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海外花便り イギリスから学ぶ 人の暮らす生きた庭[後編]海外花便り イギリスから学ぶ 人の暮らす生きた庭[前編]

2016/2/25

イギリスのガーデンのメンテナンスの中で特徴的に感じたものに、「壁面誘引」と「コンポストボックスの利用」があります。生活の知恵から生まれたこれらの考えは、庭をより美しく、より健康にしていく大きな要素でもあります。そして、日本において私たちが庭のある生活をより楽しむことのできるヒントがここにありました。

※ 前編はこちらから読むことができます。

Point 2 壁面に植物を這わせて生活に取り込む庭

手入れをしていたManor gardenの壁面。庭と自然につながり、一体感が生まれています。
Chilworth Manor garden。サリー州。5月のようす

壁を利用した縦方向の空間の景色

イギリスの庭でよく見かけるのがレンガや石造りの塀。そこにつる性植物だけではなく、まるでタペストリーのようにリンゴや洋ナシをはじめ、さまざまな果樹までもが誘引されています。建物の外壁にフジが這っているようすは誰もが想像するイギリス風景のひとつではないでしょうか。ただ這わせているのではなく、そこにはまるで絵に描いたような、すてきに形作るように誘引されているのです。

壁面へ薄く広く誘引していくと、まるでタペストリーのような装飾的な景色ができます。サリー州。4月のようす

庭と家は別物ではなく、建物と植物が一体化することによって家から庭、塀までの空間につながりができて、より身近に花や緑を感じることができるのです。日本の狭い都会の庭事情を考えた時に、一番取り入れたいと感じていたのがこの壁面を利用した庭作りでした。

奥行きの狭い場所でも上方向に向けて、壁面を「緑の装飾」に使うことによって、限られた空間をいっそう生かすことができるのです。家の中から眺めるだけの庭ではなく、「一歩外に出て近くで眺めたり、果実を収穫したい」そんな気持ちにさせてくれる庭作り。「果実を収穫するための樹木」という捉え方ではなく、魅力的な庭作りにも壁面への誘引は大きな役割を担ってくれます。

庭で実のなる景色を楽しみながら、その場で食べる生活はいかがでしょう。神奈川県横浜市。6月のようす

日本で活用したい果樹や花木のタペストリー

フェンス際に植えられていたジューンベリー。通路からの奥行きが狭い所だと、枝を伸ばして育てるのも諦めがちです。しかし、枝を横に倒して既存のフェンスに沿わせて誘引すれば、子どもたちの目線の高さで花が咲くようになり、手の届く場所に実をつけてくれるようになります。壁面に薄く広く誘引して形作ることで、大人も子どもも芽吹きから紅葉の季節まで目の前の季節の変化をより身近に実感できることでしょう。まるで季節を教えてくれる壁掛けのタペストリーのように。

狭い空間しか取れない場所には壁面の活用がおすすめです。神奈川県横浜市。6月のようす

この時期に壁面誘引をスタートしよう

秋の落葉後から春の芽吹き前までのこの時期は、落葉樹の誘引や剪定に適しています。葉がないため、樹木や枝の輪郭がよく見えて、よい樹形作りのための枝選びや剪定のための花芽の確認などもわかりやすいのです。これからどんな景色を作っていくかを想像するだけでも、楽しいものですよね。果樹やつる性植物だけではなく、花や葉を観賞する植物にも挑戦してみてはいかがでしょうか。

*建物の外壁などにアンカービスなどを打ち込む際は、専門の業者に依頼するようにしましょう。

狭い場所に植えられたジューンベリーの壁面誘引のようす。誘引により低い位置で実の収穫をすることができます。
神奈川県横浜市。3月のようす
奥行き70cmのベランダに作った深型プランターにブドウを植え、光を取り入れたデザインのフェンスに這わせた例。
狭い場所をより広く見せるために、縦のスペースを活用します。リビングの前が収穫できるガーデンに。
東京都豊島区。8月のようす

植物の形と色のコントラストで庭の魅力をアップ

好きな植物を集めて植えたけれど、ぼんやりとして庭全体に今ひとつ魅力がない。そんなことはありませんか。庭作りにはメリハリが大切。レンガの利用やベンチなどの構造的なものも重要ですが、植物の葉の形や色合いにもっと注目してみましょう。つい花の魅力に目がいきがちですが、季節の中でより長く庭の中を占めているのが葉。それゆえ葉の形や質感に異なる特徴のあるものを選んでみましょう。例えば、かっちりとした葉とふんわりとした葉、細長く伸びやかな葉と丸い葉など。隣同士に配置すれば、お互いが引き立て合ってくれます。葉の色合いについても同様で、ライムカラーに黒やブロンズ色の葉、斑入り葉などの対照的なものを選んでみましょう。違いがはっきりと際立ち、メリハリの効いた、面白みのある庭になります。

黄金フウチソウのライムカラーの細葉の隣にキミキフガ「ブラック・ネグリジェ」のダークカラーの面積の広い葉を植えて、違いを際立たせました。オランダ ユトレヒト州。8月のようす

