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【第7回】農薬の希釈方法を知ろう!

望田明利

もちだ・あきとし

千葉大学園芸学部卒。住友化学園芸研究開発部長として、家庭園芸薬品や肥料の開発普及に従事。現在は園芸文化協会理事、家庭園芸グリーンアドバイザー認定講習会講師などとして活躍中。各種園芸雑誌等に病害虫関係の執筆多数。自らも自宅でさまざまな種類の草花・花木などを栽培している。

【第7回】農薬の希釈方法を知ろう!

2022/06/21

前回まで、防除したい病害虫や農薬の選び方などを解説してきました。今回は、水で薄める薬剤の散布液の作り方(希釈)を解説していきます。

【目次】
1. 農薬の製品ラベルを確認しよう

2. 必要な道具と希釈方法を知ろう
 ①計量容器などの使用器具を用意しよう
 ●粒剤
 ●水和剤
 ●乳剤
 ②希釈と混用の方法を覚えよう
 【コラム:希釈液はなぜ保存ができないの?】
 ●1つの薬剤のみを希釈する場合
 ●複数の薬剤を混用して希釈する場合
 ●その他の方法で希釈する場合
 【コラム:共洗いで容器もきれいに使おう】
 【コラム:展着剤とは何だろう?】

1. 農薬の製品ラベルを確認しよう

製品ラベルには注意事項が記載されており「効果・薬害等の注意」と「安全使用上の注意」に分けられます。

「効果・薬害等の注意」は、作物の生育や病害虫の発生状況、品種に対する注意、混用や使用量・希釈濃度など、病害虫に対する効果や作物に対する薬害などの注意事項が記載されています。

「安全使用上の注意」は、目や皮膚に対する影響、散布時の服装、散布後の対応、保管方法、急性毒性や中毒および治療法、カイコ・ミツバチ・水生生物、動植物など、人畜や環境に対する注意事項が記載されています。

これらの注意事項は有効成分や剤型によって定められています。例えば、希釈して多量散布する農薬と、ハンドスプレー剤などで少量散布する農薬は、どちらも霧状にして散布するため、同じ注意事項が記載されています。

また、自分の背より高い植物や一度に多量散布する場合は、特に記載内容を順守してください。使い慣れた薬剤でも、新たに購入したときはもう一度確認しましょう。

2. 必要な道具と希釈方法を知ろう

注意事項をしっかりと確認したら、必要な道具をそろえて、実際に希釈してみましょう。

①計量容器などの使用器具を用意しよう

●粒剤

粒剤の使用量は「1株当たり」や「平方メートル当たり」と書かれていることが多く、具体的な量がわからないことがあります。そんなときは、農薬用の市販の計量スプーンやデジタルはかりを別途用意するのが便利です。多少の誤差はありますが、5mLの計量スプーンすり切り1杯が5gに相当します。

●水和剤

希釈して使用する水和剤も、計量スプーンを使います。家庭園芸用であれば1袋を1Lの水に薄めるなどの分包された製品を選ぶと便利です。

●乳剤

乳剤などの液体製品は、計量カップが付属していたり、ボトルのキャップに1杯約7mLなどと表示されている製品が多いです。1~2Lの少量の散布液を作るときはキャップで量ることが難しいため、計量スポイト(ピペット)を使用しましょう。

左から、計量スポイト、計量スプーン、計量カップ

②希釈と混用の方法を覚えよう

希釈して使用する薬剤は、薬剤ごとに希釈倍数が異なります。製品ラベルの「適用害虫と使用方法」の一覧表で希釈倍数を確認しましょう。また、同じ薬剤でも病害虫や植物の種類によって希釈倍数が異なることがあるので注意します。

「スミチオン(R)乳剤」の適用害虫と使用方法の一覧表
※一部抜粋

希釈倍数が確認できたら、必要な薬剤量は希釈表や、希釈の計算ができる便利なアプリで確認することができます。

下の表の見方は、希釈倍数と水の量が交わる値が、必要な薬剤量(mLまたはg)になります。例えば、500倍液を2L作る場合、薬剤は4.0mL(g)を使用して水に混ぜます。その際、水と薬剤を均一に混ぜてくれる「展着剤」を最初に入れることが大切です。

希釈表

単位:乳剤・液剤・フロアブル剤…mL/水和剤・水溶剤…g

希釈計算アプリ「農薬希釈くん」
(出典元:バイエル クロップサイエンス株式会社)

希釈の注意点として、希釈した散布液はその日のうちに使い切ります。保存は利かないため、必要な分だけ計量して希釈します。 残ってしまった場合は、ラベルに適用作物として記載されている周囲の植物に散布するなどして使い切る、あるいは土にまいて処分しましょう。

また、容器の中に直接スポイトを入れて計量する場合、乾いた状態のスポイトを使用しましょう。容器の中に水が入ると、残っている薬剤が分解し、次に使用するときに効果がなくなっていることがあります。

これらを守って実際に作ってみましょう。希釈の手順は、混ぜる薬剤の種類によって異なります。

【コラム:希釈液はなぜ保存ができないの?】

「余った散布液を保管して、次回に使用してもよいか」という質問をよく聞きます。残念ながら、希釈した散布液は保存が利かないため、その日のうちに使用してください。薬剤を希釈すると、成分が徐々に分解してしまうからです。

