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【第2回】一粒万倍(いちりゅうまんばい) ~種(タネ)まき前にひと手間かけて種をまけば喜び万倍~

【第2回】一粒万倍(いちりゅうまんばい) ~種(タネ)まき前にひと手間かけて種をまけば喜び万倍~

2019/01/29

あなたは種(タネ)から派ですか、それとも苗から派ですか? 最近は圧倒的に苗から派が多いように思います。それはプロの世界でも同様です。一人前の苗にするには手間と時間、さらに技術が必要だからです。


でも種から育てるのにも利点があります。特に趣味園芸の場合、お店での苗の販売は時期が限られています。自分の育てたい品種が苗で必ずしもあるとは限りません。また何よりも種から育てた方がずっと安価です。そうはいっても種からだと難しいんじゃない? と思われるのもうなずけます。そんな悩みをズバリ解決したいと思います。

種の中には赤ちゃんが寝ている?

種から始める植物の栽培では、種から芽を出させることから始めます。それには「まかぬ種は生えぬ」の言葉どおり、種を土にまかないと始まりません。僕ら(50代中後半のおじさん)世代なら、「ウルトラセブン」に出てくるカプセル怪獣のウインダムやミクラスのように、カプセルを放り投げればあっという間に大きなお助け怪獣が登場するがごとく、簡単に芽が出て大きくなればよいのですが、種の場合は残念ながらそこまで単純ではありません。そうはいっても芽の出る仕組みを知っておけばカプセル怪獣とはいわずとも気持ち的にはグッと楽になります。

そこでまず種の構造から理解しましょう。種の中には葉や根などになる植物の赤ちゃんである胚と、光合成して自立するまでの栄養である胚乳がコンパクトに詰め込まれています。

この赤ちゃんである胚は、体を動かさず寝ている「休眠」状態にあります。胚が動きだすには休眠から目覚め、ためていた栄養を分解して成長のためのエネルギーなどをつくり出す(代謝)必要があります。
※無胚乳種子では葉になる部分に栄養が貯えられています。

なんで寝る必要があるの?

私たちが寝るのは体を休めて次の日の活動に備えるためですが、植物はそれとは目的がちょっと違います。例えば春に芽生える夏型1年生植物※は、夏に花を咲かせ、秋に種をつけ枯れます。もしここでこぼれた種からすぐに芽が出たらどうなるでしょうか? 寒い冬を生き残れず枯れるでしょう。逆に秋に発芽する冬型1年生植物※はどうでしょう。春に花を咲かせ夏前に種をつけ枯れます。この場合は暑い夏を、あるいは雨の降らない乾いた季節を種でやり過ごす必要があります。いずれもすぐには芽を出さず、休眠することで生育に適した条件がそろうまで種で待ち、芽を出すよう寝るのです。動物でもクマやリスは寒くエサの少ない冬の季節は冬眠しますよね。

※1年生植物は、1年以内に種子が発芽して成長し、開花、結実し枯死する植物のことをいいます。

種が目覚めるための第一歩

ところで、皆さんは種を土にまいたらまず何をしますか? 小学生のときにアサガオの種をまいたときのことを思い出してください。「芽が出ますように」と声を掛ける、祈る……う~ん。それも間違うとはいいませんが、恐らくは水をやるのではないのでしょうか。実はこの「水」が、種が発芽するための最初のきっかけになります。水があると種はそれを吸って膨らみます。ところが種皮が厚いとか硬いとかといった理由で水を吸えない、また、発芽を抑制するような物質が果肉や種皮にあっても芽を出せない原因になります。種が芽を出すための一番最初のきっかけは水を吸うことがカギになっています。

