1959年生まれ。恵泉女学園大学人間社会学部人間環境学科教授。大学での指導のほか、NHK「趣味の園芸 やさいの時間」に出演、テレビやラジオ、講演活動を行い、雑誌や書籍の執筆など、多方面で活躍している。
──お祝いのメッセージをいただき、ありがとうございます。早速ですが、おふたりが「野菜作り」の仕事に携わるきっかけになったエピソードを教えてください。
藤田大学3年生の時に、どこの研究室に入るか進路を決めた時が大きかったかなと思います。実のところ専攻した「野菜」は第一希望ではなかったんですよ(笑)。でも、やりたかった育種の研究ができたのが面白かった。そのままこの道に進んでいます。
高木私は子どもの頃、神奈川県の厚木に畑があったのでよく親に連れていってもらっていたんですね。そこで自分のスペースをもたせてもらって、ダイコンやマメ類などを種から育てていたのを覚えています。その後農学部に進んで花の研究をし、サカタのタネ入社後には野菜の研究にも携わり、花も野菜も担当するようになりました。
──おふたりとも好きな分野に邁進してきたのですね。では、これから野菜作りを始めようとする方々に向けて、まずは心がまえから教えてください。
高木野菜作りは種をまいた時点で100点なんです。「よければ減点されません。草取りをさぼりました──マイナス1点、水やりを忘れました──マイナス1点……そして最後に何点残っているか、それが野菜作りですよ」と教えられたことがあります。一番やっちゃいけないのが「まあいいか」。管理の詰めが甘いとどんどんマイナスされて点数が低くなります。手間をかけたかどうかで、収穫の喜びの度合いも変わってくるかもしれませんね。
藤田野菜作りは種をまいておけば、だまってても収穫できるわけではないですからね。種まきから収穫まで、管理の面が一番大切です。それは苦しい作業かもしれません。でも、自分で収穫した野菜の味わいには、確実に「おいしさ」がプラスされます。たとえまずくったって、「おいしい」って感じるんですよ(笑)。
高木愛着が生まれますからね(笑)。その苦しいかもしれない、管理の作業が「家庭菜園の楽しみ」でもあるんですよね。ほかの趣味のように設計図通りにできるものではなく、気候に左右されやすいのでなかなか理想通りにはいかない。でも「よく台風に耐えたな」とか「よく日照りを乗り越えたな」とか、苦しみを乗り越えての収穫は、やはりかけがえのない体験になりますね。
藤田そうですね、私は収穫をしている人の顔を見るのが好きです。「よくできましたね、たいしたもんです!」と声をかけると、ニコニコとうれしそうな顔を見せる……そういう光景が大好きですね。
──それでは、野菜作りを始めるにあたって、まずそろえておきたい道具はなんですか?
藤田まずはクワ、ひも類、移植ゴテ、スコップ、ジョロ、園芸バサミ、支柱を用意しておきましょう。あとは防虫ネットやマルチなどの被覆資材、草刈りカマ、レーキ、ホーかな。
高木ホーは立ったまま雑草を削り取れるので、腰への負担が少なくなるのが便利ですね。
──初心者さんの場合、作付け面積はどれくらいを目安にしたらいいですか?
藤田20〜30平方メートルあれば、十分楽しめると思います。坪数でいえば、うーん…5〜10坪くらいかな。
──畑に通う頻度はどのくらいが適切でしょうか。やっぱり毎日通わなくちゃダメですか?
藤田毎日行かなくても、1週間に1回で大丈夫。それくらいの頻度で通えば、だいたい無農薬でも育つと思います。2週間に1回なら、農薬が必要になってくるかな。仕事をしている方なら、毎週末見に行く程度で十分ですよ。
高木1週間あけると、そこそこ大きくなったことがわかるので、その方が変化が見えていいかもしれないですね。毎日行くと目が慣れますから。
──どんな野菜を植えるかは、ある程度計画しておく必要がありますか?
藤田もちろんです。植物はナス科、ウリ科など科で分類されるのですが、同じ科に属する野菜を連続して植えると、連作障害が起こって病害虫が発生しやすくなるので、前もって作付け計画を立てておくことが大切です。具体的にいえば、最初に畑の敷地を5分割します。1区画をナス科、1区画をウリ科、といった具合に科でまとめて野菜を栽培します。次の年には場所をひとつずらして植栽する……というふうに毎年区画をずらしてローテーションを組めば、5年のスパンで科が回ってくることになるので、連作障害が起きにくくなりますよ。
高木畑で野菜を作る行為は、土からエネルギーを持ち出してしまうことになるんですよね。何かしらバランスがわるくなって「土が擦り切れる」という言い方をします。ですから、野菜を作ったあと、土にエネルギーを返してやることも大切です。土中に必要な微生物の働きを活発にさせるためにも、堆肥などの有機質肥料を入れるといった投資が必要ですね。天然有機質肥料「バイテク バイオエース」や「菌の黒汁」「連作障害ブロックW」など、近年は連作障害を起きにくくする資材が開発されているので、それらを上手に使いこなすといいですよ。
藤田連作障害は菜園家にとって悩みの種になりがちですから、それは心強いですね。
──たくさんの品種の中で、どれを選んだらいいのかわからないという意見もあるようなので、初心者さん向けのおすすめの品種を教えてください。
藤田発芽率が高くて、短期間でたくさん実る、おいしい品種がおすすめですよね。ミニトマトは断然、丈夫で育てやすい「アイコ」、キュウリならイボがなくてシャキシャキした食感の「フリーダム」、ナスは色つやよくやわらかい「黒福」、カボチャはコンパクトでたくさん収穫できる「栗坊」、ダイコンはミニサイズの「ころっ娘」、ニンジンはクセがなく甘みがある「ベーターリッチ」、ジャガイモだと人気の定番品種「男爵薯」かな。
高木茎ブロッコリー「スティックセニョール」が、やわらかくて甘みがあっておすすめ。カブの「あやめ雪」もおいしいですよ。
──コンテナ栽培の場合は、どんな品種がおすすめですか?
