど。

気になる外来種[その3] キクザキリュウキンカとオオケタデ

2025/04/01

新しく日本に住み着く外国生まれの植物たちは、毎年10種を越えているそうです。日本のFlora(フローラ、植物相※)を理解しようとすると、そういった彼らを無視することはできず、植物を見るときにも世界的な視野が必要な時代となりました。

※植物相とは…特定の地域に生育する植物、その種類組成のこと。

街角でこんな花が咲いているのを見たことはありませんか?これは、1~2月の厳寒期に鮮やかで光沢のある花被を付ける早春の花、高山植物のようでもあります。

東京は世田谷、住宅地の一角です。古い建物が壊され、整地されて「売地」の看板がありました。その土地には、この植物だけがあちらこちらに花を咲かせているのでした。それは、ずいぶんと奇妙な光景です。きれいな花を付けるこの植物は、園芸的に持ち込まれ、強健な性質と繁殖力によって、原生地以外に北アメリカ、オーストラリア、ニュージーランドなどに広がり、日本にも住み着いた様子です。

キクザキリュウキンカ

その正体は、キクザキリュウキンカFicaria verna(フィカリア ヴェルナ)キンポウゲ科フィカリア属。「ヒメリュウキンカ」という別名もあります。Carl von Linné(カール・フォン・リンネ、1707~1778)は、キンポウゲ属としてRanunculus ficaria(ラナンキュラス フィカリア)と名付けたのですが、近年に発達した分子分類体系ではFicaria vernaとして、別属にされました。一方で、リュウキンカ属として「Caltha hiranoi(カルタ ヒラノイ)」というシノ二ム(別名)もあって、和名が「キクザキリュウキンカ(菊咲立金花)」になったのだと思います。しかし、リュウキンカ属ではないので、その名前に違和感を覚えます。

キクザキリュウキンカの属名Ficariaは、ラテン語で「イチジク」を表し、種形容語のvernaは「春」を意味しています。もともとは、英国、アイルランド、中央ヨーロッパから北アフリカ、コーカサスなどに広域分布している植物です。現地では、「Lesser Celandine(レッサー セラディン)」と呼ばれ春の象徴とされています。その語源は、小さなツバメを意味しているそうです。

キンポウゲ科のキクザキリュウキンカには花弁はありません。花弁に見えるのは、なんとがく片なのです。その大きさは5cm程度、花被の表面は、油を塗ったようにツヤツヤです。葉はロゼット状に展開する根出葉で、腎臓形をしています。この各パーツを観察するだけでは、繊細な山野草といった印象です。しかし、1株を堀上げて観察してみたら、なぜこの植物が雑草的に丈夫で広まっていくのか合点がいきました。

これが、キクザキリュウキンカの株を掘り上げた姿です。なんと、白い基部の下には太い根茎(こんけい)がありました。この太い根の形状が、イチジクの意味を持つ学名「Ficaria」の由来だそうですが、そのように見えるかどうかは微妙で、意見の分かれるところです。キクザキリュウキンカは、6月には地上部を枯らすのですが、この根茎の栄養で夏を乗り越え、秋の訪れとともに芽を出して、厳寒期に花を咲かせる多年草なのです。

その太い根茎の下には、小さくてジャガイモのような塊茎(かいけい)の集合体が見られました。キクザキリュウキンカは、原生地では氾濫原(河川の氾濫によって土砂のかく乱が起きた場所)などに大きな群落を作ります。地面が掘り起こされると、この小さな塊茎が散らばり広がっていくのだと推察します。

あの都会の売地にできた群落は、重機で地面をかき回し、整地した結果、このようなムカゴ(木子)が散らばった結果だったのでした。キクザキリュウキンカは、園芸植物として小さな枠に収まらない、タフな性質をもっています。

オオケタデ

次に紹介するのは、これ。私のお気に入りの一つで、子どものころは「アカマンマ」と呼んでいました。オオケタデPersicaria orientalis(ペルシカリア オリエンタリス)タデ科イヌタデ属。属名のPersicariaは、「桃に似る」という意味で葉の形状を説明しています。種形容語のorientalisは、「東方」を意味しています。英語圏でも、この植物には好意的で「kiss me over the garden gate」という長い通称名があります。直訳すると「庭の玄関からキスしてね」です。なんともロマンチックな名前です。

オオケタデは、カールリンネによってタデ(Polygonum)属に分類されたのですが、現代のタデ属は8属に分割され、Persicaria orientalis(ペルシカリア オリエンタリス)という学名になりました。私はタデ属だと、ずーっと思っていました。その原生地は、熱帯アジアや東南アジアとされているのですが、詳しいことは分からないようです。日本への渡来は江戸時代と古く、観賞用として栽培されたものが野生化した、外来種の草分け的存在なのです。日本の全国の道端や空き地、河原などに住み着いたのですが、群落を見たことがなく偶発的に生える様子です。

オオケタデは雄大な一年草です。発芽すると急速に成長して、茎を直立させいつの間にか人の背を越える丈に育ちます。茎などに細かい毛が多いことが和名の由来。花は茎のてっぺんに付け、下垂して長さ10cm程度の赤い穂(すい)状花序になります。オオケタデの様子を毎日観察することは、とても楽しく、ひと夏のよい思い出でした。外来の植物の中でも、私はオオケタデに「様」を付けて呼びたいくらい大好きです。それなのに、最近は姿を見かけないのが気になります。一体、あの「アカマンマ」たちは、どこに行ったのでしょうか?

次回は、全国で生息数が増えている「気になる外来種[その4] ブタナ」です。お楽しみに。

JADMA

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