2016/3/24
3月になるといよいよ春夏野菜作りの準備です。家庭菜園を楽しむ方の中では4~5月にかけて苗を買ってくる方も多いでしょう。もちろん、それはそれで手軽に栽培を始められるのですが、種まきから春夏野菜作りを始めるのも面白いものです。
なぜなら、種まきから始めると自分で品種を選択することができます。また、よい苗に育てあげるのも家庭菜園の醍醐味といえましょう。種をまくなら、ほとんどの春夏野菜のまき時期は3~4月。ここでは種まきから始めることを中心にして畑の準備をご紹介します。
薬剤散布を均一にする噴霧器、畝作りに必要なクワ、畑の除草に便利なレーキなどはそろえておきたい道具
家庭菜園の作業に必要な道具として、クワ、シャベル、移植ゴテ、カマ、ジョロ、レーキ、薬剤散布用噴霧器、巻き尺、はかりなどがあげられます。さらに広い菜園ならば電動式の噴霧器、ホースがあれば便利です。また、トンネル栽培を行う時のビニール資材や資材の支持材としての支柱(鋼管、グラスファイバー製など)も用意しておくと栽培に幅がでます。
家庭菜園では面積も限られるため、まず必要な植えつけ本数を決定します。さらに、どの場所に何を作付けするか、畑の設計図を作りましょう。例えば、アスパラガスやニラなどのように数年は同じ場所で栽培しなければいけない作物を畑の真ん中にもってくるのは考えものです。
また、連作が苦手な作物に対しても考慮が必要です。連作を避けるためには、デジカメなどを使ってその都度植えた場所を記録しておくとよいでしょう。ナス科やウリ科、マメ科の野菜などは連作障害を起こしやすいので、必ず次の作付けの時には場所を替えるか、作付けを休むことも考えなくてはなりません。日照についてもトマトやナスなど日照を好む野菜を作付ける時には、建物の陰にならないかなどの配慮が必要です。
畑の設計図の例。ひと畝ごとに品目を決めれば、次年度は畝を移動して連作を避けることができる
畑の設計図の例。この段階で株間を決めておけば、必要な苗の数も割り出せる。種まき、育苗の目安にもなる
家庭菜園に必要な道具をそろえたら、次は畑の土を準備しましょう。畑の土を良好な状態に保つためには、適正な酸度であること。適度な肥料分であること。有機物(堆肥など)を施すこと。この3つが必要になります。
酸度については、野菜の栽培を続けていくと土壌は酸性に傾いていきます。酸性に弱いホウレンソウやレタス、タマネギなどは特に注意が必要です。年に2度、すなわち秋冬野菜から春夏野菜に切り替わる時と、春夏野菜から秋冬野菜に切り替わる時に苦土石灰を50~100g/平方メートルを施します。
苦土石灰とは炭酸カルシウムと炭酸マグネシウム、すなわちカルシウムとマグネシウムの入っているもののことです。酸度を矯正するだけならば石灰だけでもよいのですが、石灰だけを多く入れすぎるとマグネシウムやカリの吸収が抑えられるので、バランンスを保つということから苦土石灰を与えるのがよいでしょう。野菜の種類によって適正な酸度は異なりますが、pH6.0~6.5を目標に矯正していきます。
品目による適応土壌酸度表。品目により耐えられる酸度は異なるが、多くはpH6.0~6.5で良好に育つ
品目による適応土壌酸度表。品目により耐えられる酸度は異なるが、多くはpH6.0~6.5で良好に育つ
肥料については、土壌分析してみると肥料過多の状態が多く見られます。いつ、どれだけの肥料を畑に施したかの記録をつけて、やりすぎないように工夫します。堆肥(牛ふん堆肥)は苦土石灰と同様、年に2度、1.5~2kg/平方メートルを必ず投入しましょう。
堆肥は畑全面に施したうえで化成肥料は畝の部分に施してもよい。こうすると化成肥料は効率よく利用される
