![肥料がいらない?病害虫・連作障害が減る?今話題の「菌ちゃん農法」とは インタビュー編[前編]](/files/co/blog/tokushu/20251125_tokushu_1514_rotation.jpg)
※実践編の最後まで読んでくださった読者の方へ「図解でよくわかる 菌ちゃん農法」書籍プレゼント企画のお知らせがあります。どうぞお見逃しなく。
「えっ、虫って敵じゃないの?」——その常識、今日で変わります。
農薬で虫を追い払い、野菜を守る。そんな“当たり前”の家庭菜園に、いま大きな変化が起きています。話題の「菌ちゃん農法」は、虫を敵とせず、むしろ“共に生きる”という発想。芸能人やインフルエンサーも次々と実践し、SNSで驚きの成果を発信しています。
でも、この農法の本当の面白さは、見た目の成果だけではありません。「虫は腐敗、人は発酵の世界に生きている」——この言葉の意味、気になりませんか?
実はこの秘密について、菌ちゃん先生こと吉田俊道さんに直接お話を伺ってきました。土の中で何が起きているのか? なぜ虫が寄って来ないのか?そして、どうすれば家庭菜園でも“菌ちゃん野菜”が育つのか?
今回はそのインタビューの前編として、『園芸通信』読者の皆さんに向けて、「菌ちゃん農法」の基本と、その奥深い世界の入り口をお届けします。この先にある“常識を覆す発見”を、ぜひ最後までお楽しみください。
きっと、あなたの家庭菜園に新しい世界が広がります。「育てること」の価値が変わり、土と向き合う時間がもっと楽しくなるはずです。
目次
「菌ちゃん先生」こと吉田俊道さんとは?
菌ちゃんふぁーむ代表取締役の吉田俊道さんは、九州大学農学部大学院修士課程を修了後、長崎県庁の農業改良普及員として約10年間携わっていました。
そこで「やっぱり自分でやらないと有機栽培や無農薬栽培はなかなか広がらないから、自分で無農薬の野菜を作りたい」と1996年に有機農家として新規参入しました。
現在は、有機農業の傍ら、「菌ちゃん先生」の愛称で無農薬無肥料の野菜作り、食育などの分野で講演普及活動を行っています。
無農薬なのに虫がこないのはなぜ!?
みんな絵本で読んだように「アオムシはキャベツを食べる」って信じ込んでるでしょ。実は、アオムシがすべてのキャベツを食べるわけじゃなく、アオムシが食べるのは主に弱ったキャベツだけ。アオムシって、分解者なんですよ。もともと弱ったものを食べるんです。菌ちゃんふぁーむも無農薬だから、たまにアオムシは来ますよ。でも、「虫が食べたくない野菜」なんです。
菌ちゃん農法で育つ山東菜(さんとうさい)
虫は「弱った野菜」を食べる!
ここがすごく大事なところで、虫が来るほどおいしいというのはうそではありませんが、本当は果菜類に限った話なんです。果菜類は完熟すると甘くなり、動物を呼び寄せるほどおいしい。これは、完熟=老化したものを虫が食べるからです。老化しているから虫もやって来るんです。果菜類は、虫や動物がおいしいと思うものを作って、おいしく食べてもらって、種をあちこちばらまいてほしいわけです。
虫を殺す暇があったら、虫に食べられない健康なキャベツを作ればいい
結論から言うと、虫は「弱った野菜」を食べます。インフルエンザなども免疫が弱った人がかかるでしょう?それと同じです。そして、腐敗した野菜を食べるだけならただの虫ですが、腐敗する前の野菜を食べるから害虫って呼ばれるんです。だから、虫に食べられないくらい健康なキャベツを作ればいいんです。もっと健康な野菜にすれば、おなかのすいたアオムシでも食べなくなります。
アオムシは、胃液がなく、おなかの中はおよそpH8…つまり、すでに腐っている値と同じなんです。アオムシは胃液がないから、元気で健康なキャベツを食べても消化できない。でも、体内で腐りやすい「弱ったキャベツ」は消化できるから、レース状になるまでばりばり食べ尽くします。
アオムシのウンチ(フン)に驚きの結果

「なぜ菌ちゃんふぁーむのキャベツだけ虫が来なくて、同大学のキャベツには虫が来るのか」。それを調べるため、福岡教育大学で比較実験を行いました。①菌ちゃんふぁーむのキャベツ、②福岡教育大学のキャベツ、それしか食べられない環境に同じ重さ、同じ数のアオムシをそれぞれ放置しました。さあ、どうなったと思いますか?
