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連載

【第8回】園芸&公園セラピーでリラックス

宮崎良文

みやざき・よしふみ

千葉大学環境健康フィールド科学センター教授・副センター長20194月からグランドフェロー)。専門は生理人類学。自然セラピー学の確立を目指し、人が自然に触れると安らぐという感覚を科学的視点から研究している。

【第8回】園芸&公園セラピーでリラックス

2019/07/09

これまでの本連載において、「自然と人の関係」「快適性のおはなし」に始まり、「室内における花と緑の癒やし効果」について、紹介してきました。

今回から、「フィールドにおける自然セラピーの生理的リラックス効果」を紹介していきます。今回の前半部分は園芸セラピーについて、後半部分は公園セラピーについて記します。後半部分の公園セラピーは、宋チョロン博士(現・千葉大学環境健康フィールド科学センター・特任助教)が、千葉大学博士課程において精力的に研究を進めた最新データが中心となります。

1. 園芸セラピーでリラックス

1. パンジー生花と造花を見たとき(引用文献1)

男子高校生19名(平均16.2歳)と女子高校生21名(平均16.6歳)に協力してもらい、高校の理科室にて、パンジーの生花を見たときの生理的リラックス効果を調べました。実験風景を上の写真に示します。比較としての対照は、パンジー造花とし、眺める時間は3分間としました。生理指標としては、指式の心拍変動性による自律神経活動を用いました。

その結果、上の図に示すように、パンジー生花によって、交感神経活動の指標となるLF/HFが、造花に比べて、低下しました(統計的有意差あり)。つまり、パンジー生花を見ると、造花を見たときに比べて、ストレス状態が低下することが分かりました。

2. 植物を移動したとき(引用文献2)

現在、能動的な園芸セラピーを生理的に評価した科学的データはほとんど、ありません。ここでは、その基礎段階の園芸セラピー実験として、座って、植物ポットを移動したときの生理的リラックス効果を調べた研究を紹介します。

成人男性24名(平均24.2歳)に協力してもらい、上の写真に示すように、鉢植えの植物(ペペロミア・オブトゥシフォリア)を隣のトレーに移す作業をしました。比較としての対照は、土だけとし、重量は合わせました。生理指標としては、心拍変動性による自律神経活動を用いました。

上の図に示すように、植物の移動によって、LF/HF(自然対数値)が、対照に比べて、低下しました(統計的有意差あり)。LF/HFは、ストレス時に高まることが知られており、その低下は、ストレス状態の軽減を示します。

3. キウイ園を見たとき(引用文献3)

成人女性17名(平均46.1歳)に協力してもらい、8月に千葉大学内のキウイフルーツ果樹園にて、椅子に座って果樹園を眺める実験を行いました。比較としての対照は建物景観とし、眺める時間は10分間としました。生理指標としては、心拍変動性による自律神経活動を用いました。

副交感神経活動の指標となるHF(自然対数値)における10分間の平均値を上の図に示します。HFは、キウイフルーツ果樹園の視覚刺激において対照と比較し、上昇し(統計的有意差あり)、心拍数も、果樹園の視覚刺激において低下しました(統計的有意差あり)。つまり、キウイフルーツ果樹園を眺めると体がリラックスすることが分かりました。

2. 公園セラピーでリラックス

1. 新宿御苑で公園セラピー(引用文献4)

成人男性18名(平均21.0歳)に協力してもらい、7月に新宿御苑ならびに新宿駅周辺 (対照)で実施しました。新宿御苑と新宿駅周辺における実験の様子を上の写真に示します。 新宿御苑は、東京都新宿区と渋谷区にまたがって位置し、来場者は年聞100万人を超えており、日本全国に3カ所ある環境省管轄の国民公園です。歩行時間は14分間とし、生理指標としては心拍変動性による自律神経活動を用いました。

副交感神経活動の指標となるHF(自然対数値)における14分間の平均値を上の図に示します。HF(自然対数値)は、新宿御苑内の歩行において、新宿駅周辺 (対照)に比べて、上昇しました(統計的有意差あり)。私たちは、日常的に、新宿駅周辺などを歩行するわけですが、新宿御苑内を歩いた場合、新宿駅周辺に比べて、体がリラックスしていることが分かりました。

2. 冬の公園でもリラックス(引用文献5)

これまでの気候のよい春と秋の公園歩行実験において、体が生理的にリラックスすることを明らかにしてきました(引用文献6、7)。一般に、屋外で実施される森林セラピー(*)、公園セラピーは、気温の低い冬季には、実施されず、データも全くありませんでした。しかし、冬には冬のよさがあります。そこで、帽子・手袋を着用し、防寒した上で、公園セラピーを実施しました。

成人男性13名(平均22.5歳)に協力してもらい、11月末に、千葉県立柏の葉公園にて実施し、温度は13.8℃でした。対照は公園近辺の道路としました。歩行時間は15分間とし、生理指標としては心拍変動性による自律神経活動を用いました。

その結果、上の図に示すように、リラックス時に高値を示す副交感神経活動の指標であるHF(自然対数値)は、公園歩行時において、都市歩行時に比べて、高まることが明らかとなりました(統計的有意差あり)。冬でも体を暖かく保てば、公園セラピーによって、リラックスできることが分かりました。冬季森林セラピーのリラックス効果については、米国CNNが 2019年3月に奥多摩町において取材し、放映しております。英国ガーディアン紙の特集記事と合わせてご覧ください。

*森林セラピーは特定非営利活動法人森林セラピーソサエティの登録商標です。

おわりに

今回は、園芸セラピーと公園セラピーが、体にもたらす生理的リラックス効果を示しました。特に、園芸セラピー分野においては、脳活動、自律神経活動、内分泌活動などを指標とした研究論文は、私たちの研究報告以外には見当たらないのが現状です。

現在、生理的評価システムが確立しつつあり、多くの研究室からのデータ蓄積が待たれています。これまで、園芸セラピーが、リラックス効果をもたらすことは、経験的に知られてきました。今、生理データを蓄積することにより、科学に基づいた園芸・公園セラピーをアピールすることが可能になってきました。

次回は「森林セラピーでリラックス(1)」です。お楽しみに。

引用文献

1)M. Igarashi, H. Ikei, Y. Miyazaki et al. International Journal of Environmental Research and Public Health 12(3) : 2521-2531 2015
2)S. A. Park, C. Song, Y. Miyazaki et al. International Journal of Environmental Research and Public Health 14(9) : 1087 2017
3)M. Igarashi, C. Song, H. Ikei, Y. Miyazaki et al. International Journal of Environmental Research and Public Health 12(6) : 6657-6668 2015
4)松葉直也、宋チョロン、宮崎良文ら 日本生理人類学会誌 16(3) : 133-139 2011
5)C. Song, H. Ikei, Y. Miyazaki et al. Journal of Physiological Anthropology 32: 18 2013
6)C. Song, H. Ikei, Y. Miyazaki et al. Journal of Physiological Anthropology 33: 8 2014
7)C. Song, H. Ikei, Y. Miyazaki et al. International Journal of Environmental Research and Public Health 12(11) : 14216-14228 2015

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