2016/3/24
春夏野菜の種をまくなら今が始め時。種をまけば、自分の気に入った品種を選択でき、希少品種で苗では売られていない品種にもチャレンジできます。小さな苗を大きな株に育てあげれば、ちょっとしたセミプロ気分にもなれます。
春夏野菜の栽培は気温の低い時に始める場合が多いので、保温対策に気をつけてチャレンジしましょう。もし種が余ったら、種類によっては茶筒などに乾燥剤と一緒に入れて涼しい所で保管もできます。ここでは野菜別に注意すべき栽培ポイントをご紹介します。
大玉トマト「パルト」。授粉しなくても果実ができる単為結果性がある。実つきがよく、初めて大玉に挑戦する方にもおすすめ
畑にトマトの種をまこうとすると早くても4月以降の時期になってしまいます。それから定植となれば6月に、収穫は7月下旬以降からとなってしまうでしょう。これでは収穫期間が短くなってしまうので、楽しみが半減してしまいます。
栽培時期を前倒しするためには、種を2月以降に早めにまかなければなりません。このような時期に種まきを行うには、ヒーター内蔵の発芽育苗器「菜・友・器」などを利用すればまったく問題はありません。この育苗装置は、トマトはもちろん、他のいろいろな野菜でも利用できますから大いに役立つと思います。
発芽したら双葉のうちにポット(径9~10.5cm)に移植します。病害対策や適正な施肥量のことを考えると、種まき、鉢上げ用の培養土は育苗専用の培養土を使用した方がよいでしょう。
本葉が8~9枚で花(花房)が咲き始めるので、その頃が定植適期です。株間は50cmとし、花房を通路側に向けて定植します。トマトは根が深く張るので、深く溝を掘って堆肥、油粕などの有機質肥料の元肥を与え、速効性の化成肥料は控えめにします。わき芽はこまめに除去します。
葉のつけ根からでるわき芽は、小さいうちに指でつまんで折り取る。ハサミはウイルス病を伝染する恐れがあるので使用しないようにする
主枝に3葉おきに花房が1段目、2段目と順次ついていくので、下から4~5段目(自信のある人はもっと上でもよい)で花房の上の葉2枚を残して摘芯します。
収穫目標の最上段の花房(一般には5~6段花房)の花が咲いたら、その上2葉を残して摘芯
定植する時に地温が低い場合は、畑にマルチを敷きます。マルチは地温上昇、水分保持、雑草防止などの効果があります。地温上昇には透明のフィルム、雑草防止には黒色のフィルムが適しています。マルチは地面とぴったり接触するように敷くのが、効果を引き出す秘訣です。
おすすめの品種として最近話題の「パルト」をおすすめします。他の品種では確実に交配を行うかホルモン剤を使用するなどして着果に苦労するのですが、「パルト」は単為結果性を有する品種なので、余計な心配はいりません。トマトの品質も優れていて栽培しやすい品種といえます。
トウモロコシ「みわくのコーン(R)ゴールドラッシュ」。噛んだ瞬間に甘さがジュワッと口の中に広がって、とってもおいしい
トウモロコシは畑に直接種をまくなら4月中旬~5月上、中旬頃(関東地方)です。マルチを利用すると地温上昇がはかれるので、さらに早く種をまくことができます。それよりも早くまきたい場合は、セルトレーで育苗するとよいでしょう。育苗箱に種をまくと定植時に断根されて植え傷みしますが、セルトレーでの育苗であればそのまま定植でき、根を傷めることがありません。
加えて、先に説明したヒーター内蔵の発芽育苗器を使用すればもっと早く種をまくことができます。セルトレーでの育苗期間は20~30日間ですから、定植時期が前述の時期に当たるように調節して種をまきます。なお、直まきでは発芽直後に鳥害を受けやすいので苗がしっかり根を張り、緑化して硬くなる頃まで、不織布でべたがけするのが安全です。
透明のビニールやポリフィルムで畝全体にマルチングしておくと、発芽と生育が早く、しかも丈夫に育つ