Point 3 ガーデンコンポストを作って作業も楽に、エコ生活を送る庭

庭の片隅に設置された、木製パレットを利用したコンポストボックス。東京農業大学 グリーンアカデミー 花壇。東京都世田谷区

個人庭にも設置されているコンポストボックス

イギリスの個人庭の手入れをし始めて、驚いたことのひとつに「ガーデンコンポスト(garden compost)」があります。摘み取った花がら、切り戻した茎葉や枝葉、そして除草をした雑草や刈り芝まで、庭の手入れで排出されたほとんどのものを庭の片隅にある木製のコンポストボックスに入れていくのです。そこで時間をかけて分解され、堆肥化されたもの(コンポスト)を再び花壇に利用。マルチング材などとしても使われます。

これは言わば庭の中での有機物の循環、手入れの中で切り取ったものをバケツなどに放り込み、いっぱいになったらコンポストボックスの中に入れます。いちいちゴミ袋の中に詰めてゴミの日に収集場所まで持っていく…、こんな面倒なことをしなくてもいいので、何よりも気分的に楽なのです。

これは庭の大小にかかわらず、私が手入れをしていたイギリスのほとんどの個人庭で見られる光景でした。ゴミを処分したり、マルチング材を購入する費用が省けるため、経済的で環境にもよいとますます普及しているようです。

イギリスの庭の隅に見られるコンポストボックス。サリー州

コンポストの使い方

こうして作られたコンポストはどのように使われているのでしょうか。ひとつの例として、マルチング。冬に地上部の枯れた多年草を地表近くまで切り戻した後、黒く熟したコンポストを花壇を覆うように施します。乾燥すると目減りするので、3cm程度の厚さにするとよいでしょう。この時期に行うのは、主に霜よけと乾燥防止、将来的に花壇の土壌をよりよくしていくため。コンポストをマルチング材として施された花壇表面はシンプルでふかふかです。

庭の手入れで出たゴミで作られるコンポストを再び庭に返してやることで、環境にやさしいという豊かな気持ちになるものです。無理をしないで植物と暮らしている知恵が、結果的にゆったりとした時間を与えてくれているように感じました。

庭の手入れで排出されたものをコンポストボックスに入れます。種の部分は取り除き、木質系のものは細かく刻むこともポイントです。東京農業大学 グリーンアカデミー 花壇。東京都世田谷区

木製パレットでコンポストボックスを作ってみよう

簡単なコンポストボックスの作り方をご紹介しましょう。

1. 使い古しの木製パレット(同じ大きさのもの×4枚)を手に入れます。

2. 3枚のパレットをワイヤで上下2、3カ所ずつしっかりと留め、残りの1枚は後で開けられるようにヒモなどで固定します。

3. 木製パレットの内側に防腐処理用の塗装をします。
塗装は、より長くコンポストボックスを使用できるようにする効果があります。

コンポストボックスの中身を腐敗させずに分解させるには、適度な水分量を保つことと、中の通気性をよくすることがコツです。庭のゴミがある程度積み上がったら、年に何度かコンポストボックス内の上下と内外を入れ替え、切り返しを行います。こうすると空気も入り、よりまんべんなく分解が進んでいきます。作業も楽にエコ生活の第一歩。春からの庭の手入れに向けて、今の時期にコンポストボックスを作ってみませんか。

常緑のボックスボールを使ってリズミカルに

イギリスの庭によく見られるもののひとつであるボックスボール。西洋ツゲを球状に刈り込んだもので大小さまざま。庭の規模にかかわらず、多くの庭にありました。フォーマルガーデンにはもちろん、ナチュラルなタイプのガーデンでも骨格作りとして冬の景色作りにも役立っています。日本で行う場合、暖地で使うおすすめの植物はキンメツゲ。なるべく球状に仕立ててあるものを購入し、大小組み合わせたり、時にはくっつけてポイントとして配置をします。イギリス風の庭にぐっと近づきますよ。

同じ丸い形を並べてリズミカルに。冬場の景色にもなります。東京都東大和市

人の暮らす生きた庭とは

その季節なりの植物のあり方を感じ、少しずつ変化をしていく目の前の景色や物事を楽しみたい…。そんなふうに感じられる仕掛けを庭に作ることで、おのずとカーテンを開け、外へ出たくなる庭があります。変化のある視覚的な美しさと、収穫・利用するなどの実用的な楽しさが共に実現できるように庭を整えると、より心が豊かに暮らしていけるでしょう。

文・写真
平工 詠子 ひらく・えいこ
東京農業大学で花卉園芸学を学んだ後、園芸造園企業にてデザイン、ガーデンメンテナンスなどの仕事に携わる。後にイギリスに渡り、現地のガーデナーとして勤務。帰国後「心に伝わる庭づくり」をテーマに「Gardener -詠-」を設立。神奈川県横浜市を拠点にフリーランスのガーデナー・植栽デザイナーとして活動中。海外滞在経験による講演やイギリス流ガーデナーならではの道具を使ったワークショップなども行う。東京農業大学グリーンアカデミー非常勤講師(花壇担当)。

Facebook:GARDENER -詠- https://www.facebook.com/gardenerei

ホームページ:http://www.gardenerei.com/

※植物の成長や開花の時期は気候や地域によって異なります。
 本文では国内の栽培地は神奈川県横浜市を基準、イギリスの場合は南部サリー州(Surrey)を基準としています。

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