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【第7回】雨音は冬作の調べ~夏から秋の種まきのあれこれ~

【第7回】雨音は冬作の調べ~夏から秋の種まきのあれこれ~

2019/06/25

関東甲信の梅雨入りは平年6月8日ごろ。今年も関東は6月7日に梅雨入りしました。まだ夏にもなっていないこの時期に、種苗店やホームセンターの種(タネ)売り場は冬から来春にかけて楽しむ野菜や花の種が並び始めます。例年6月は秋まきの花や野菜の種への切り替え時期なのです。少し早いような気がしますが、6月から種まきするものさえあります。


一方で、春まきの作物でもまだまだ種まきができるものがあります。専門的には「抑制栽培」と呼ばれる作型に当てはまる栽培方法です。春まきの作物を夏に種まきして秋に楽しもうというものです。最近は地球温暖化の影響で冬の訪れが後退しているので、抑制栽培は注目の栽培方法です。今回は、これら夏から秋の種まきについてのあれこれをご紹介します。

うっかりするとタイミングを逸してしまいがち

夏から秋の種まきは、大きく6~8月の夏まきと、9~11月の秋まきに分けることができます。それぞれで植物ごとの性質と環境条件を理解して栽培するのがコツです。

夏まきの野菜は比較的高温の25~30℃でも発芽できますが、一方で生育適温は18~22℃程度と涼しいことが条件です。強い日差しと高温下で上手に発芽させ、苗を育てるため、直射日光が当たり30℃を超えるようならば、日中は白寒冷紗などで日よけをし、風通しがよく涼しいところで管理するなどの工夫が必要です。セルトレイやポットでの育苗ならば移動が容易なので、直射日光の当たらない北側のスペースを出芽まで使うというのも一つの方法です。

ブロッコリー「ピクセル」の苗

この時期に種まきをする野菜の代表格にはコマツナ、チンゲンサイなどのツケナや、キャベツ、ブロッコリー、カリフラワーなどのキャベツの仲間の葉菜類があります。ツケナは夏から秋を通して種まきができますが、キャベツの仲間はある程度時期が限定されるので注意が必要です。温暖地でカリフラワーや年内収穫するキャベツは主に7月に、ブロッコリーは8月が種まきの適期です。根菜類のニンジンは、発芽や幼苗時期の乾燥に弱いのであえて梅雨時の晴れ間を狙って種まきをすると失敗を少なくすることができます。

パンジーの種まき時の覆土がけの様子

花は発芽適温が20℃ほどと低いので、生育の際はより涼しくする必要があります。パンジー・ビオラなどはその代表で、出芽を促すため日よけなどはもちろん、セルトレイやジフィーセブンに種まきをする際は、上からかける土(覆土)をバーミキュライトにしたり、地面などに直置きせず空間を空けて風通しをよくするなどの工夫が必要です。

いずれにしてもこの時期は、夏野菜の収穫盛期なのでついうっかり種まきのタイミングを逸してしまいがちです。カレンダーなどにしっかり種まきの予定を記入しておきましょう。

秋の日はつるべ落とし

9~11月に秋まきする植物は冷涼な気温を好み、その生育適温は野菜が18~20℃前後、花は15~20℃に集中しています。生育適温の幅は春まきの植物と比べると半分の5℃ほどしかありません。「秋の日はつるべ落とし」のことわざの通り、秋は冬に向けて気温が急激に下がっていくため、気温と生育適温の重なる時期が短く、結果として種をまける期間も限られます。気温だけでなく冬至に向けて昼間の時間、つまり光合成できる時間もどんどん短くなってきます。従って、適期に種まきをしないと生育が極端に遅くなってしまいます。例えば種まきが1日違うだけで、収穫時期が1週間遅れてしまうこともあるのです。この頃に種まきする作物は、野菜ならばダイコンやハクサイ、エンドウ、ソラマメ、それにホウレンソウなどがあります。花はナデシコ、スイートピー、デージーなどで、冬の寒さで花芽ができて春に花を咲かせるものが中心になります。

なぜダイコンの旬は冬なのか

秋から冬にかけて、気温と生育適温の重なる時期が短いことについて、ダイコンを例に説明してみます。

横浜の月ごとの気温の平均値とダイコンの生育時期ごとの適温

ダイコンの発芽適温は15~30℃と比較的高温でも芽を出します。残暑の厳しい9月ごろでも種まきできるのはこのためです。種まき後20日ほど、本葉4枚程度までの生育初期は20~24℃と温暖な気温を、葉枚数5枚になった中盤からは14~20℃で冷涼な気温を好みます。さらに根は種まき後35日(本葉15枚)程度から本格的に太り始めますが、肥大に適した温度は16℃前後で、肥大中ごろからはさらに低い10~16℃が適温になります。このようにダイコンの生育段階ごとの栽培適温は、秋から冬の気温の変化にほぼ合致していることがよく分かります。つまり栽培に特別な手当ての必要がないこの季節のダイコン栽培が一番容易で、この時期に栽培し収穫したものが旬のダイコンになります。