最初は堆肥がなくても普通に栽培できるので、それでよいと思いがちですが、堆肥を施さないと徐々に生育がわるくなってしまいます。堆肥を施すことによって、畑の土の保水性・排水性の改善(物理性の改善)、化成肥料では得られにくいチッ素、リン酸、カリの3要素以外の微量要素の補給(化学性の改善)、さらに微生物が豊かになって土壌病害などの予防(生物性の改善)をもたらします。
- ・土壌の団粒化を促し、通気性、保水性、排水性がよくなる
- ・土壌中の微生物が多様化し、土壌病害にかかりにくくなる
- ・化成肥料だけからは得られない微量要素が補給できる
種をまく場合、直接畑にまく方法と、他の場所で種をまいて苗を育てる方法があります。面積が狭い菜園の場合には、種まきと苗作りを菜園とは別の場所で行うと菜園を有効に利用できます。ただし、この方法は直根性のニンジンやダイコンなど根菜類には適応できません。苗作りは、育苗箱やセルトレーを使えば、効率よく簡単に苗を育てることができます。
育苗箱やセルトレーで種まきをする時は、種まき専用の培養土を使用すると、病気にかかりにくく、肥料分も調整されていますから便利です。育苗箱では木の板を押さえつけて浅い溝を作り、そこに種をまいて、種の直径の3倍くらいを覆土して、軽く鎮圧します。その後、水やりをします。
育苗トレーと種まきの土、ベーストレー(水受け皿)の3つがセットになった種まきスタートセット「バーゲンガーデン」が種まきには便利。トレーは繰り返し使える
寒ければビニールで覆って防寒し、日ざしが強ければ遮光するなど、いろいろな資材を上手に使うと栽培時期、方法に幅がでます。春夏野菜では、春先でまだ気温が上がりきっていない時に使用すると、その効果は大きくなります。
ビニールトンネルの材質は、塩化ビニール、ポリオレフィン、ポリエチレンなどの種類に区別できます。基本的に最も保温性能が高いのは塩化ビニール、ポリオレフィン、低いのはポリエチレンです(夜間の場合)。それでも、トンネルをかけたからといって夜の冷え込みには万全だと安易に考えないことです。
種まき、定植時期となる春でも静穏で晴れた日の夜間は冷え込みます。このような時にはトンネル内の気温は無被覆と変わらないどころかトンネル内の方が低くなります。日中は、断然トンネルで被覆されていた方が中の気温は高くなり、成長が促進されますが、夜間の低温には注意が必要です。
「パオパオ(R)90」などの不織布のトンネルでも保温を図ることができます。ただし、ビニールトンネルよりも日中の昇温は劣ります。しかし日中の温度が上がりすぎないという意味では使い勝手はよいといえます。夜間の低温については、ビニールトンネルと同様、無被覆と比較して高くなるということはありません。
トンネルをかけることにより、暖かな外部の空気も野菜に送り込むことができなくなってしまうので、夜間の保温には注意が必要
野菜を栽培する時、特に春先ではまだ低温に注意しなければなりません。冷え込みが強まるのは「放射冷却」が原因です。このような時は地面や植物の葉の温度はまわりの空気の温度(すなわち気温)よりも低くなります。そうすると風が吹いて空気が植物の葉に当たると、葉にとっては温風にさらされる、つまり空気が葉に熱補給していることになります。人にとっては冷たい風も葉にとっては温風なのです。
トンネルをしていると、ビニールが放射冷却を弱めてくれるので保温効果はあるのですが、それ以上にまわりの空気からの「熱補給」の方が大きな影響を及ぼします。トンネルをしていない露地では十分に熱補給されるのですが、ビニールトンネル内ではビニールが風を遮断してしまうので熱補給されません。したがってトンネル内の方が露地よりも低温となってしまうのです。
トンネル栽培に主に使用されるフィルムの種類は塩化ビニールとポリエチレンです。春先など保温第一の時には塩化ビニールを、そうでないときは値段の安いポリエチレンを使用します。同じ透明なフィルムでも塩化ビニールの方が放射冷却を軽減する能力が高いので、寒さに備えなければならない時は塩化ビニールを使った方が理にかなっています。ちなみに昼間の保温力には差がありません。
