2024/04/01
コンテナやハンギングバスケットなどのガーデニング講座を主催するほか、ガーデンデザインを手掛けたり球根や多肉植物の生産・販売を行ったりと、園芸分野で幅広く活躍されている園芸家の井上まゆ美さん。サカタのタネでブリーダー(品種開発担当者)を担当する川嶋盛哉は、さまざまな花の画期的な品種を開発しています。
2024年春に「サンセットオレンジ」と「レッド メープル」2品種が追加されたペチュニア「ビューティカル」。今回は、コロナ禍に行われたスペシャル対談をお届け。品種の魅力についてたっぷりと語っていただきました。
世界でも非常に珍しい
ペチュニアとカリブラコアの
属間雑種
ペチュニア
「ビューティカル®」
─── ペチュニアは世の中にたくさん種類があります。その中でもペチュニア「ビューティカル」は、井上さんのような園芸家の方に支持されています。改めて「ビューティカル」の特長を教えてください。
川嶋まず、この「ビューティカル」は、ペチュニアとカリブラコアの属間雑種で、それ自体がすごく珍しく、今までにないペチュニアです。カリブラコア由来のため、花弁が普通のペチュニアより強く、うどんこ病やボトリチスなどの病気にも強いです。
実は、育種の現場では、生産者の方が栽培しやすく、販売店では見栄えがよいことに重点をおいており、この特性がそのまま消費者が育てた時にも発揮される場合と、うまくいかない場合とがありました。
その点「ビューティカル」は、消費者の元でもよく咲くことを目標に掲げて開発したので、趣味・愛好家の方でも育てやすい品種になっています。
また「ビューティカル」は、特徴的な色が多いので、今までペチュニアを育てたことがある方にも興味を持っていただきたいです。
川嶋戦前に当社が世界初の完全八重咲きF1ペチュニア「ビクトリアス ミックス」を発表したのは、非常に有名な話です。戦後もペチュニアの育種で世界をリードしてきました。
また何か新しいことができないかと模索していた中、カリブラコアとペチュニアの雑種にたどり着きました。
そもそもカリブラコア属とペチュニア属が自然に交配することはありません。それを世界でもほぼ当社でしかできない技術で、属間雑種を作ることに成功しました。
それにより、ペチュニアにはない、強健な商品が作れるようになりました。歴代のブリーダーが引き継いだ技術で開発したので、すごく時間がかかりました。
とにかく雨に強い!
───先日、井上さんが「『ビューティカル』は雨に強いのがすごい!」とおっしゃっていたのがとても印象的でした。井上雨に強いのは、すごく魅力的です。「ビューティカル」の花弁は、わりとピチッとしていますよね。
川嶋「ビューティカル」は、通常のペチュニアに比べるとやや花弁が厚いと思います。そして、雨に強いのは、カリブラコアの性質を受け継いでいます。
インタビュアー私は、自宅で「フレンチバニラ」を寄せ植えにして育てています。少し前に強風と雨の日があり、花が全部飛んで行ってしまうのではないか、とても心配していました。翌日に確認したら、きれいに咲いていて、びっくりしました。
立体的で1株でも見栄えがする
「ビューティカル®」
─── 「ビューティカル」は、ふわっと立体的になる印象なのですがいかがですか。
井上普通のペチュニアとは異なり、立ち性でもほふく性でもなくて、ふわっと広がる感じがよいと思いました。ハンギングに利用してもよいですし、遠くから見ても1株で見栄えがよいので、寄せ植えの主役に使ってもよいお花だと思いました。
母は、高齢になり重たいものが持てないので「ビューティカル」は、直径30cmの鉢でハンギング用の軽い用土を使って育てています。
手を掛けずにそのまま育ててもきれいなのですが、ちょっと手入れしてあげると草姿だけでなく、本当にたくさんの花を咲かせてくれると喜んでいました。今では、夫婦で水やり当番の奪い合いをしているそうで、お世話が楽しくなる品種なのだなと思いました。