眠りと目覚めに関わる2つの植物ホルモン

種がきちんと吸水できると次に水は代謝のために使われます。ただし、それは種が眠りから覚めている場合という条件付きです。種の眠り(発芽の抑制)にはアブシジン酸が、目覚め(発芽の促進)にはジベレリンという2つの植物ホルモンが大きな役割を果たしています。前述した通り種は生育するのに不都合な環境条件をやり過ごすために寝ています。実は一定以上の濃度でアブシジン酸が種の中にあると種は寝た状態で水を吸っても動きだしません。花が咲き受粉して種ができ、それが成熟する過程でアブシジン酸の量は増加していきます。そして吸水し、成長するために適した条件になるとアブシジン酸の量が減り、種の中でジベレリンがつくられることで目覚め、活動のためのエネルギーや栄養をつくり出す代謝が始まります。ここでは種が目覚めた後、代謝が始まるために2つの植物ホルモンがカギとなっています。

目覚めのための条件

では植物は成長するために適した条件を何で感じているのでしょうか。一つは「光」です。私たちも朝、カーテンを開けて太陽の光を取り込むことで目がパッチリ覚めるのとよく似ています。この場合、光を受けることで種の中のアブシジン酸の量が減少します。野生の植物の多くは光を必要とするものが多く、人が栽培するために改良してきた植物は比較的光を必要としないものが多いです。それでも例えばレタスやシュンギクなどのキク科作物、ミツバ、シソ、花ではトルコギキョウやキンギョソウなどの種は光を必要とする「好光性種子」で、逆にスイカやカボチャなどのウリ科作物やダイコン、ニラなどの種は発芽に光を嫌がることから「嫌光性種子」といいます。

また「温度」がアブシジン酸の量を減らす要因になる場合もあります。一般に多くの植物は20~25℃でよく芽を出します。しかしながら植物によっては20℃以下の低温でよく芽を出す植物があります。冬型1年生植物に比較的当てはまることが多く、野菜ではホウレンソウ、レタス、セルリー(セロリ)、シソ、ネギ、タマネギ、ソラマメ、エンドウ、花ではパンジー、スイートピー、プリムラなどがあります。一方で30℃以上の高温でよく芽を出す植物もあります。これには夏型1年生植物が多く、ナス、トマト、ピーマン、トウガラシ、スイカ、カボチャ、ゴーヤー、トウモロコシ、オクラ、ダイズ、イネなどがあります。この段階では、光あるいは温度が種が目覚めるためのカギになっています。

芽を出し子葉を開いて光合成するまでは動物と同じ

発芽から出芽の生育過程

水を吸い、生育に適した光や温度条件で、代謝が始まり、さらに大量に水を吸い、まず土の中で種は根を出し発芽します。次に胚軸を伸ばし、土から芽を出すことで出芽し子葉を地上に広げ貯えられた栄養を使いながら徐々に光合成を始めます。この光合成を始めるまでは、植物は私たち動物と同じで、代謝のための酵素反応が円滑に進むための温度があれば、酸素を使い呼吸だけで芽を伸ばしていくのです。従って土には、空気が十分含まれていることが大切で、多くの植物は土の水分が多過ぎる過湿と酸欠で芽が出にくくなります。ホウレンソウ、トウモロコシ、ニンジンなどは酸欠で顕著に発芽が悪くなるので注意が必要です。この段階では、温度(地温)それに酵素が根や胚軸を伸ばすためのカギになっています。

上手に芽を出させるための下ごしらえ

ここまで書いてきた中に、種まきの最初の一歩である、上手に目を覚まさせ、土から芽を出させるためのヒントがあります。特に種まきが難しいといわれる植物では、「予措(よそ)」とか「芽出し」あるいは「プライミング」といって、種まき前に下ごしらえをすることで出芽がとてもスムーズになります。ひと工夫することで、発芽とその後の出芽がグンとよくなるので種まきが楽しくなります。

種が吸水しにくい場合の下ごしらえ

種皮が硬く水を吸いにくいことを「硬実」と呼びます。ホウレンソウ、アサガオ、ゴーヤー、オクラ、エンドウなどの種は典型的な硬実です。ホウレンソウやアサガオは、「傷破処理」といって種を紙やすりなどで軽くこすって種皮を薄くすることで吸水しやすくなります。ただし、販売されている種の多くは傷破処理(プライミングの一つの方法)済みのことが多く、処理済みの場合はそのまま何もせずまきます。また、ゴーヤーやオクラは、種に傷を入れなくても、一晩、水に浸漬することで十分芽は出やすくなります。

