![肥料がいらない?病害虫・連作障害が減る?今話題の「菌ちゃん農法」とは インタビュー編[後編]](/files/co/blog/tokushu/20251125_tokushu_1515_rotation.jpg)
※実践編の最後まで読んでくださった読者の方へ「図解でよくわかる 菌ちゃん農法」書籍プレゼント企画のお知らせがあります。どうぞお見逃しなく。
「えっ、虫って敵じゃないの?」——その常識、今日で変わります。
農薬で虫を追い払い、野菜を守る。そんな“当たり前”の家庭菜園に、いま大きな変化が起きています。話題の「菌ちゃん農法」は、虫を敵とせず、むしろ“共に生きる”という発想。芸能人やインフルエンサーも次々と実践し、SNSで驚きの成果を発信しています。
でも、この農法の本当の面白さは、見た目の成果だけではありません。「虫は腐敗、人は発酵の世界に生きている」——この言葉の意味、気になりませんか?
実はこの秘密について、菌ちゃん先生こと吉田俊道さんに直接お話を伺ってきました。土の中で何が起きているのか? なぜ虫が寄って来ないのか?そして、どうすれば家庭菜園でも“菌ちゃん野菜”が育つのか?
今回はそのインタビューの後編として、『園芸通信』読者の皆さんに向けて、「菌ちゃん農法」の基本と、その奥深い世界の入り口をお届けします。この先にある“常識を覆す発見”を、ぜひ最後までお楽しみください。
きっと、あなたの家庭菜園に新しい世界が広がります。「育てること」の価値が変わり、土と向き合う時間がもっと楽しくなるはずです。
目次
「菌ちゃん先生」こと吉田俊道さんとは?
菌ちゃんふぁーむ代表取締役の吉田俊道さんは、九州大学農学部大学院修士課程を修了後、長崎県庁の農業改良普及員として約10年間携わっていました。
そこで「やっぱり自分でやらないと有機栽培や無農薬栽培はなかなか広がらないから、自分で無農薬の野菜を作りたい」と1996年に有機農家として新規参入しました。
現在は、有機農業の傍ら、「菌ちゃん先生」の愛称で無農薬無肥料の野菜作り、食育などの分野で講演普及活動を行っています。
※インタビュー編[前編]はこちら。
菌と太陽の力だけで株が大きく育つ
菌と太陽の力で育つ山東菜とダイコン
肥料を入れていないのに、こんなに元気で大きな野菜ができることが驚異的だよね。農業を専門でやればやるほど肥料は不可欠で、肥料がなかったら葉が黄色くなっちゃうと思っているから、私も最初は信じられなかったですよ。肥料に頼らず、菌と太陽の力で株が大きく育つんだから、そりゃ面白いですよ。
糸状菌は、見えるのも面白い。他にも見えない菌がいっぱいいて、糸状菌が支えているんだと目で見えると興味深いよね。しかも、菌で畑づくりを続けると肥料を入れないから、川がきれいになる、海もきれいになる。結果、地球によいことばかりだからワクワクしますよ。
菌ちゃん野菜のマルチの中には、糸状菌がたくさん
「菌ちゃん野菜」のおいしさが分かる子どもたち
菌ちゃんふぁーむの野菜が売れているのは「おいしいから」
なぜ、菌ちゃんふぁーむのニンジンが売れるかというと「有機野菜だから」ではなく、「おいしいから」です。実は、私の作る「菌ちゃん野菜」の売り上げが急に上がった理由はそこにあります。今では、この無農薬の野菜を3haで作れるようになって、20人ぐらいのスタッフがいる会社組織になりました。
菌ちゃん野菜の採れたてニンジン
同じ品種の野菜なのに、虫が来る畑よりも、虫が来ない畑の方がおいしかったんです。虫は分解者、人間は消費者。分解者がおいしいと思うものを、人間がおいしいと思うわけがないんです。特に5歳ぐらいの子どもたちは味蕾(みらい)細胞が著しく発達しているからだませないですよ。
1000人規模の食育イベントで、はっきりと味が異なるキャベツやキュウリを置いて、どっちがおいしいですか?ってやるんです。そうすると、子どもたちはみんな分かるのに、大人は分からない人が結構いるんです。たぶん、ミネラルの欠乏なども相まって、味蕾細胞が少なくなっているんじゃないかと思います。
今の子どもたちは、ニンジン嫌い!トマト嫌い!と野菜を食べたがらない子が多いんです。しかし、菌ちゃん野菜を作っている保育園には、おいしいニンジンを知っている子どもたちがいます。出された野菜を食べて「先生、今日は菌ちゃんニンジンやなかやろ?」と聞いてくる子どもがいると保育士さんが言うんです。あれには本当にびっくりですよ。
色も濃く、つやつやとした菌ちゃん野菜のニンジン
肥料の代わりは木や落ち葉、使い古したパンツも?!
