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>ブリーダーに聞きました 日本のために開発した確かな品種 ビオラ「ピエナ(R)」

2023/5/2

株張りのよさもありながら、コンパクトな草姿で秋から翌春にかけて次々に花を咲かせるビオラ「ピエナ」。今回は、ブリーダーとしてこれまで数多くの品種の育成に携わり、1996年からパンジーとビオラの育種を行っている中川雅博さんに「ピエナ」開発秘話やビオラの魅力をひもとくお話、育種にかける熱い思いを語っていただきました。

ブリーダーとは?

品種開発担当者のこと。新しい品種を開発するのがブリーダーの仕事です。開発する品種の目標に合った親の選抜を行います。優れた品種を生み出すために、選抜した親同士を組み合わせます。そのため、1年間で交配する組み合わせの数は数百にも及びます。

サカタのタネ 掛川総合研究センター 中川雅博(なかがわ まさひろ)

サカタのタネ 掛川総合研究センター
中川 雅博(なかがわ まさひろ)

10年余りの歳月をかけ日本のために開発したビオラ「ピエナ(R)」10年余りの歳月をかけ日本のために開発したビオラ「ピエナ(R)」

── 「ピエナ」の育種がスタートした経緯を教えてください。

中川
パンジーとビオラの育種を担当して、今年で27年目になります。

元々パンジーとビオラは、秋の涼しくなったころに自然と種から芽が出て、冬を越して春になると花が咲きます。ビオラの市場が確立されたヨーロッパは夏でも気温が低く、自然とコンパクトに育ちます。

私が育種を始めた当時、日本で販売されていたビオラの品種数は少なく、海外で育種されたものがそのまま販売されていたり、日本独自の気候風土に合っていない品種が出回ったりしていました。日本でそのような品種を夏に種まきすると、暑さで苗が徒長※してしまいます。

※徒長…植物の茎や枝、節間などが適切な長さ以上に間延びして育つこと

サカタのタネ 掛川総合研究センター 中川雅博(なかがわ まさひろ)

暑い時期でも苗がよくできるビオラを作りたいと思ったとき、私の勤務地である静岡県掛川市の非常に暑い夏の気候は、育種の上では好条件でした。この気候の中で元気に育っている苗を選抜していけば「耐暑性がある品種を作れる!」と思いました。

ところが、ビオラの花は小さいので、交配することが難しく、莢(さや)も小さく、種の収穫量が期待できません。そんな難しい状況の中で開発はスタートしました。

ビオラ「ピエナ(R)」

株のコンパクトさ、花上がり、アップフェース、全てがちょうどいい!株のコンパクトさ、花上がり、アップフェース、全てがちょうどいい!

── 10年余りの歳月をかけて研究開発した「ピエナ」で苦労したことを教えてください。

中川
実はビオラがコンパクトな草姿で咲き続けることは、とても難しいのです。詳しく説明すると、本来のビオラは冬の低温で花芽が作られ、春の気温の上昇と長日※の条件がそろうと花が咲く春の花です。そして、花を咲かせる時に、ハチなどの昆虫に受粉してもらうために花茎を伸ばします。そのような性質のあるビオラを、冬の低温に合わなくても花芽が作られ、日長にも左右されず、秋から春まで花が咲き続けるコンパクトなビオラに改良しようとしたのですから、本当に大変でした。

※長日…日の当たる時間(日長)が長い条件のこと

ビオラ「ピエナ(R)」

暑い環境の中でもコンパクトに育ち、花を次々に咲かせることを目指す中で大変だったのが、パンジーとビオラがもつ「ブラインド」という現象です。

「ブラインド」とは、寒さや低日照、ストレスなどにより花芽の成長が止まる現象のことです。「ブラインド」が起きにくくし、次々に蕾が上がってくるようにすることが課題で、克服するまでに何年もかかりました。

