東アジア植物記 中国南部の野生ウリ

ミヤマニガウリSchizopepon bryoniaefoliusのように寒冷地に生えるウリ科植物はまれです。やはり、ウリ科には暖かい気候がお似合いです。今回は、亜熱帯の中国南部の雲南省で見つけた野生のウリ科植物のお話です。

ヤサイカラスウリ

ヤサイカラスウリCoccinia grandis(コッキニア グランディス)ウリ科コッキニア属。コッキニア属は、サハラ以南のアフリカ中心に30種程度の種(しゅ)があります。乾燥に適応し、塊根(かいこん)や幹が肥大して水を蓄える構造を持ち、「コーデックス」と呼ばれる特徴的な姿を持つ種(しゅ)もあります。

ヤサイカラスウリの属名のCocciniaとは、ラテン語で「深紅色」を表し、種形容語のgrandisとは「大きい」「壮大な」という意味です。それは、この植物の実が赤く、この属の中では比較的大きな実を付けることを意味します。それでもgrandisは、誇張し過ぎだと思います。

これがヤサイカラスウリの熟した果実です。長さ5cm、径3cmほどで、日本のカラスウリより一回り小さく、細長い印象です。中国では「紅瓜」と呼ばれ食用とされます。試しに食べてみましたが、正直にいうとおいしくはなく、もう食べたいとは思いません。実際には若芽や葉、未熟果を利用するのが一般的なようです。

ヤサイカラスウリは、インドから東南アジア、中国雲南省広西チワン族自治区などの温暖で湿潤な林縁や道端などに分布している野生のウリです。一部の少数民族が庭先で作っている場合もあります。

次のウリ科植物を紹介する前に少し余談を。中国雲南省東南部、紅河ハニ族イ族自治州に「弥勒(みろく)市」という都市があります。ベトナム国境まで約200kmと近く、大都市から離れた農業中心の地域です。

弥勒市は、温暖で果物や花の栽培が盛んですが、近年の不動産ブームに乗って大規模なリゾート開発も進められていました。太平湖森林公園リゾートで目にしたのは、なんとサカタのタネが開発した「サンパチェンス」でした。大きな花壇の修景に使われており、日本発の花が世界で広く利用されていることを実感しました。かつて、サンパチェンスのマーケティングリーダーだった私にとって、少しばかりくすぐったい気持ちになる光景でした。

さて、その弥勒市で見つけたウリ科の植物がこれです。

先ほどのヤサイカラスウリのようですが、スズメウリと同じような丸く同じような小さな果実です。

ボディニエリ スズメウリ

ボディニエリ スズメウリZehneria bodinieri(ゼネリア ボディニエリ)ウリ科スズメウリ属。この野生のウリは、中国南部とベトナム、ラオスにかけて分布するこの地域に固有のスズメウリ属です。低山のやぶや湿った林の縁に生息します。

このボディニエリ スズメウリの果実は、熟すと赤くなります。日本のスズメウリは、熟すと白色でした。それがこのボディニエリ スズメウリの特徴です。

中国では、このウリを「紐子瓜」と呼びます。つるをひものようにぐるぐる伸ばす姿から名付けられたのでしょう。「紐子瓜」とはいいえて妙でもあります。

今回紹介したヤサイカラスウリは、食用として世界の熱帯各地に導入され、その強い環境適応力によって原産地以外でも定着している様子がうかがえます。

次回の「東アジア植物記」では、帰化植物としてのウリ科について考えます。お楽しみに。


あんなに暑かった夏と寒い気温との急激な差で体調を崩している方が私の周りにも多くいます。それを「寒暖差疲労」というそうです。それが積もり積もって、さらに積もった感じです。『園芸通信』読者の皆さまも年の瀬に体調を崩さないようにご自愛ください。今年も1年間、お付き合いいただきありがとうございました。

小杉波留夫

小杉 波留夫

小杉 波留夫

こすぎ はるお

サカタのタネ花統括部において、「虹色スミレ」「よく咲くスミレ」「サンパチェンス」などの市場開発を行い、変化する消費者ニーズに適合した花のビジネスを積極的に取り組む。定年退職後は、学校の先生に対する園芸指導や講演活動をしながら、日本家庭園芸普及協会の専門技術員として、自ら開発した「たねダンゴ」の普及活動などを行っている。
生来の「花好き」「植物好き」である著者は、東アジアに生息する植物の研究を楽しみに、植物の魅力を発信中。

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