今話題の「菌ちゃん農法」とは 肥料がいらない?病害虫・連作障害が減る?プランターでもできる[実践編]

肥料がいらない?病害虫・連作障害が減る?今話題の「菌ちゃん農法」とは[実践編]

※実践編の最後まで読んでくださった読者の方へ「図解でよくわかる 菌ちゃん農法」書籍プレゼント企画のお知らせがあります。どうぞお見逃しなく。 

「えっ、虫って敵じゃないの?」——その常識、今日で変わります。

農薬で虫を追い払い、野菜を守る。そんな“当たり前”の家庭菜園に、いま大きな変化が起きています。話題の「菌ちゃん農法」は、虫を敵とせず、むしろ“共に生きる”という発想。芸能人やインフルエンサーも次々と実践し、SNSで驚きの成果を発信しています。

でも、この農法の本当の面白さは、見た目の成果だけではありません。「虫は腐敗、人は発酵の世界に生きている」——この言葉の意味、気になりませんか?

実はこの秘密について、菌ちゃん先生こと吉田俊道さんに直接お話を伺ってきました。土の中で何が起きているのか? なぜ虫が寄って来ないのか?そして、どうすれば家庭菜園でも“菌ちゃん野菜”が育つのか?

インタビューの前・後編に続き、第3弾の今回は『園芸通信』読者に、家庭菜園でプランターでもできる菌ちゃん農法」実践編をご紹介します。この先にある“常識を覆す発見”を、ぜひ最後までお楽しみください。

きっと、あなたの家庭菜園に新しい世界が広がります。「育てること」の価値が変わり、土と向き合う時間がもっと楽しくなるはずです。 

「菌ちゃん先生」こと吉田俊道さんとは?

菌ちゃんふぁーむ代表取締役の吉田俊道さんは、九州大学農学部大学院修士課程を修了後、長崎県庁の農業改良普及員として約10年間携わっていました。

そこで「やっぱり自分でやらないと有機栽培や無農薬栽培はなかなか広がらないから、自分で無農薬の野菜を作りたい」と1996年に有機農家として新規参入しました。

現在は、有機農業の傍ら、「菌ちゃん先生」の愛称で無農薬無肥料の野菜作り、食育などの分野で講演普及活動を行っています。

※インタビュー編[前編][後編]はこちら。

誰でも簡単に始められる「菌ちゃん農法」土づくりの基本4ステップ

菌ちゃん農法で、色濃く大きな葉が育っているキャベツ

ステップ1 高い畝を作る(高さ30cm以上の大型のプランターでも可能)

ステップ2 畝の上に有機物をのせる

ステップ3 畝の上に土をかぶせる

ステップ4 黒マルチで覆う

最新版!プランターやコンテナを使った「菌ちゃん農法」の始め方

用意するもの

・ブルーシート(土を混ぜるため防水の敷きもの)

・小枝

・落ち葉

・[竹や木のチップ・もみ殻]または、[草]のどちらか

・[底に穴もしくはメッシュになっているコンテナ]または、[できるだけ大きくて深いプランター]

・厚手のビニール袋

・じょうろ

・使い古しのプランター用土や山道の側溝にたまった土(肥料が入っている新しい培養土は向きません)

・黒マルチ

・梱包(こんぽう)に使うような太幅のテープまたはひも

・軍手

菌ちゃんに必要な餌は、落ち葉または草、どちらかを利用します。まずは、落ち葉を使った方法から説明します。

落ち葉を使った「菌ちゃん農法」

1. コンテナ、プランター準備をする

プランターはできるだけ大きくて深いものを選ぶ。中で足踏みしても壊れない丈夫なプランターがよい。下の写真のようなコンテナで、底は写真のような穴が開いているものでも、網の目状に穴があるものでもOK。