菌ちゃん先生が家庭菜園を広げたい理由
私が家庭菜園を広げたい理由の一つは、食糧自給率がかなり変わってくると思っているからです。今、肥料の値段は3倍ですからね。皆さんがトイレットペーパーのように肥料を買い占めたら、あっという間にホームセンターから肥料がなくなるんですよ。皆さんが買い占めないからあるというだけです。
じゃあ、肥料の代わりにどうするのか。竹とか木とか落ち葉とか、なんなら保育園は綿100%のパンツなどの肌着を使います。○○ちゃんのパンツって書いてね。綿のパンツに菌糸がばーっと付いて、健康な野菜ができるんだから。だから、肥料はいらないんですよ。スタッフが冗談で「これは菌ちゃん先生のパンツで、ダブル菌効果です。」なんて説明するんですよ(笑)。
菌ちゃんふぁーむの全景
子育てと野菜を育てることは似ている
今回、パンツの話はこのくらいで置いといて、野菜を自分で作ると、さまざまなことに気付きます。子育てと野菜を育てることは似ていて、水をやるやらないの見極めなど、野菜の力を信じることも大切です。過保護になり過ぎるとどんどん弱るんです。そういうことも含めて勉強になりますよ。いろんな生き物とのつながり、地球環境の問題、さまざまなことが見えてきます。地球で生きる以上は、地球の仕組みというのを体験してほしい。
うまく全てを生かす道はないだろうかって考えてみてください。それは、発酵の世界を作るってことです。そうすると、虫が畑からいなくなります。でもそれは、虫がかわいそうじゃない。虫は腐敗の世界でちゃんと生きていけるからね。そのための方法として、「菌ちゃん野菜」「菌ちゃん農法」を広げています。今、全国にどんどん広がって、北海道から沖縄までやっています。
世界情勢により、食料や燃料が安定して供給される時代がいつまで続くか分からないですからね。だからこそ、家庭菜園をやる人を増やしていきたいんですよ。
まずは家庭菜園・農的体験をしてほしい
今、世界の先進国の中で日本がこんなに自給率が低くなってしまっているのは、やっぱり農業に対する本当の意味で理解がないからです。やばいやばいと言ったって、本当にやばいと思っていないからこんなことになっているわけです。農業は大切だよと言ったって分かるわけない。実際やってみないとね。
家庭菜園・農的体験をすることで食べ物の値段についても「ダイコンが100円よりも50円安いほどいい」という感覚から「50円っておかしいよね」ということに気付けるようになります。どれだけ労力かかっているか、ということも分かるようになるから。
体験することで、楽しさが分かると同時に、やっぱりそれだけ手間と時間がかかっているということも分かれば、もっと農業を大切にしようと考える。地域で頑張って作っている農家がいるなら、それを買って支えるでもいい。だからこそ、一人一人が体験を通して、農業の大切さを分かるようになってほしい。農家が減ったとしても、家庭菜園が広がって、日本全体である程度の自給率を保(たも)てるようになったらいいよね。
丸太を埋めて高畝を作れば耕す必要もなし!うそみたいな「菌ちゃん農法」
もし、肥料が手に入らなくなったとしても、山にはご先祖さまがまだ見ぬひ孫のために一生懸命植えてくれた木がいっぱいあります。自然農法の土づくりは5年かそれ以上かかると言われています。それはその通りなんですけど、「菌ちゃん農法」なら取りあえず、たった3カ月で始められます。

畝の両端に木の枝を埋める様子
畝の両端に木の枝を埋めて、その上に高畝を作れば、畝を壊さずにずっと野菜ができるんです。しかも、野菜を収穫した後、耕さなくていいんです。収穫したら、さらに次の野菜を植えればいいんです。なぜなら、埋め木を餌に菌が育つから耕す必要がないんです。畝の上部には、木のチップや落ち葉などを土と混ぜるのですが、こちらは1年半に1回行うだけ。ご高齢の方でも最初に「菌ちゃん農法」の高畝さえ作ることができれば、その後は力のいる仕事はありません。うそみたいでしょう?

木の枝を埋め込んだ畝
「菌ちゃん農法」に興味はあるけど、ご高齢の方で免許を返納して、落ち葉を取りに行く車もない。そういう方のために「菌ちゃんのウネ作り屋さん」というのもできました。全国に九十数名います。自分で畝を作れない方は、最寄りの「菌ちゃんのウネ作り屋さん」に相談してみてください。
興味はあるけど畑がないという方もいるでしょう。プランターでもできる方法があるので、手に入れやすいもので始めてみてください。
――次回は、いよいよ菌ちゃん農法「実践編」。プランターでも始められる菌ちゃん農法を詳しくご紹介します。記事の最後には、書籍プレゼント企画もご用意しています。お楽しみに。