福岡教育大学のキャベツのアオムシは、どんどん食べて、どんどん体が大きくなって、さらに食べ続けていました。一方で、菌ちゃんふぁーむのキャベツは、本来食べないはずですが、アオムシは無理やり食べているようでした。なぜなら、6日、9日と経過しても小食なままだったからです。

ここでさらに驚いたのは、これだけ食べる量に差があったにも関わらず、キャベツ1gを食べて出すウンチの量を比較したところ、福岡教育大学のキャベツは0.015g、菌ちゃんふぁーむのキャベツは0.024gで、菌ちゃんふぁーむのキャベツの方がウンチの量が多かったんです。
これは、人間で言うとおなかがすいてご飯を食べたいのに、ご飯粒の一部が木の粒だったら?という話です。消化できないから木の粒は食べたくないけれど、空腹で仕方がなく少しずつ食べてみたものの、やっぱり消化不良を起こしたといった感じです。
大学のキャベツを食べたウンチだけカビが生えた!
さらに面白かったのが、大学のキャベツを食べたアオムシのウンチにだけカビが生えて、菌ちゃんふぁーむのキャベツを食べたアオムシのウンチにはカビが生えなかったんです。
そこで、今度はウンチに含まれるビタミンCの量を調べました。大学のキャベツを食べた方のウンチに対して、菌ちゃんふぁーむのキャベツを食べた方のウンチは、ビタミンCの量が約5倍でした。
アオムシは、人間にとって一番大切なさびや老化を止めるビタミンCやポリフェノール、スルフォラファンなどの抗酸化成分を消化できません。つまり、アオムシは消化できない抗酸化成分の野菜をあまり食べず、食べたとしてもほとんど吸収できずに、多くを排せつしていたというわけ。「虫が来た野菜をおいしい」と錯覚して私たちが食べても、そういった野菜は、実は抗酸化成分などが少ない野菜と言えることが分かりました。

キャベツのビタミンC含有量を比較したグラフ
土壌に含まれるたくさんの有用微生物に囲まれて育った菌ちゃんファームの野菜は、ビタミンCなど抗酸化成分を多く含むことで、虫には食べられにくく、人間にはとってもおいしい野菜になります。
アオムシは、弱って食べやすいもの・酸化したものを欲していて、ビタミンCなど元気なものが含まれていると消化できないから、食べなくなるという仕組みなんです。これを理解していないと「虫は敵だ!」「アオムシは(全ての)キャベツを食べる」と信じてしまうんですね。
虫が食べた野菜は出荷できない、だから農薬を使うしかないと考えがちです。農薬を使ったり、防虫ネットを張ったり、微生物農薬を与えるのも一つの栽培方法ですが、これらの対策が必要ということは、虫に食べられてしまうような野菜だということです。
菌ちゃんふぁーむでは、防虫ネットを張らずに野菜を栽培している
だから、菌ちゃんふぁーむでは、防虫ネットを使いません。アオムシは、菌ちゃんふぁーむの野菜を少し食べるだけで、食べ止まります。それは「アオムシが元気なもの、健康な成分を含む野菜を食べないから」です。虫を殺す暇があったら、もっと健康な野菜を作ろうと考え、土を良質な菌だらけにしたんです。それを私たちは「菌ちゃん野菜」と呼ぶようになりました。
ダイコンの根が割れるのは石のせいじゃない?!野菜たちは「腐敗」が大嫌い!
野菜は「発酵」の世界に生きている
この世界には「腐敗」と「発酵」があり、それぞれで生きる世界が違うんです。例えば、ダイコンの根は、石に当たったから割れるんじゃないんです。根は、アスファルトを壊すほどの力があり、石なんて蹴飛ばします。
しかし、腐ったものに当たるとあっという間に割れて広がります。野菜たちは「腐敗」が大嫌いなんです。だって野菜は「発酵」の世界に生きていますから。
私たち人間も新しい細胞を作らないと生きられないから、ウンチやあかのように、さびたもの、劣化したものは捨て、そういったものは私たちの栄養にならないし、「腐敗」の世界にあるものも食べられません。でも、この世界って面白いですよね。私たちが「生」を食べて「死」を捨てるように、その「死」を食べて「生」につくり変える生き物たちもいます。それが虫や菌たちなんです。
土の中の糸状菌を確認する菌ちゃん先生
モグラは敵じゃない!「腐敗」した土にいるミミズを求めてやってくるだけ
フトミミズは「腐敗」、ホソミミズ(シマミミズ)は「発酵」が大好き!