コンテナは、頑丈で安いのでおすすめ。

コンテナを利用する場合は、側面の穴から土がこぼれないようにビニール袋で側面だけをふさぐ。水はけと通気のため、底はふさがない。

側面を覆うビニールは、土が入っていた袋などを再利用してもよい。

2. 小枝を敷いて、しっかり踏む

小枝をプランターやコンテナの高さの3割程度入れる。コンテナに入らない長さの小枝は折って、向きはそろえずいろいろな方向になるように敷き詰める。

水はけをよくするため、小枝の向きをそろえないように入れる。

小枝を5cm程度の高さになるまで踏みつぶす。これが排水性を促し、いずれ菌ちゃんの餌にもなる。

足で小枝を踏みつぶす菌ちゃん先生。

高さ5cm程度まで踏みつぶされた小枝たち。

3. 落ち葉を薄く入れて、土留めをする

土が小枝の隙間に入らないようにするため、落ち葉を隅々まで薄く敷く。落ち葉は土留めのために入れるので、たくさん入れ過ぎないように注意する。

隅々も忘れず、落ち葉を薄く敷き詰める。

4. 土を準備する

土は、使い古したプランターの土や山道の側溝にたまった土をブルーシートの上に空ける。新品の培養土などは向かないので注意する。

使い古した土をブルーシートの上に出して広げる。

土を強く握っても水がにじまず、軽く握って崩れない程度までしっかり土をぬらして、よく混ぜる。排水性があまりよくない土は、2割程度もみ殻を加えてよく混ぜる。

じょうろで土を湿らせてしっかり混ぜる。

5. 土を入れる

土留めの落ち葉がずれないように最初は優しく土を入れ、コンテナの9分目くらいまで土を入れる。

コンテナの9分目まで土を入れた様子。

6. 菌ちゃんの餌になる落ち葉を土の上に載せる

落ち葉と同量の土を用意する。草が混ざっていたら取り除いておく。

落ち葉と同量に用意した土をしっかり混ぜていく。

落ち葉が乾いているようなら、水でしっかりとぬらして混ぜる。落ち葉が雨に当たって十分湿っているようなら水はかけなくてよい。

落ち葉を水でしっかりぬらす。

水分をなじませるため、落ち葉を足で踏むとよい。

湿らせた落ち葉を足で踏む菌ちゃん先生。

落ち葉と土をしっかり混ぜる。

土を混ぜた落ち葉を山盛りになるように積み上げる。

7. 黒マルチで覆う

雨と日よけのため、黒いビニール袋か黒マルチで覆い、飛ばされないようにテープやひもでしっかり固定する。

密封状態にならないように、指を使って黒マルチに空気穴を開ける。穴の大きさは親指程度の大きさで、四隅に開ける。穴が大きいと乾きやすくなるので注意する。

これで下準備は完了!温度変化が少ない、風も来ない暗所で3カ月以上保管する。保管の途中で土の状態を確認して、表面が乾いていたら、少量の水で湿らせる。冬の1~2月は気温が低く菌が活動しにくいので、月数としてカウントしないようにする。

親指程度の太さに穴を開けた様子。

8. 土の状態を確認する

3カ月以上たったら、黒マルチを開けて中の土の様子を確認する。土表面に糸状菌がほんの少しでも見えたらOK。まだ糸状菌が見えないようなら、黒マルチを元に戻して、もう1カ月待つ。

9. 種まき、または苗を植え付ける

黒マルチに植え穴・まき穴を開け、その下の土が見えたら、こぶしで穴を突き固める。その穴にじょうろで少量の水を注ぐ。土を突き固めることで水分が集まりやすくなる。

マルチに穴を開けてグーパンチでまき穴・植え穴を作る菌ちゃん先生。

植え穴・まき穴に苗を植えるか種をまく。植え付けまたは種まきが終わったら、じょうろで水をやる。土となじませるのが目的のため、水のやり過ぎに注意する。

草を使った「菌ちゃん農法」

落ち葉を使った菌ちゃん農法の「5.」の工程までは同じです。

6. 草を土の上に載せる

草に水をかけて、水分を満遍なくなじませる。草はぬらし過ぎると腐敗しやすくなるので注意する。

湿らせた草が山盛りになるように大量に積み上げる。

これで下準備は完了!落ち葉で仕込む場合とは異なり、マルチもせず雨ざらしで2カ月間置いておく。その間、雨が降って草がぬれているときは細菌類、乾いているときは糸状菌類が分解していく。

7. 土の状態を確認する

2カ月以上たって上の草が圧縮して薄くなっていたらOK。まだ草がふわっとした感じなら、雨が少なかったのが原因。水をかけて草をぬらしてもう1カ月待つ。

8. 種まき、または苗を植え付ける

草をよけて植え穴・まき穴を開け、その下の土が見えたら、こぶしで穴を突き固める。その穴にじょうろで少量の水を注ぐ。土を突き固めることで水分が集まりやすくなる。

植え穴・まき穴に苗を植えるか種をまく。植え付けまたは種まきが終わったら、じょうろで水をやる。土となじませるのが目的のため、水のやり過ぎに注意する。

菌ちゃん農法 植え付け・種まき後の管理

置き場所

植物に日がよく当たり、糸状菌の発達を妨げないように雨が避けられる軒下などにプランターを置く。夏場、コンテナに直射日光が当たってしまう場合は、木材などで日を遮るようにするとよい。