休眠から目を覚まさせるのに低温が必要な植物の下ごしらえ

休眠から目を覚まさせるのに低温が必要な植物を比較的暑い時期に種まきをする場合は低温処理が有効です。湿らせ軽く絞ったガーゼやペーパータオル(ここで水分たっぷりだと過湿で窒息するので注意)に種を包みチャック付きのポリ袋に入れて冷蔵庫の中で一定期間処理してから種まきします。レタスなどは2~3日、パンジー、プリムラで1週間、スイートピーは2週間ほど処理します。いずれも途中で状態をチェックし、芽が切れ始めた場合(種から芽がほんの少しでも見え始めた状態)は処理をやめ、早めに種まきします。ゴボウの夏まきの場合は流水※に10時間掛け流し、その後に湿らせたガーゼなどに包んでやはりポリ袋などに入れて室内で24時間ほど置き、芽の切れたものからまけば真夏でもよく育ちます。

※流水(水道水をポタポタ程度でOK)を併用した浸漬処理は、種皮などに含まれる発芽抑制物質を洗い流しシュンギクなどでは効果が高い方法です。

休眠から目を覚まさせるのに高温が必要な植物の下ごしらえ

写真提供:住友化学園芸株式会社

また高温によって休眠から目覚める植物で、比較的気温の低い春先3月に種まきをする場合は種まきから加温などして十分な温度を確保することが何より大切です。ナス、ピーマン、トウガラシ、トマトなどでは、ジベレリン処理による発芽促進の併せ技が効果的です。これは種の中でアブシジン酸が減少することでジベレリンが増え代謝が始まる現象を、人工的に再現する方法です。ジベレリンは、種苗店、園芸店などで「STジベラ錠※」などの商品名で販売されているので入手し、規定の濃度と時間、使用方法を守って処理します。また、花の種で比較的休眠の深いものがあるのでそういったものにも効果が期待できます。芽だしがとても楽になるのでおすすめです。

※サカタのタネ 通信販売課では取り扱いがないのでお近くの園芸店でお求めください。

光や酸素が必要なときのよい方法

光や酸素の供給については、予措ではありませんが、種まきの際に覆土にバーミキュライトの細粒を使うことで改善できます。特に好光性種子の場合、覆土をしないことが原則ですが、プロのように四六時中管理もできません。そこで効果を発揮するのがバーミキュライトです。バーミキュライトは光を透過しやすく、かけることで種の乾きも軽減できます。また、バーミキュライトの粒と粒の間の間隙が大きいので酸素の供給もバッチリです。種が寝なければならない理由や目覚めるための条件は、それぞれの植物が最初に自生した「原産地」の気象・土壌・生物的な環境を知ると理解しやすいので、調べてみるとよいでしょう。

発芽までのメカニズム

  • ・種が吸水する
  • ・この段階での発芽阻害要因は、胚が未熟な場合、種皮へ水が染み込まない、発芽抑制物質が含まれる場合など

発芽促進方法
傷破処理、浸漬処理など

  • ・光と温度により内生ホルモンが変化。アブシジン酸が減少し、ジベレリンが生成される
  • ・この段階での発芽阻害要因は、光が強すぎたり、弱すぎたり。温度が高すぎたり、低すぎたりなど

発芽促進方法
バーミキュライトの覆土、高温・低温処理、ジベレリン処理など

  • ・種の中に貯蔵された栄養を分解する酵素が活性化
  • ・この段階での発芽阻害要因は、適温外による酵素反応低下によって、胚の代謝が阻害される

発芽促進方法
低温期の保温・加温、高温期の日よけ

  • ・呼吸により酸素を使いたんぱく質やデンプンなどが分解され、エネルギーが作られ発根する
  • ・この段階での発芽阻害要因は、酸素が行き届かず呼吸ができない

発芽促進方法
良質な培養土の使用

今回は、主に種の下ごしらえについて紹介しました。実際の種まき、育苗については次回以降にご紹介します。

次回は「まかぬ種(タネ)は生えず ~まずはまいてみよう~」です。お楽しみに。

JADMA

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