タネから広がる園芸ライフ / 園芸のプロが選んだ情報満載

連載

【第2回】そもそも農薬ってなんだろう?

望田明利

もちだ・あきとし

千葉大学園芸学部卒。住友化学園芸研究開発部長として、家庭園芸薬品や肥料の開発普及に従事。現在は園芸文化協会理事、家庭園芸グリーンアドバイザー認定講習会講師などとして活躍中。各種園芸雑誌等に病害虫関係の執筆多数。自らも自宅でさまざまな種類の草花・花木などを栽培している。

【第2回】そもそも農薬ってなんだろう?

2022/01/18

一般的なイメージとして、農薬は危ない、毒であると思う人は多いと思います。では、農薬ってなんでしょう? と質問すると、的確に答えられる人は少ないものです。今回は、農薬とは何か、なんのために農薬を使うのか、について説明します。

【目次】
1. 農薬は植物のお薬です

2. どんな種類の農薬があるの?
 ①殺菌剤
 ②殺虫剤
 ③殺虫殺菌剤
 【コラム:殺虫剤プラス殺虫剤、どうして病気に効くの?】

1. 農薬は植物のお薬です

私たち人間は生きています。生きているため、病気にかかったり、けがをしたりします。私たちが大切に育てている植物も同じです。植物が枯れた、葉が食べられている、新芽が伸びない、葉が変形した、葉に褐色の斑点ができたなど、病原菌や害虫による被害に見舞われると調子が悪くなり、さまざまな症状が現れます。そして、その被害は食い止めないとどんどん広がっていき、隣の畑や庭にも影響が出てしまいます。

人間は具合が悪くなったら薬を飲みますよね。人間が使用する薬は医薬品と呼ばれていて、犬や猫などのペットや、牛、馬、豚などの動物や鳥類、魚類に使用する薬剤は動物用医薬品、通称・動物薬と呼ばれています。では植物はどうでしょうか。本来なら植物用医薬品、略して植物薬と呼ばれたらよかったのですが、農業用に使われるため、農業用薬剤、略して農薬と呼ばれるようになったようです。

医薬品、動物用医薬品、農薬

2. どんな種類の農薬があるの?

植物にとっての農薬が私たち人間にとっての薬と同じだということが分かっていただけたと思いますが、では農薬ってどんな種類があるのでしょうか。たくさんあって、自分が育てている植物に何が合っているのかを選ぶのが難しいですよね。いろいろな分類方法がありますが、今回は病気と害虫に対してどういう効果や作用があるのかに注目して、代表的な薬剤を紹介していきます。

①殺菌剤

殺菌剤は病気を退治する薬です。殺菌剤の種類は、病気にかかる前に使う予防薬と病気にかかってから使う治療薬に分けられます。

●予防薬

予防薬は病気にかかる前に植物に散布する薬剤です。植物の表面に薬剤の膜が作られるので、風で運ばれてきた胞子が発芽して病気に感染することを防ぎます。「ダコニール1000」、「オーソサイド(R)水和剤80」などは代表的な予防薬です。

糸状菌(かび)によって起きる病気は、湿度の高い梅雨期に感染しやすいため、この時期に数回まくことで発病を防ぎます。根こぶ病などの土壌病害(土の中の病原菌が根などに入って病気になること)に備えて、土を耕すときに事前に土に混ぜておく「ネビジン(R)粉剤」や「石原フロンサイド(R)粉剤」などもあります。

薬剤を散布しても本来の効果が表れにくくなることを抵抗性が付いたといいますが、予防薬は病原菌に対して抵抗性が付きにくく、効果が長く続きます。

糸状菌は多湿状態のときに感染しやすく、薬剤をまくタイミングは雨が降る前がよいのか、雨が上がった後の方がよいのか、いろいろな意見があります。雨が降ったときは雨が上がった後にできるだけ早くまくのがよいと思います。晴れているときはいつまいても構いません。

ダコニール1000

「ダコニール1000」(写真提供:住友化学園芸株式会社)