果実に実がしっかり入るようにするには、雄穂(先端に咲いた雄花)の花粉が雌穂の絹糸によくかかるように集団で、例えば1列に長く植えるよりも2、3列に植えた方が得策です。
実にアワノメイガという害虫が入ることがありますが、雄穂が出穂したら殺虫剤を周辺にかけてやると効果があります。
一番上に雄穂がつき、中間あたりに2~3本雌穂がつく。雌穂は最上位のものが最も大きくなり、よく着粒する
また、栽培中の乾燥に注意が必要です。マルチをした時には、生育前期は地温が高くなり、土壌中の水分が確保されてメリットが大きいのですが、生育後半になって高温期になってくるとマルチが雨水を入りにくくし、地温もむしろ上昇させなくてもよい時期になるので、状況を見て水やりをしたり、マルチを取り除く必要があります。
おすすめの品種は「みわくのコーン(R)ゴールドラッシュ」「ゆめのコーン(R)」など、いずれも品質に優れており、味も高い評価を得ています。
イボなしキュウリ「フリーダム」。おいしいばかりではなく、病気に強く、ほとんどの節に雌花がつき、株が疲れにくいので収穫数の多さも魅力
キュウリは畑に直接種をまいてももちろんよいのですが、露地栽培ではサクラが咲いた後が早まきの限界といえるでしょう。この時期にまくと生育初期は気温が低く、ゆっくり生育するので、これでは生育が旺盛になって収穫が始まるのに時間がかかってしまいます。できれば、9cmポットに種をまいて、種まきから定植適期(本葉3枚、根鉢が形成される頃まで)まで、保温をはかるのがよいでしょう。保温にはヒーター内蔵の発芽育苗器「菜・友・器」を利用するとよいでしょう。
植えつけの30日ほど前に、ポットなどに種をまいて発芽、育苗しておく
キュウリでは元肥はもちろんですが、追肥として肥料を切らさないようにこまめに施肥します。定植後は支柱に網をかけて早めに誘引し、親づるがおおむね背丈ほどになったら、先端を摘芯します。子づる、孫づるもどんどん出てきますが、整枝方法は、いずれも葉を2枚残してつるを摘芯します。果実は子づる・孫づるの第1節によく着果するからです。なお、子づる・孫づるの葉を2枚残して摘芯すると言いましたが、すべての子づる、孫づるを摘芯していくと、草勢が衰えてしまいますから、摘芯しないつるが残っている状態で管理した方がよいでしょう。
親づる1本仕立ての仕立て方。株元から4~5節に出る側枝や雌花は摘み取り、この上から出る子づる、孫づるは葉2枚残して摘芯する。主づるは1.6~1.8mぐらいに伸びてきたら先端を止める
整枝時に古くなって硬くなった葉や黄化した葉も取り除きます。収穫が始まると水やりと追肥を怠ると急速に草勢が衰えてしまいますから注意が必要です。それでも露地栽培だと虫害を受けたり、風によって葉が傷んだり、うどんこ病などの病害が発生してなかなか思うように収穫が続かなくなりがちです。収穫もピークを過ぎて収穫量が低下し、まだまだ秋になるまで余裕があるようでしたら、苗の更新をした方が合理的といえます。
このことを念頭において、種まきを1カ月くらい遅らせるか、ヒーター内蔵の発芽育苗器を利用しないで定植日を遅らせるなどの、種まき期間を長くする対策を考えておくとよいでしょう。改めて若苗を定植した方が総収量は多くなります。
現在キュウリは着果しやすく、品質に優れる品種がたくさん出ています。その中で「よしなり」は、病気にも強く作りやすい品種といえるでしょう。また、「フリーダム」はキュウリ独特のイボがなく、ちょっと変わった感じがするかもしれませんが、だからこそ家庭菜園向きといえるかと思います。
エダマメ「天ヶ峰」はエダマメの中でも一番早く種まきのできる極早生品種。3粒莢がたくさん収穫できる