では、希釈した薬剤をボトルに詰めたハンドスプレー剤は、数年間も成分の効果が持続するのはなぜでしょうか。答えは、ハンドスプレー剤には成分が分解しないように安定剤がたくさん入っており、長期間使用できるように工夫されているからです。

●1つの薬剤のみを希釈する場合

次の順に、水の中に入れてかき混ぜます。
1. 大容量の計量カップ(注ぎやすい口付きのバケツでも可)などの容器を用意し、必要な量の水を入れます
2. 水の中に規定量の展着剤を入れ、よくかき混ぜます
3. 使用する薬剤を規定量入れ、よくかき混ぜます
4. 噴霧器やスプレーボトルに移し替えます
5. 噴霧器やスプレーボトルのキャップをしっかりと閉めて、前後上下左右に振ってから散布します
移し替えるときには、柄杓やじょうごを使用すると手軽に行うことができます。

●複数の薬剤を混用して希釈する場合

「殺虫剤」と「殺菌剤」、「速効性の殺虫剤」と「残効性のある殺虫剤」など、防除目的や対象の異なる薬剤を混用して使用することもできます。別々に散布する手間が省けますが、中には混用できない薬剤もあるため、メーカーに確認しながら行いましょう。

混用は溶けやすい薬剤の順に、水の中に入れてかき混ぜます。混ぜる順番は「①展着剤(テ)→②乳剤(二)→③水溶剤・水和剤(ス)」の順で「テニス」と覚えましょう。

1. 大容量の計量カップ(注ぎやすい口付きのバケツでも可)などの容器を用意し、必要な量の水を入れます
2. 水の中に規定量の展着剤を入れ、よくかき混ぜます
3. 水に溶けやすい液体タイプの薬剤を規定量入れ、よくかき混ぜます
4. 粉末タイプの水和剤などの薬剤を規定量入れ、よくかき混ぜます
5. 噴霧器やスプレーボトルに移し替えます
6. 噴霧器やスプレーボトルのキャップをしっかりと閉めて、前後上下左右に振ってから散布します
移し替えるときには、柄杓やじょうごを使用すると手軽に行うことができます。

展着剤:水の中で薬剤が均一に混ざるようにする分散性があるため、最初に水に加えます
乳剤:液体タイプの薬剤。不溶性の薬剤が、容器や水の中で分離しないようにします
水溶剤・水和剤:粉末タイプの薬剤。成分が水に溶けにくいため、展着剤と乳剤の力で分散させます

【注意点】
・液体タイプ同士、粉末タイプ同士での混用は、片方の薬剤を入れてかき混ぜた後に、次の薬剤を入れます
・混用は2つの薬剤までに限定して行うのが望ましいです

●その他の方法で希釈する場合

できるだけバケツなどの容器で希釈液を作ることをおすすめしますが、噴霧器の容器で直接希釈することも可能です。噴霧器の容器で希釈する場合は、容量目いっぱいに希釈液を作るのではなく、最後に前後上下左右に振って均一に混ぜるためのスペースを確保してください。
1. 噴霧器に、必要な水の量の半分程度の水を入れます
2. 1つの薬剤のみを希釈する場合、混用して希釈する場合、どちらも同じ順番で薬剤を入れます。その都度、投入口をしっかりと閉めて前後上下左右に振ります。しっかりと閉めていないと散布液が飛び散るため注意しましょう
3. 残りの水を加え、同様によく振ってから散布します

【コラム:共洗いで容器もきれいに使おう】

希釈液を噴霧器に移し替える際に、容器の底に薬剤が残ることがあるでしょう。そんなときは「共洗い」という方法があります。
1. 希釈に必要な量の水1/3を大容量の計量カップ(注ぎやすい口付きのバケツでも可)などの容器に入れます
2. 水の中に展着剤、薬剤を順番に入れ、よくかき混ぜます
3. 噴霧器やスプレーボトルに移し替えます
4. 手順2で使用した同じ大容量の計量カップに、水量1/3を入れます
5. 底に残った薬剤をすすぐようにかき混ぜます
6. 噴霧器やスプレーボトルに移し替えます
7. 手順5から手順7までの工程を、もう1回繰り返します
8. 噴霧器やスプレーボトルのキャップをしっかりと閉めて、前後上下左右に振ってから散布します

【コラム:展着剤とはなんだろう?】

ツバキ、キャベツなど葉の表面がつるつるしている植物に薬剤を散布すると、はじいて流れ落ちてしまいます。展着剤自体には病害虫を退治する力はありませんが、主に次のような作用があります。

●付着作用
葉の表面に水玉を作らないように薬剤を広げ、付着させる作用です。葉によく付着するため、小雨程度では薬剤が流れにくくなります。

●分散作用
水の中で薬剤を均一にする作用があります。水和剤などよくかき混ぜたつもりでも、水の中で均一にならない場合があります。展着剤を入れ過ぎると逆に薬剤が流れやすくなるため、使用量に注意してください。

展着剤なし(左)と展着剤あり(右)の植物の様子
(写真提供:住友化学園芸株式会社)

以上、希釈の方法について紹介しました。希釈液の作り方についてはこちらでも確認できます。

次回は、農薬を上手に散布する方法と、散布後の保管方法の注意点などを解説します。

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