●治療薬

治療薬は病気にかかってから植物にまく薬剤です。治療薬を植物にまくことで、薬の成分が根や葉などから吸収されて植物体に移行していきます。薬剤をまいた植物に侵入したり、既に侵入している病原菌を退治します。斑点などができて変色してしまった部分の細胞が死滅するので、治療薬をまいても元通りの緑色の葉には戻りませんが、それ以上斑点が拡大したり増えたりはしません。

治療薬は効き方でグループに分けて考えることができます。その中でも家庭園芸でなじみのあるものを紹介すると、「ベンレート(R)水和剤」(有効成分名:ベノミル)、「トップジン(R)M水和剤」(有効成分名:チオファネートメチル)などのグループと、「STサプロール(R)乳剤」(有効成分名:トリホリン)、「サルバトーレ(R)ME」(有効成分名:テトラコナゾール)、「マイローズ(R)殺菌スプレー」(有効成分:ミクロブタニル)などのグループがあります。

治療薬は抵抗性が付きやすいので、同じものを連続して使うと効果が出づらくなります。商品名は異なっても、同じグループの薬剤は同じ効果を発揮するので同じ薬剤と考えます。グループの異なる殺菌剤と交代で使用してください。

②殺虫剤

殺虫剤は害虫を退治するための薬剤です。害虫の退治の仕方で、接触剤、食毒剤、浸透移行性剤、誘殺剤の4つに分けられます。購入したり使うときに知っておくと便利です。4つの分類を詳しく見ていきましょう。

殺虫剤の種類と作用、後述の本文参照

●接触剤

殺虫剤の多くは接触剤に属し、直接害虫にかけて退治する薬剤です。かけむらがあると効果が確実ではなくなります。薬剤のかからなかった害虫は生き延びて、すぐに繁殖を繰り返していくので、葉裏までていねいに散布することが大切です。「スミチオン(R)乳剤」、「トレボン(R)乳剤」、「ベニカ(R)S乳剤」などの薬剤があります。私たちになじみのあるゴキブリやカの殺虫剤のように、まいてすぐには効きません。農薬の場合は翌日に害虫が死んでいれば速効性があるといえるでしょう。

また、中には食品などからできた製品もあります。「粘着くん(R)液剤」(でんぷん)、「アーリーセーフ(R) 」(やし油)、「カダンセーフ(R)」 (食品添加物)などは、アブラムシなどの小さな害虫が対象で呼吸を阻害して退治します。人間でいう口と鼻をふさいで殺すようなイメージです。

トレボン(R)乳剤

「トレボン(R)乳剤」(写真提供:株式会社エムシー緑化)

●食毒剤

薬剤がかけられた葉などを害虫に食べさせて退治する薬剤です。ケムシ・イモムシの専門薬の「STゼンターリ(R)顆粒水和剤」があります。ケムシが本剤を食べると消化機能が正常に働かなくなり葉の食害が防げます。

STゼンターリ(R)顆粒水和剤

「STゼンターリ(R)顆粒水和剤」(写真提供:住友化学園芸株式会社)

●浸透移行性剤

薬剤の成分が根や葉から吸収され、植物全体に広がる薬剤です。植物を食べたり、汁を吸ったりする害虫を退治します。「オルトラン(R)粒剤」、「スターガード(R)粒剤」、「HJブルースカイ(R)粒剤」、「ベニカ(R)水溶剤」などがあります。製品および対象害虫によって異なりますが、アブラムシでは1カ月程度の長期間効果が持続します。草花類や野菜類には粒剤タイプが手軽に使用できます。しかし、庭木など樹高が高い植物の場合は根も深く伸びており、薬剤を吸収するのに時間がかかるため、効果がなくなってしまいます。そのため、庭木などには葉から吸収させるタイプのものを使用しましょう。

オルトラン(R)粒剤

「オルトラン(R)粒剤」(写真提供:住友化学園芸株式会社)

●誘殺剤

夜間に活動するネキリムシやナメクジ退治に使用する薬剤です。それら害虫が好む餌の中に薬剤を混入させたもので、食べさせて退治します。「ネキリベイト(R)」、「ネキリエース(R)K」、「ナメナイト(R)」などがあります。

2. どんな種類の農薬があるの?

