文
望田明利
もちだ・あきとし
千葉大学園芸学部卒。住友化学園芸研究開発部長として、家庭園芸薬品や肥料の開発普及に従事。現在は園芸文化協会理事、家庭園芸グリーンアドバイザー認定講習会講師などとして活躍中。各種園芸雑誌等に病害虫関係の執筆多数。自らも家庭菜園で多品目の野菜を栽培している。
【第1回】苗が食べられた、茎がかじられた
2019/12/17
連載を始めることになりました望田明利です。家庭園芸をしていると、さまざまなトラブルが起こります。この連載では、トラブルの症状別に、原因や対策を初心者の方にも分かりやすく解説していきます。一緒に乗り越えていきましょう!
「お!芽が出てきた」と喜んでいたら、いつのまにかなくなったり、枯れてしまったことはありませんか? 植えたばかりの苗が倒れたり食べられたりして、がっかりしたことはありませんか? 早いものでは種をまいてから数日で発芽しますが、今回はそんな初期段階に多いトラブルをご紹介します。
【目次】
被害1. 発芽した小さな苗が食べられてしまった
●犯人その1:ダンゴムシ
ダンゴムシの生態
ダンゴムシの防除方法
[ちょっと雑学]似ているけど違う! ダンゴムシとワラジムシ
●犯人その2:ナメクジ
ナメクジの生態
ナメクジの防除方法
[ちょっと雑学]ナメクジが葉を食べるときは…
[ちょっと雑学]日本最大のナメクジ!
被害2. 茎がかじられた。茎と根が切り離されて倒れている
●犯人:ネキリムシ
ネキリムシの生態
ネキリムシの防除方法
[ちょっと雑学]「ネキリムシ」の成虫は「ネキリガ」!?
被害1. 発芽した小さな苗が食べられてしまった
犯人その1:ダンゴムシ
ダンゴムシは発芽して間もない柔らかい葉や茎を好みます。コマツナやキュウリなど、多くの野菜が被害にあいます。
本来ならたくさん育つはずの苗がダンゴムシに食べられ、まばらに
ダンゴムシの生態
菜園の中でよく見かけ、触れると団子のように丸くなる虫です。この虫が発芽した若葉を食べたといっても信じない人がいます……。普段は落ち葉や腐った葉など有機物を食べていますが、発芽したての若い苗も好んで食べます。若い苗が食べられたような被害にあい、近くにダンゴムシがいるようでしたら疑ってください。黒っぽい体の色の半分が白くなっている虫を見かけますが、これは脱皮中の虫です。昼間でも見かけますが、本来は夜行性です。成虫で越冬し、寿命は3~4年といわれています。
ダンゴムシの防除方法
枯れ葉の下、鉢下など湿っているところに群生していることが多いので、取った雑草を畑に放置せずに処分する、余計な鉢やブロックは置かないなど生息場所をつくらないようにしましょう。畑でなければ不快害虫用の粉剤などを散布して退治しますが、小さい苗が育っている場所では「サンケイ デナポン5%ベイト」など誘殺剤を苗の周辺に散布して退治します。
[ちょっと雑学] 似ているけど違う! ダンゴムシとワラジムシ
同じワラジムシ目に属し、正面から見るとおわん型の体形で、触れると団子状になるのがダンゴムシ。扁平で触れると逃げ出すのがワラジムシです。とても仲がよく、一緒に集団ですんでいることもあります。なお、ワラジムシは落ち葉や腐った葉などを食べ、生きている植物は食べません。
犯人その2:ナメクジ
ダンゴムシと同じく、コマツナやキュウリなど多くの野菜を好みますが、ダンゴムシと異なるのは茎が硬くなって生育した葉も食べます。
ナメクジの生態
ナメクジは、嫌いな害虫のベストスリーに入るのではないでしょうか。夕方から朝にかけて活動しますが、活動中は這って移動するため細長く見え、ちょっとした隙間や枯れ葉や鉢下などで休んでいるときは太く短い状態で隠れています。成虫で越冬し、寿命は1~5年程度。雌雄同体のため、2匹いれば2匹とも産卵します。梅雨期に孵化した小さなナメクジをよく見かけますね。這って移動しますが、上下移動は苦にしないので草丈の高い野菜でも被害を受けます。