ビオラ「ピエナ(R)」

──── 「ピエナ」はイタリア語で「いっぱい」という意味の通り、花が株を覆うように咲いて見えるのはなぜですか。

中川
野生種のビオラは、横を向いて咲きます。その方が横からハチが飛んできて、受粉してもらいやすいからです。

しかし、花壇や鉢植えに使われる園芸種は、人が上から眺めたとき花が見やすいように上向き(アップフェース)に咲くのが理想です。花の下の茎に当たる花梗(かこう)が短い方がアップフェースになりやすく、都合がよいのです。「ピエナ」のコンパクト性が、結果的にアップフェースにもつながっています。

左:他社品種A、中央:ピエナ、右:他社品種B

左:他社品種A、中央:ピエナ、右:他社品種B

厳しい気候の中で育成したからこそ、コンパクト性をもちつつも株はしっかりと張る”ちょうどいい”ビオラ「ピエナ」を開発できたのだと思います。

日本人に好まれる花色を重視!どの色も品質はお墨付き日本人に好まれる花色を重視!どの色も品質はお墨付き

── 一つのシリーズには色数も必要、そこで重要となる「そろい」のよさ

中川
シリーズにするには、花の色数を豊富にすることが求められます。シリーズの中で花色ごとに時期がずれてばらばらに咲いたり、さらに同じ花色の中でまばらに咲くのも好まれません。「ピエナ」は豊富な花色の各々がそろって咲くことも高い評価の一つです。

さらに「ピエナ」は、新しい色を増やすだけではなく、既存の花色も「従来の色よりハッキリと」、草姿を「よりコンパクトに」、性質は「暑い中でもさらに育てやすく」といった改良を続けています。

ビオラ「ピエナ(R)」

育種は面白い!需要がある限り、改良の余地あり!育種は面白い!需要がある限り、改良の余地あり!

─── 花のブリーダーで大変なことは?

中川
花のブリーダーは、花が咲いている間に交配する候補の株を選んで、何通りもの掛け合わせを考えなくてはなりません。この時期はとにかく忙しいです。しかし、忙しいと思うことはあっても、辛いとは思いません。どんな花が咲くか、興味の方が勝ちますね。

もう一つは、ビオラを例にすると、オレンジは色が濃いほど種をとるのが難しいです。「ピエナ」のように何色もある品種の場合は、どの花色の種子も安定した供給ができないといけない、そのハードルが常にあります。

サカタのタネ 掛川総合研究センター 中川雅博(なかがわ まさひろ)

─── ブリーダーをやっていてやりがいを感じるのはどんなことですか?

中川
ヒットした商品でも自分では欠点が分かっているので、常に「ここを変えなきゃいけない」と考えています。新しい病気が出てくると危機感とともに「もしかすると自分が開発した品種は、既にその病気の抵抗性※が備わっているかもしれない」と期待したりして…。時代とともに必ず何かが起きますから課題が尽きません。そこにやりがいを感じます。

※抵抗性…特定の病気にかからない性質のこと

── 「ピエナ」のお気に入りやおすすめの花色はありますか?

中川
お気に入りの花色と聞かれると思い付かないです。というのも、花の育種は売れている色や自分の好きな色を作ればよいという訳ではないので、あえて好きな色を意識しないようにしています。

強いていうなら、色幅のあるピーチと花色が変化していくラベンダーマジックが気に入っています。 また、引き合いが強い色はイエローですね。

左:ピーチ、右:ラベンダーマジック

左:ピーチ、右:ラベンダーマジック

昔はひげ(レイ)がある品種が一般的でしたが、時代とともにひげがないものも好まれるようになりました。

比較すると分かりやすいのですが、ひげというのは、右の写真のような花の中央にある模様のことを指します。「ピエナ」には、ひげあり、ひげなし※、花の中央にはっきりとした模様があるブロッチもあるので、ぜひ見比べてお好みの花色を探してみてください。

※まれに個体差としてひげが出ることがあります。

左:イエロー、中央:イエロージャンプアップ、右:ゴールデンブロッチ

左:イエロー、中央:イエロージャンプアップ、右:ゴールデンブロッチ

ブリーダー直伝!誰でも簡単にビオラ「ピエナ(R)」を長く楽しむコツブリーダー直伝!誰でも簡単にビオラ「ピエナ(R)」を長く楽しむコツ

─── 種まきに適した時期は?