フトミミズは「腐敗」が大好きです。一方でホソミミズ(シマミミズ)は「発酵」が大好きなんです。モグラは目が見えないので、どこにミミズがいるかな~?と探しにやってきます。フトミミズは「腐敗」している畑の土をよくしてくれます。しかし、まだそこにフトミミズがとどまっているということは、ちゃんと土がよくなってない、つまり「まだ土が腐っている」ということなんですよ。
虫は弱ったものを食べると言いましたよね。野菜はいつ弱るのか、それは、土が腐ると弱るんです。私たちは「腐敗」を浄化して、「発酵」した土を作らないといけません。モグラは、わざわざ腐ってフトミミズがいるところに来るんだから、モグラが悪いんじゃなくて、畑の土が腐るようなことを私たちがしているから、フトミミズもモグラもやって来るんです。
土を腐敗させるようなものを入れなくなると、モグラが15cm下に行き、その次は26cm下に行くんです。ここまで下に行ってくれると、モグラさんありがとうですよ。だって、土深くに空気を通してくれるから、野菜の根はもっと健康になる。モグラが通ると土の中に空気が通るから、今までたまっていた深いところにある腐敗した土(ヘドロ)も消えていくんです。
防虫ネットなしでもほとんど虫に食べられていない菌ちゃんふぁーむのチンゲンサイ
最後、残った腐敗層のところにモグラが来て、そして翌年からいよいよモグラはほとんど来なくなりました。あれだけモグラが来る畑だったのに、今は、来はしますけど、害にはなりません。ちょこっと来るだけ。
なぜって?モグラもね、暇じゃないんですよ。虫は腐敗の世界にいるんです。わざわざ腐敗していないところに虫を探しに来たっていないんだから。発酵の世界は微生物がいっぱいで、虫の出番がないんです。だから、モグラは腐敗しているところに虫を探しに行くようになるんです。
この世界は、どちらかといえば「腐敗」へ進みます。牛乳は、放っておいたらヨーグルトにならずに腐りますよね。煮たダイズも置いといてもみそにはならない。こんな元気な私でも、その指を切って、ラップでくるんでおいたら「腐敗」するんです。昔は、ウンチやおしっこが腐敗して、ウジやボウフラなどが湧いてもそれでよかったんです。なぜなら、最後はウジもボウフラもいない世界になります。それは、腐敗が取れて、浄化されたことを意味します。
肥料に頼らずぐんぐん育つ「菌ちゃん野菜」
「菌ちゃん野菜」は「菌とつながった健康な野菜」
「菌ちゃん野菜」といっても、これは特別な野菜じゃないんですよ。菌と太陽の力でどんどん健康になった野菜のことです。有機栽培・自然栽培で「菌とつながった健康な野菜」が作れたら、みんな「菌ちゃん野菜」です。ビタミンCなど抗酸化力の高い健康な成分をたくさん含んだおいしい野菜になったら、虫は食べなくなります。なんて虫のいい話でしょう?「腐敗」の世界にいる虫やモグラは、敵じゃないということはもう分かってくれましたね。
ところが、残念なことに有機肥料の入れ方などによって土が腐敗し、抗酸化力が少なく、病害虫が発生しやすい有機野菜も中にはあります。そういう有機野菜は、有機肥料で細胞を膨らませて、太らせてしまっているんです。
でも、無肥料で育てる「菌ちゃん野菜」は違います。土の腐敗がほぼなくて、肥料分の吸い過ぎは起きません。抗酸化力も高いので「菌ちゃん野菜」は、外葉の老化もとても遅いんですよ。
菌ちゃんの力と太陽の光を浴びてすくすく育つ菌ちゃんふぁーむの畑
この世界は、常に虫や菌たちが弱ったものや死んだものを食べて、新しい命に変えるという仕組みができています。これをちゃんと理解できずにいると、いつまでたっても悩みながら有機栽培・無農薬栽培をして、農薬の代わりにどうやって虫を殺そうと考えてしまいます。
しかし、虫が「死」から「生」をつくり出せる、地球のポンプの役割を担っていることに気付ければ、「地球ってうまく回っていてすごいな~!」と思えるようになりますから。生命で満たされるためには、この地球の循環のポンプである虫が、めちゃくちゃ大切な役割をしている大事な生き物ということです。「虫は本来、健康な野菜は食べない。だから、野菜を健康にさえすれば、虫は寄ってこない。」これが、理想的な有機栽培だと気付きました。
立派に育ったニンジンを笑顔で収穫する菌ちゃん先生
――後編では、講演でも大好評、使い古したパンツを使うお話や肥料を入れず耕す必要もない、うそみたいな「菌ちゃん農法」について伺います。