エダマメは、サクラの花が終わって1~2週間したら種まき時期となります。この時期だとまだまだ地温が低い場合が多いので、事前に畑にマルチを敷いて地温を上昇させておくと発芽もよくなります。早めの種まきでは早生品種を栽培します。1カ所に3~4粒まき、やがて2株に間引きします。株間は20cmほどでよいですが、畝幅は40~50cmとって日がよく当たるようにします。日当たりがわるいと着莢がわるくなります。
直まきした時は発芽して複葉が2~3枚出た頃に、1カ所に2本残して間引きする
種をまいた後は不織布などでべたがけしておくと、鳥による食害を防ぐことができます。ただし、本葉が展開したら早めに取り除かないと、遮光の影響により着莢がわるくなる恐れがあります。畑に直接まかずにポットで育苗してもかまいません。この場合もキュウリの解説で述べたようにヒーター内蔵の発芽育苗器を利用すると定植時期も早まります。
マメ類の種や双葉は鳥害にあいやすいので、種をまいたらすぐに不織布などでべたがけしてガード
あわてずに5月すぎに種をまく場合には、早生品種ではなく中生や晩生の品種を使用します。エダマメは乾燥に弱いので水やりにも注意しなければなりません。また、莢がついてくると、さまざまな害虫に気をつけなければなりません。カメムシなどの害虫を見かけたら早期に薬剤散布などの対策をしないと、収穫できる莢が激減してしまいます。
エダマメはまく時期によって品種を使い分ける必要があります。ここでは夏の早い時期に収穫期を迎えられる極早生、早生の品種を想定しています。春になって気温・地温が上昇してきた頃に、すぐにでもまきたいおすすめ品種は「天ヶ峰」と「夏の調べ」です。収穫量も多く、味も性質も優れています。
作物に農薬を使用する場合には守らなくてはならないことがあります。農薬には必ずラベルに対象となる野菜と病害虫名およびその使用方法が書かれています。これを必ず守らなければなりません。
一方、農薬は正しく使用すれば、さまざまな試験結果から安全性が認められています。よく農薬ではないから安全だと思って、民間療法ではないですが、いろいろな資材を使用している方を見かけます。しかし、これは考えようによっては毒性などの安全性のチェックがなされていないものを使用していることになり、安全性がチェックされている農薬よりも場合によっては危険だということも知っておく必要があります。
ただ、実際に一番農薬の影響を受けるのは、散布する人です。散布時にはマスク、手袋をつけ、長袖、長ズボンの服を着て作業するようにしましょう。気温の高い日中は避け、風の少ない午前中や夕方に作業します。
病害虫防除のポイントは初期に確実に行うことです。この時期なら少ない薬剤で済みます。また、何度も散布しても効かない時には、薬剤耐性の病害虫かもしれませんから、薬剤を変える必要があります。農協や農業改良普及センターなどの専門家に相談してみるとよいでしょう。
8月の旧盆を過ぎれば栽培期間が終了する春夏野菜が多くなります。しかし、ミニトマトのように、青い果実が次々に着果するともう少し栽培を延ばそうかという気になります。ただ秋の作付け計画が大幅に狂うようなら、いさぎよく片づけることも必要です。
春夏野菜の栽培終了時から、秋作が始まるまでは土作りの重要な期間です。畑の健康管理という意味で、堆肥を必ず1.5~2kg/平方メートルを目安に施しましょう。有機物は畑の生産力を維持していくために必要ですが、多すぎてもよくありません。なお、根菜類の種まき直前に施すと、岐根(またね)が発生しやすくなるので注意が必要です。種まきの2~3週間前に施して次の栽培の準備をしておきましょう。
※前回の「隣の菜園より一歩リード 早くから始める春夏野菜作り[準備編]」はこちらから読むことができます。
文
五十嵐大造 いがらし・たいぞう
神奈川県園芸試験場(現農業技術センター)を経て、現在、東京農業大学短期大学部生物生産技術学科教授。園芸生産学研究室に所属。野菜および農業気象が専門。