地表面に薄いポリエチレンビニールシートを敷いて植物を育てることをマルチ栽培といい、露地栽培よりも早期の種まきや定植が可能となり、栽培時期に幅をもたせることができます。マルチの基本的なはたらきは、1、地温の上昇、2、地表面が雨でたたかれて固まるのを防ぐ、3、水分の保持、4、雑草防止、5、土のはね返りを防ぐ、などです。これらのうち、重視するはたらきや基本的なはたらき以外の特徴があるので、栽培する野菜や期待する効果に見合ったものを使用しましょう。
材質の色は透明と黒が主ですが、透明は地温上昇のはたらきがまさり、雑草防止のはたらきはほとんどありません。銀色のマルチを使用すると地温上昇を抑制し、アブラムシの飛来を防ぐ効果があります。また、土のはね返りを防ぐ効果により病気の感染防止にもなります。
マルチは価格も安価で手軽に利用ができ、効果も大きいので使ってみる価値はあります。種まき、定植と同時に畝に敷くのではなく、作業1、2週間前に敷いておいて、地温を上昇させておくようにします。
主な材質の色別マルチの目的と効果
ところで、マルチのビニールはあんなに薄っぺらなのに、どうして土がホカホカになるのでしょうか。
太陽から受けた熱は地面を暖めるために消費されます。また、暖まった地表面より地面と接している空気の温度(すなわち気温)の方が低いときにはその熱は空気の方へ移って、空気を暖めるために消費されます。そして3つ目は、土に含まれている水分を蒸発させるために消費されます。この水分の蒸発に消費される熱量は意外と大きいのです。
ビニールマルチが張られていたら水分を蒸発させることができません。したがって蒸発に消費される熱は地面を暖めるために振り向けられる割合が高くなります。この結果、ビニールマルチを敷くと地温が上昇するのです。破れたマルチでは効果は半減です。水分が抜けないようにしっかり密閉するように張るのが地温上昇のポイントとなります。
べたがけとは寒冷紗や不織布のような通気性のある資材を、植物に直接または若干の空間を設けて被覆することをいいます。通気性があるので、トンネル栽培と異なり換気をすることも特に必要ありません。手軽に被覆することができ、保温、防虫、防風などの効果が高いのも特徴です。
この方法は低コストで高い効果が期待できることから、広く普及している栽培方法です。春夏の使用では害虫の侵入を防ぐことができ、無農薬栽培も可能になります。生育促進、害虫防除の効果のほかにも強風、大雨などから野菜を守るために利用されています。秋冬に使うと葉菜類では生育が早くなりますが、根菜類では葉の大きさに比べて根の太りにはほとんど効果がありません。凍害が生じる心配があるときは、トンネルがけのように空間を設けた、うきがけの方が安心です。
ただ、異なった条件下では逆効果になってしまうこともあります。例として、葉菜類を栽培する時に秋にかけたらとても効果があったのに夏では逆効果になった。冬に寒さ対策として被覆したら、逆に被害が多くなった、根菜類では葉はよくできるが根の太りが劣るなどがよく知られています。夏にべたがけすると、より温度が上昇して、ほとんどの野菜では生育適温を上回ってしまいます。また、冬の夜間(晴夜)では葉温よりもまわりの空気の温度、すなわち気温の方が高くなっています。したがって葉に風が当たった方が葉温は高くなりますが、べたがけしていると(トンネルでも同様に)露地よりも低下してしまいます。また、べたがけすると遮光されるので、地温が上昇しにくくなって、根菜類では生育が促進されなくなってしまいます。
※「隣の菜園より一歩リード 早くから始める春夏野菜作り」は作物編に続きます。
文
五十嵐大造 いがらし・たいぞう
神奈川県園芸試験場(現農業技術センター)を経て、現在、東京農業大学短期大学部生物生産技術学科教授。園芸生産学研究室に所属。野菜および農業気象が専門。