水やり

菌ちゃんの餌の下の土がやや乾き始めたころに水やりをする。5~10分後に鉢底から水が出てくればOK。植え付け後も水のやり過ぎに注意する。

肥料

元肥や追肥は不要。木・竹・落ち葉等を利用した場合は、それが減らないようにたまに追加する。例えば根もの野菜収穫後その穴に落ち葉や竹‧木のチップなどを入れたり、苗を植えてすぐ土に乗せて浅く混ぜる。

草を利用した場合は、野菜の栽培中にも草は減っていくので、常に減らないように何度でも足していく。

「菌ちゃん農法」Q&A

――コンテナだと一度にどのくらい野菜を育てられますか。

菌ちゃん先生
例えば、ダイコンなら6カ所くらい穴を開けて野菜を育てられます。11月に仕込めば、3月くらいに完成するので、春まき専用のダイコン、コマツナ、チンゲンサイなどを組み合わせるのがおすすめかな。5月末くらいになるとダイコンがとう立ちするので、収穫を終えた穴には小枝など菌ちゃんの餌を詰めて、隣に新しい穴を開けて、夏野菜を植え付けます。

夏場におすすめの野菜は、空心菜(エンツァイ)やツルムラサキなど大きくならない葉物野菜がいいね。小まめに収穫すれば長く収穫できるから。

もし、トマトやピーマン、キュウリなど果菜類をコンテナで育てるなら、小さく仕立てて株を大きくしないようにすること。できれば、果菜類は畑で栽培するのがおすすめ。株が大きくなってしまうと、土が乾きやすく頻繁に水やりをしてしまうことで、空気が必要な菌ちゃんが弱っちゃうからね。最近は夏の気温が高過ぎるので、果菜類は朝から半日、直射光が当たるくらいが元気に育つようです。

――野菜を収穫した後、根を取り除いたり、土を耕したりしなくてよいのですか。

菌ちゃん先生
根は、菌ちゃんの餌になるのでそのままで大丈夫!土を耕す必要もない!

できれば、落ち葉バージョンと草バージョン、2種類の菌ちゃん農法を用意できるといいんだよね。収穫後の野菜の茎や葉は捨てずに、草バージョンの補充用の草として利用できるから便利でしょ!菌ちゃん農法を続けるほど、1~2年かけて土の団粒構造ができていきますよ。

――コンテナの底に敷く小枝は、新しいものと古いものどちらがおすすめですか。

菌ちゃん先生
古い小枝だけだと菌ちゃんに早く分解されて、排水が悪くなるので、なるべく新しい小枝を使うのがいい。3~4年はそのままで大丈夫!次第に菌ちゃんのエサになっていくので上から落ち葉などをあまり追加しなくてすむようになってきます。

――落ち葉でおすすめなもの、入れない方がよいものがあれば教えてください。

菌ちゃん先生
古い落ち葉だと、すでに菌ちゃんがしっかり付着していることがあるから、古い落ち葉を使ったほうがいい。

すでに菌ちゃんが付着している落ち葉。

スギの葉は、空気が通りやすく、菌ちゃんが出やすかったね。マツの葉は菌ちゃんが分解するのに時間がかかるので、マツの葉ばかりにならないように注意してください。

また、菌ちゃんの餌を落ち葉で仕込む場合、草がたくさん混入してしまうと別の菌が増えてしまうことがあるので、なるべく入れないようにしてください。

――菌ちゃんの餌にパンツも使えると聞きました。刻んで入れればよいのでしょうか。

菌ちゃん先生
刻まなくても丸めて埋めればOK。落ち葉と一緒にパンツ以外にもシャツやタオルなども菌ちゃんの餌になります。素材は綿や麻やウール100%だけね。1年もすると菌ちゃんが全部食べて、パンツはゴムだけ残りますよ。

菌ちゃんの餌としてパンツを仕込んでいる菌ちゃん先生。

――菌ちゃんが発生するまでコンテナを寝かしておく間、どうしても日が当たってしまいます。どうしたらよいですか。

菌ちゃん先生
とにかく1日じゅう、直射光があたらないようにすること。少しでもあたるようなら、使い古した毛布などで包んで、1日の温度変化がないようにしてください。土などが乾いていないかときどきマルチを外して確認するとよいです。もし、乾いていたら水やりをしてください。

――作物を栽培しているとき、どのくらい乾いたら水やりをすればよいでしょうか。水やりのタイミングが分かりません。

菌ちゃん先生
土の質、日当たり、気温・湿度、植物の種類、育ち具合でその都度変わるので、一概にこうと言えません。土の中に指を突っ込んで、ミミズが育ちにくいなと思えるほど乾いていたらすぐ水やりです。子育てと一緒で、土を見て、触って判断してください。

コンテナの菌ちゃん農法は、水のやり過ぎ、やらなさ過ぎで失敗しがちです。夏場は、午後になっても植物がしおれ気味なら、夕方には水やりをしてください。冬場は、晴天日の昼間に少しでもしおれが見られたら、水やりしてください。水の量は、下から少しにじんで出る程度です。

――草で仕込む場合、雑草の種は取り除いた方がよいでしょうか。避けた方がよい草の種類はありますか。

菌ちゃん先生
草は種ごとでOK。種類も問いません。しっかり山盛りにすれば、種が付いていても雑草が生えてくることはありません。とにかくたっぷり山盛りに載せるのがポイントです。

――夏場に失敗しない栽培のコツは?