※写真はサカタのタネ提供

ところで、秋まきのダイコンは、「秋冬ダイコン」とも呼ばれ、さらに収穫の時期に応じて12月までに収穫する「年内採り」、1月に収穫する「年明け採り」、さらに遅い「2~3月採り」に分けられます。この場合、同じ秋まきでも、「冬自慢」に代表される年内採りは9月中に、「冬しぐれ」のような年明け採り品種は9月中旬から10月上旬に、2~3月採りの「冬みねセブン」などは9月下~10月中旬に種まきします。これら秋冬品種の違いは主に寒さに対する耐性と花芽のできにくさの違いです。冬も深まるほど寒さは厳しくなるわけで、収穫時期が遅くなっても葉が凍ってボロボロになったり、地上に出ている根部(いわゆる青首部分)が痩せたり、花芽がよりつきにくい「晩抽(ばんちゅう)性」と呼ばれる性質を持たせてあるためです。いずれにしても種袋の情報を頼りに栽培する品種を選びましょう。

10月に入りこれぐらいの大きさになれば不織布などを外してもOK(写真はダイコン「冬自慢」)

ちなみにダイコンの種まきをしたらすぐに防虫ネットのトンネルを掛けます。ダイコンの種まき時期は徐々に気温が落ち着いてきて、害虫の活動も活発になります。同様にこのころ、植え付けるキャベツやブロッコリーの苗も害虫の格好の餌食になるので植え付け直後にやはりネットを掛けます。いずれも防虫ネットや不織布を掛けておくのは幼苗時期だけで、苗がある程度の大きさになる10月に入れば害虫の飛来も少なくなるので成長を促すためネットは外します。

春まき作物の種まきは春だけにあらず

冒頭でご紹介した「抑制栽培」ができる主な野菜には、キュウリ、エダマメ、インゲン、ジャガイモなどがあります。花ではヒマワリなども遅くまで種まきできます。

キュウリは、種まき後最短45日程度で最初の収穫ができるという、収穫までの早さが決め手になっています。7月下旬ぐらいまで種まきができ、この場合の最初の収穫は9月上旬です。もちろん春まきしたときよりも収穫期間は短くなりますが、冒頭に書いた通り地球温暖化の影響で冬の寒さや秋の訪れは後退しているので、収穫機会はより広がっているといえます。ただし、台風に遭遇する機会も多くなるので風に弱いキュウリはそこだけが心配です。苗を植え付けるイメージの強いキュウリですが、抑制栽培では十分に温度が取れる時期なので畑などへ直に複数粒を種まきし、1カ所1株に間引きます。その方が苗を移植するよりも早く収穫できます。

インゲンは、受粉の適温が16~25℃です。春まきした場合、夏の暑さで受粉できなくなり収穫は終わります。例えば春まきの一番遅い6月上旬に種まきした場合、収穫は7月下旬ですが10日程度で終わってしまいます。一方で8月上旬に種まきした場合は、種まき時期は暑くても、収穫時期は涼しくなり始めた9月下旬からなので6月上旬まきよりも長く収穫できます。この場合、できるだけ早生で暑さにも強い品種を選ぶのがコツで、つるあり品種の「王湖(おうこ)」などが適しています。

コンテナで抑制栽培したエダマメ「おつな姫」

エダマメの抑制栽培では温度で花芽をつける性質が強い極早生種や早生種を使います。これらの品種は、温度がしっかり確保できる夏場の栽培ならタネまきから55~60日という速さで収穫することができ、温暖地では8月上~中旬の種まきで9月下旬~10月中旬に収穫できます。抑制栽培に使える品種は、極早生種の「天ヶ峰(てんがみね)」などを、早生種なら「おつな姫」「いきなまる」などを選ぶようにします。種まきはセルトレイもしくは直径10.5cm程度のポリポットに育苗用培養土を入れ、セルトレイは1粒、ポットなら2、3粒の種をまいて土をかけます。たっぷり水やりしたら新聞紙を2枚ほど掛けて芽が出るまでは水やりせず半日陰で管理します。出芽後1週間で1カ所2株になるよう植え付けます。昨今は9月下旬といえども残暑厳しく冷えたビールは欠かせません。そんなビールの友として、この時期のエダマメは重宝します。

ジャガイモの場合は「春作」に対して「秋作」と呼びます。種イモの植え付けから収穫までに最低でも100日は必要です。栽培は霜が来ると終了するので、種イモの植え付けは霜が来る時期から逆算して100日以上あり、気温が下がり始める9月上旬以降になっていればできます。植え付けから収穫までの期間が長いほど収量は多くなります。品種は二期作用の「ニシユタカ」や「デジマ」を使います。高温期の植え付けでイモが腐りやすいので、イモは切らずに植え付けます。コンテナ栽培は移動ができるので霜の当たらないところで栽培すれば畑で栽培するよりも多くの収量が期待できます。

8月に種まきしたヒマワリ「ビンセント オレンジ」

ヒマワリは、切り花用の「ビンセント」シリーズや矮性種の「小夏」は開花に日長の影響を受けず一定期間で開花します。温暖地では8月下旬までは寒さ対策などなしで、10月中~下旬には花を咲かせます。

次回もお楽しみに。

JADMA

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