井上とてもすてきなお話ですね。「ビューティカル」は1株でもすごくボリュームが出ますよね。そこがお客様からするとお買い得だなって思います。2株買うところを1株で済んでしまう、育てて楽しいペチュニアだなと思いました。
川嶋「ビューティカル」は、自然に株元からの分枝がよく、きれいに整います。さらに少し手間をかけて、花がらを摘んだり、乱れてきたときに形を整えたりすれば、より美しくなります。
しかも、花色による草姿の差があまりないため、花色違いで「ビューティカル」を寄せ植えにしても、きれいにそろって咲くのがうれしいポイントだと思います。
ニュアンスカラーが魅力的
─── 「ビューティカル」は、従来のペチュニアにありそうでなかった独特な花色だと思うのですが、その点についていかがですか。
井上「ボルドー」や「シナモン」などニュアンス系の色は少し変わっていてとてもよいと思います。
そして「フレンチバニラ」の花底が黒いところがすてきですよね。寄せ植えにしても合わせやすいと思います。
川嶋ありがとうございます。花色といえば、もともとペチュニアの黄色はすごく薄い色しかありませんでした。ペチュニアの淡い黄色の血に、カリブラコアの鮮やかな黄色の血が入ることによって、実現できた花色ということですね。
紆余(うよ)曲折がありながら、ようやくペチュニアでも鮮やかな黄色が出せるようになりました。
花持ちがよく、手間いらずの
「ビューティカル®」
─── 「ビューティカル」のよさについてプロの園芸家として実際に使っていただいて他にも気に入った点があれば教えてください。
井上「ビューティカル」は、花持ちがよく、花がら摘みも少なくて済むところがよいと思いました。
川嶋実は「ビューティカル」の花持ちのよさや花がら摘みが少ない特長は、種が付かないことに由来します。
普通のペチュニアは種を付けないように小まめに花がらを摘む必要がありますが、ビューティカルは種が付かないので、通常のペチュニアより花がら摘みの頻度が少なくなります。そのため、株が疲れにくく、長期間栽培できるメリットにつながっています。
井上あと、葉がべとべとしないというのもよい点ですね。
川嶋ペチュニアの花がら摘みをする時に、べとべとするのを嫌う方が多くいらっしゃいます。「ビューティカル」は、べとべとしないのがよいと、海外でも好評ですね。
海外で人気沸騰中!
─── 話は少し変わりますが「ビューティカル」は、海外でとても注目されているそうですね。
川嶋「ビューティカル」は、海外でも普通のペチュニアより強いことが高く評価され、有名になっています。
特にアメリカで、すごく人気に火が付いています。新しい品種が欲しいという要望が強いヨーロッパでも大きな植栽に使われています。中国でも反響があり、世界的に「ビューティカル」がだんだんと浸透してきています。
「ビューティカル」に限ったことではないのですが、大勢の協力があって販売につながり、日本だけではなく、世界中で売れて、皆さんに喜んでいただいていると聞くと活力になります。たまたま訪れたフランスで「ビューティカル」を見かけたときは、本当にうれしかったですね。
井上「ビューティカル」は、海外で認められるほどよいものなので、ぜひ日本でも、もっともっとみなさんに知っていただきたいですね。そのためにも、私のような人がデザインや他の植物とのコーディネートなど、すてきに見せる方法を提案して「ビューティカル」のよいところをたくさん知っていただきたいなと思います。
寄せ植えやハンギングの講師、イベント企画など積極的に活動されている井上さん、品種を開発する川嶋ブリーダー。異なる業種のお二人が「ビューティカル」通して、花を育てる喜びを共感し、花をめでるような優しい表情で語り合っているのが印象的な対談でした。お二人とも、ありがとうございました。
取材・撮影:サカタのタネ
取材日:2022/6/3