菌ちゃん先生
コンテナや大きなプランターを使えば、どの季節でもできます!と言っても、夏場は気温も高く植物も大きく育つので、プランターが少々大きくても乾きやすく、菌ちゃんも弱りやすい!

そういう季節は、黒マルチから白マルチに変えたり、空気が通るようにコンテナの下にすのこを置いたり、側面に日が当たってしまうようなら、木の板で覆って日陰にして地温を上げない工夫をしてください。

レンガなどを積んで、大きめの菜園を作る場合は、側面の内側に発泡スチロールなどの断熱材を入れる方法もあります。

――「発酵」と「腐敗」を判断できるようになるにはどうしたらよいですか?

菌ちゃん先生
人間の鼻のセンサーは優秀ですよ。においで絶対に分かります。私たちの世代は、小さいころの土を知っているから、「これは昔の土のにおい」というのが分かるんです。

もし、そのにおいを知らないのであれば、畑の場合、モグラとミミズで判断します。土の深い部分にモグラが通った穴があるのは、通気が良くなるのでかえって良いことですが、モグラが浅い場所に穴を掘っていたり、フトミミズを何匹か見かけたら、これはもう「腐敗」。その土のにおいを嗅いで、これが「腐敗のにおいだ」って覚えれば、次からもう分かるから。自分で体験することが大事。だから、虫がほとんど来ていない有機農法や自然農法の田畑のにおいもよく嗅いで覚えておくと「発酵」のにおいも分かるようになります。

――「菌ちゃん先生」お気に入りの品種は?

菌ちゃん先生
茎ブロッコリー「スティックセニョール」は、家庭菜園にうってつけですよ!普通のブロッコリーは、側枝を採ろうとしてもそんなに採れません。「スティックセニョール」は、横で採れて、さらに1回深く採ると下からまた大きいのが伸びてくるんですよ。長期間採れるのは、農業的にも家庭菜園でも一番うれしいですよ。

茎ブロッコリー「スティックセニョール」

チンゲンサイ「武帝」もいいですね。農作業ってとにかく忙しいから、どうしても植え付け時期が適期より遅れてしまうときがあります。そうなると他の品種はとう立ちするのに「武帝」は大丈夫。そして、「武帝」の根張りの強さといったらもう、株が大きくなるからいいですね。だから「武帝」だけは作付けに欠かせないですよ。

チンゲンサイ「武帝」

サカタのタネの品種にしかない、いい品種があります。菜の花なら「オータムポエム」がそうです。似たようなツケナはあるけど、育ててみると全然違います。「オータムポエム」は、極早生系なのにちゃんと株が張ってたくさん収穫できて、その上おいしい。低い位置で収穫すると太いわき芽が育つから長期間楽しめますね。

ツケナ「オータムポエム」

――「菌ちゃん野菜」を通して感動したことは?

菌ちゃん先生
「こんなにおいしい野菜を食べたことなかった!」や「初めてこんなに大きく育った」という、うれしい声をたくさん聞きます。菌ちゃん農法で栽培しているたくさんの人たちが、フェイスブック「菌ちゃん野菜応援団」で写真や感想を公開しています。ぜひそちらも見てください!

 

 

(株)菌ちゃんふぁーむ代表取締役・農学修士

吉田 俊道

よしだ としみち

1959年長崎市生まれ。九州大学農学部大学院修士課程修了後、長崎県の農業改良普及員に。1996年、県庁を辞め、有機農家として新規参入。99年、佐世保市を拠点に「大地といのちの会」を結成し、全国に菌ちゃん野菜作りと元気人間づくりの旋風を巻き起こし、現在までの講演回数は2800回を超える。

2007年、同会が総務大臣表彰(地域振興部門)を受賞。2009年、食育推進ボランティア表彰(内閣府特命担当大臣表彰)。映画「いただきます2ここは、発酵の楽園」に出演。主な著書は『図解でよくわかる菌ちゃん農法』『菌ちゃん野菜作り&菌ちゃん人間づくり』など。

菌ちゃんふぁーむの公式サイト https://kinchan.ocnk.net/
菌ちゃん野菜つくり方講座 https://lp.career-ark.co.jp/kin_course_all

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