高木バジル、小ネギ、シソ、ミニセロリ、ルッコラなどの香味野菜がおすすめ。料理のたびに、ちぎって使える手軽さがいいですね。「スピーディベジタブル」といった小袋のラインアップが手軽ですよ。
藤田ホウレンソウだと「プラトン」、コマツナ「きよすみ」「浜美2号」、ミニサイズのハクサイ「タイニーシュシュ」、赤くて丸っこいラディッシュの「レッドチャイム」がおすすめです。これら以外にトマトやナスをコンテナ栽培する場合は、できるだけ土の量を確保してほしいですね。トマトだと丈が2m以上になりますから、ガーデニングで草花を育てる感覚とはちょっと違います。野菜専用のコンテナを使うのもいいですね。
高木コンテナのサイズを考えるなら、根は縦に伸びるので、深さ30㎝以上はほしいですね。土の量が少ないとすぐに水切れを起こして、水やりも大変です。
──2007年頃から家庭菜園ブームが起こって以降、現在ではすっかり定着した印象ですが、何か変化を感じますか?
藤田そうですね、需要が高まった分、品種が多様になったし、便利な資材もたくさん開発されたと思います。
高木便利な資材といえば最近発売された、低日照や低温などの気象条件に恵まれない場合に、成長促進の効果を得られる画期的な液肥「ALA-FeSTA」はニュースとして要注目ですよ。
家庭菜園ブーム以降は、プロ向けの資材をアマチュアが使うケースが多くなっていますし、以前はあまり売れていなかった接木苗が病気に強いことが広く知られたことにより、高くてもよく売れるようになりました。それから軽量化が進んでいる傾向にありますね。管理しやすいミニサイズの野菜の品種が好まれるし、肥料も大袋ではなく持ち運びしやすい小袋の方が売れています。
──確かに、軽い園芸資材や小袋の需要は高まっていますね。この背景には、定年退職後に野菜作りを始められる方や、限られたスペースで手軽に栽培を楽しむ方が増えたことが影響しているのでしょうか。
藤田うーん、そうはいっても全員がお年寄りになるわけではなく(笑)、若い人や本格的な菜園をやっている方もいっぱいいるわけで。ただ、育てやすい品種、使いやすい資材、軽量化など、企業努力のおかげで手軽さの面でずいぶん進化し、確実にビギナーへの間口も広がっています。ぜひ幅広い世代の方に野菜作りに取り組んでほしいですね。
高木そうですね! ひとりでも多くの方に、まずは野菜作りにチャレンジしてもらいたいです。
──(ここで藤田先生が執筆されたエッセイ本『菜園から愛をこめて 野菜作りにチャレンジしませんか?』をいただきました!)
高木私も楽しく読ませていただきました。こちらの本を読者の方にプレゼントさせてもらってもよろしいですか? あっ、ぜひ先生のサイン入りでお願いします!
藤田もちろんです。この本を通じて、収穫する時の皆さんのうれしそうな笑顔がさらに広がれば、私もうれしいです。
野菜作りは苦しいから楽しい―野菜と苦楽を共にしてきたおふたりだからこその言葉です。野菜作りの極意や野菜の品種に話が及ぶと会話はとまらず、まるでわが子の話をするかのような愛情あふれる語り口が印象的でした。
テレビなどのメディアを通じて、豊富な園芸知識を楽しくわかりやすく伝えている藤田先生は、まさに野菜作りの伝道師。 今回は貴重なお話をうかがうことができました。そしてサカタのタネもよりよい種や苗の開発に努め、幅広い世代の方に園芸を楽しんでいただきたいと改めて強く思ったのでした。
おふたりとも、ありがとうございました。
取材・撮影:サカタのタネ
2016年1月7日 更新
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1993年株式会社サカタのタネ入社。野菜の育種や野菜産地指導を担当し、よりよい種苗の開発とその普及に努めている。多くの新聞、雑誌等に寄稿、著書に『やさしいベランダ菜園』(創元社)がある。