中川
関東基準だと初心者の方は、残暑が和らぎ涼しくなった9月下旬~10月中旬の種まきがおすすめです。すると、翌年2月ごろから開花します。

年内に花を咲かせたい場合、8月下旬~9月中旬に種まきすると、12月ごろから開花します。しかし、残暑が厳しい時期の種まきになるので、暑さで徒長しないように温度管理が必要なので、上級者向けの栽培方法です。

─── 定植時の株間は?

中川
7.5~9cmのポット苗なら20cmくらい、10.5cmのポット苗であれば25cmくらいの株間がよいです。

─── おすすめの土と肥料は?

中川
初心者の方には、赤玉土(小粒)と腐葉土を7:3の割合で混ぜて、元肥で緩効性の固形肥料を施すのがおすすめです。土は混ぜる手間がなく、そのまま植えられる培養土「花三昧」、肥料は「マイガーデン」などを使うとお手軽です。

─── 根鉢の肩を出して植えて、肥料やけによる生理障害を防ぐ!

中川
固形肥料が葉や茎に直接触れると生理障害を引き起こす要因にもなります。見た目は悪いかもしれませんが、私たちはポット苗を定植するときに、ポリポットをはずし、根鉢の肩を少し土から出して植えます。

こうすることで固形肥料が株元に転がりにくく、肥料やけによる生理障害を防ぐことができるので、安心して施肥できます。

─── 栽培場所と水やりで気を付けるポイントは?

中川
ビオラは、種まきから育苗の期間の高温が適さないので、日陰のできるだけ涼しいところで管理します。関東基準なら11月中旬~12月上旬までに外の日当たりのよい場所に定植します。

水やりは、土が乾いたら行う程度で問題ありません。暑い時期は土を乾燥しすぎないよう、特に気を付けてください。根付いて株が少し大きくなったら、少しくらい乾燥させても耐えられるようになります。

─── 伸び過ぎたら思い切って刈り込んで!

中川
茎が伸び過ぎたときは、1月中に株元10cmを残して、バッサリと刈り込んでください。春までにきれいに芽吹いてきます。思い切りが悪いと春に株がグラグラしてしまい、きれいに株を更新できません。刈り込み過ぎかな?と思うくらい深く刈り込みます。株元5cmくらいになってしまっても意外と大丈夫です。下葉の黄色っぽい葉しか残りませんが、春にはきれいな緑の葉が芽吹いてきます。

「刈り込んだ後の肥料は、どうしたらよいですか?」とよく聞かれます。例えば「ネイチャーエイド」のように窒素(N)・リン酸(P)・カリ(K)が3-3-2の液肥なら、300~500倍に薄めて、水やりと一緒にどんどん施してよいと思います。

参考:パンジーを刈り込んだ様子

参考:パンジーを刈り込んだ様子

『園芸通信』読者に向けたメッセージ『園芸通信』読者に向けたメッセージ

中川
「ピエナ」は徒長しにくくコンパクトで、冬場もずっと花を楽しめるので、花壇や寄せ植えで楽しんでいただきたいです。

ビオラの育種の歴史はせいぜい20~30年です。これからも新しい品種が次々と誕生すると思います。『園芸通信』読者の皆様も新しい品種を楽しみにしていてください。

ビオラ「ピエナ(R)」

10年余りの歳月をかけて研究開発した まさに日本に向けたビオラ「ピエナ(R)」10年余りの歳月をかけて研究開発した まさに日本に向けたビオラ「ピエナ(R)」

ビオラ「ピエナ(R)」

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