③殺虫殺菌剤

殺虫殺菌剤は病気と害虫の両方を退治する薬剤です。一つの成分で病気と害虫に効果のある薬剤と、殺虫剤と殺菌剤を混合した薬剤とがあります。

●一つの成分で病気と害虫に効果のある薬剤

「アーリーセーフ(R)」、「カダンセーフ(R)」、「ベニカ(R)マイルドスプレー」は、葉の表面で繁殖する病気やハダニ、アブラムシなど小さな害虫を退治します。かけむらがないように葉先から滴り落ちる程度にたっぷりと散布してください。「兼商モレスタン(R)水和剤」は、うどんこ病のほかハダニ、ホコリダニ、サビダニなどに有効で、「サンヨール(R)液剤AL」は、うどんこ病、灰色かび病などの病気のほか、アブラムシ、コナジラミ、ハダニなどに効果があります。

カダンセーフ(R)

「カダンセーフ(R)」(写真提供:フマキラー株式会社)

●殺虫剤と殺菌剤を混合した薬剤

殺虫剤と殺菌剤を混合した薬剤は、ハンドスプレー剤に多く、水で希釈しても分解が起こりにくい成分が使用されます。殺虫成分にピレスロイド系殺虫剤かネオニコチノイド系殺虫剤、殺菌成分にエルゴステロール生合成阻害殺菌剤を使用している製品が多いです。ピレスロイド系殺虫剤は除虫菊から抽出したピレトリン、ネオニコチノイド系殺虫剤はタバコのニコチンに似た成分をもとにして作られた殺虫剤で、どちらも虫の神経を狂わせて退治します。エルゴステロール生合成阻害殺菌剤は、糸状菌の細胞膜を作る酵素を阻害するため生育できないようにして殺菌します。これらの殺虫成分は広範囲の害虫に効果があり、殺菌成分はうどんこ病や黒星病などによく効きます。有効成分については、次回詳しく説明します。

【コラム:殺虫剤プラス殺虫剤、どうして病気に効くの?】

ここまでで、殺虫剤は害虫に効果があり、殺菌剤は病気に効果があって、それぞれを混合した薬剤もあるというお話をしてきました。しかし、例外もあります。

「ベニカX(R)ガード粒剤」は浸透移行性で広範囲の害虫に効果のある薬剤と、チョウやガの幼虫であるケムシ、イモムシに効果のある薬剤の混合剤です。どちらも従来は害虫退治の目的で使われる成分なのですが、「ベニカX(R)ガード粒剤」は、害虫だけでなく、うどんこ病、灰色かび病、黒星病などの病気の登録がある不思議な薬剤です。病気に対する効果は、B.t.菌による「抵抗性誘導」という仕組みによるもので、B.t.菌が植物の根に刺激を与えると植物自体が抵抗力をアップして、病気にかかりにくい体質をつくります。薬剤が直接病原菌を殺菌するのではなく、植物の抵抗力を底上げする、ワクチンのような作用なので、病気の発病前、植え付け時などに予防として使うと効果的です。

今回は、農薬をなんのために使うのか、どういう効果のある農薬があるかについて触れました。

次回は、「農薬の成分は何でできているの?」です。農薬がどんな成分で作られているかに注目して詳しくみていきましょう。

注釈

防除薬剤は病害虫の効果だけで記載しております。使用の際は適用作物をご確認の上、ご使用ください。

この記事の関連情報

この記事に関連したおすすめ商品は、サカタのタネ オンラインショップでご購入いただけます。

■殺菌剤

●予防薬

●治療薬

■殺虫剤

●接触剤

●食毒剤

●浸透移行性剤

●誘殺剤

■殺虫殺菌剤

●一つの成分で病気と害虫に効果のある薬剤

記事内で紹介されている全ての商品が販売されているとは限りません。また、記事内で紹介していない商品もございます。ご了承ください。

JADMA

Copyright (C) SAKATA SEED CORPORATION All Rights Reserved.