ナメクジの防除方法
触れるとねばねばした粘液が手に付きますが、この粘液が這った後に残り、白く光って見えます。そのため、他の害虫の被害と区別するのは簡単です。夜間、懐中電気をつけて探すのは大変ですので、昼間に鉢下などを見て捕殺しましょう。抜き取った雑草や落ち葉などを放置せず生息場所をなくすことも効果的です。薬剤では「ナメナイト」などペレット状の誘殺剤を土の表面に散布します。ビールを好むため、浅い容器に入れたビールの中に薬剤を入れて退治する方法もあります。
跡が白く残るので、ナメクジの仕業と分かりやすい ※セントポーリアの葉
[ちょっと雑学]ナメクジが葉を食べるときは…
他の虫と同じようにムシャムシャと葉を食べていると思いますか? 実は違います! おろし金のような舌で削り取って食べているのです。新芽がなめられると、そのときは気付かなくても、葉が大きくなるにつれてたくさんの穴が目立ってくるという変わった被害が現れることもあります。
[ちょっと雑学]日本最大のナメクジ!
日本では数種類のナメクジが生存しており、普段見かけるチャコウラナメクジは這って伸びているときで大きくても7cm前後です。2006年に茨城県で見つかった侵入害虫のマダラコウラナメクジは、なんと20cmほど! 自分の畑にいたらビックリしますね。
被害2. 茎がかじられた、茎と根が切り離されて倒れている
犯人:ネキリムシ
ネキリムシは、キャベツ、トマトなど多くの野菜苗の茎を食べます。放っておくと、次々と被害が拡大するため注意が必要です。
ネキリムシの生態
発芽した苗や植えた苗の地面に近い部分の茎が食いちぎられます。根と茎が切り倒され、根が切られたように見えるので、通称ネキリムシ(根切虫)と呼ばれています。東北や北海道などの寒地では年2回、関東以西では年3~4回発生します。夜行性なので、昼間は土の中に隠れていて、夜になると活動をして被害を与えます。植物(雑草)の地面に近い方の葉裏に産卵するので、周辺に雑草が生えていると産卵場所になるので注意が必要です。
ネキリムシの防除方法
被害植物の周辺の1~2cmくらいの浅い表層の土を掘り返してみてください。灰色~茶褐色の2~4cm程度のイモムシが見つかることがあります。この虫がネキリムシです。できるだけ被害植物の周辺を探り、捕殺してください。薬剤では、種をまくときや定植時前に土中にいる虫を退治する「家庭園芸用サンケイダイアジノン(R) 粒剤3」を土に混ぜる、定植後や発芽後にネキリムシを誘引して食べさせて退治する「ネキリベイト」などを土の表面に散布します。ちなみに、頭部が茶~黒色で胴体が白色の2~3cmの大きさの虫を見かけ、ネキリムシと勘違いする人もいますが、こちらはコガネムシの幼虫です。
[ちょっと雑学]「ネキリムシ」の成虫は「ネキリガ」!?
ネキリムシの幼虫に姿が似ている、ヨトウムシ(幼虫)も野菜の葉が大好物です。そのヨウトムシの成虫はヨトウガ(夜盗蛾)なので、それに習って、ネキリムシの成虫はネキリガ(根切蛾)……ではありません! 残念ながらネキリガというガはいません。それではネキリムシの成虫は?と思いますが、ネキリムシとはカブラヤガ、タマナヤガなど茎を食べる虫の幼虫の総称なのです。
次回もお楽しみに。
注釈
防除薬剤は病害虫の効果だけで記載しております。使用の際は適用作物をご確認の上、ご使用ください。
写真提供:住友化学園芸株式会社
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