文
望田明利
もちだ・あきとし
千葉大学園芸学部卒。住友化学園芸研究開発部長として、家庭園芸薬品や肥料の開発普及に従事。現在は園芸文化協会理事、家庭園芸グリーンアドバイザー認定講習会講師などとして活躍中。各種園芸雑誌等に病害虫関係の執筆多数。自らも家庭菜園で多品目の野菜を栽培している。
【第9回】根菜類・イモ類のトラブル② ダイコンが腐る、ジャガイモ表面が凸凹に、など
2020/08/18
前回は、ダイコン、カブ、ニンジンという根菜類や、ジャガイモ、サツマイモ、サトイモといったイモ類など、土の中で育っている野菜の害虫編でしたが、今回は病害についてまとめました。
【目次】
被害1. ダイコン、ニンジン、タマネギの地際部分が腐ってしまった
●犯人:軟腐病(なんぷびょう)
軟腐病の特徴
軟腐病の防除方法
[ちょっと雑学]軟化腐敗するのは軟腐病だけ?
被害2. ジャガイモの表面が凸凹やかさぶた状に
●犯人:そうか病
そうか病の特徴
そうか病の防除方法
[ちょっと雑学]そうか病と間違いやすい「粉状そうか病」
被害3. 貯蔵中のタマネギが腐ってくる
●犯人:灰色腐敗病
灰色腐敗病の特徴
灰色腐敗病の防除方法
[ちょっと雑学]貯蔵中に黒いかび!? が発生した
被害4. ダイコンを輪切りにすると内部が黒くなっていた
●犯人:黒腐病・萎黄病・バーティシリウム黒点病
黒腐病・萎黄病・バーティシリウム黒点病の特徴
黒腐病・萎黄病・バーティシリウム黒点病の防除方法
被害1. ダイコン、ニンジン、タマネギの地際部分が腐ってしまった
犯人:軟腐病(なんぷびょう)
ダイコン、タマネギなどの根菜類をはじめ、非常に多くの野菜に被害を及ぼします。
軟腐病にかかったダイコン
軟腐病の特徴
細菌によって、地際部分が軟らかくなり腐ってしまう病気です。病原菌は土壌中に生存していて、雨が降った後などにいつまでも土壌水分が多い土(水はけが悪い)や、高温時に多発します。名前の通り、被害部分が軟化腐敗すると特有の悪臭がしますので、他の病気と区別しやすく、すぐに分かります。
軟腐病の防除方法
病原菌は土壌中に生存するため、本来は土壌消毒して防除しますが、家庭菜園での薬剤の使用は難しいので、病害が発生しにくい条件を整える「耕種的防除法」を行います。軟腐病にかかって枯れた被害株などは土に混ぜずに、丁寧に残骸を集めて焼却します。マルチング栽培で土の跳ね返りを少なくしたり、高畝にして水はけをよくするのもいいでしょう。また、病原菌は傷口から侵入しますので、根を傷つけないように心掛けてください。
[ちょっと雑学]軟化腐敗するのは軟腐病だけ?
軟腐病以外にも、植物が軟化腐敗する病気があります。ダイコンでは菌核病、ニンジンでは白絹病などです。軟腐病との見分け方は簡単! 腐敗部分の悪臭の有無です。菌核病と白絹病については、第7回を参照してください。
被害2. ジャガイモの表面が凸凹やかさぶた状に
犯人:そうか病
ジャガイモ栽培においてはよく見られる病気で、表面が被害にあいます。
そうか病のジャガイモ
そうか病の特徴
そうか病は栽培中には気が付かず、収穫するときに初めて気が付きびっくりする病気です。ジャガイモの表皮が凸凹になったり、かさぶた状のものが無数にできていたりするからです。「このジャガイモ、食べても大丈夫かな」と不安に思う人もいるでしょうが、外観が悪いだけで皮をむけばきれいなジャガイモ同様に食べられます。
そうか病は細菌によって起きる病気です。花芽ができるころからイモが太り始めますが、そのときの土中の温度が20℃以上、土壌酸度(pH)が5.5~7.0のときに発生しやすいです。
なお、そうか病にかかっても、収穫量にはほとんど影響はありません。
そうか病の防除方法
病原菌を菜園に持ち込まないことが大切です。売られているジャガイモを植えても育てられますが、消毒済みの種イモを使用しましょう。また、連作や未熟堆肥の使用は発生を助長しますので避けてください。
消石灰、苦土石灰などは土中の土壌酸度を上げ、そうか病が発生しやすくなりますので絶対に使用しないでください。
[ちょっと雑学]そうか病と間違いやすい「粉状そうか病」
ジャガイモには「そうか病」以外に「粉状そうか病」という、間違いやすい病気があります。「粉状そうか病」は「そうか病」と同じようにイモの表皮が凸凹になったりしますが、実際はそうか病による被害が多数です。発生原因も異なります。粉状そうか病の原因は、以前は糸状菌(かび)によるものだといわれていましたが、現在は原生生物によって起きるといわれています。また、発生条件も全く異なり、地温20℃以下で土壌酸度が酸性のときに発生しやすいです。
被害3. 貯蔵中のタマネギが腐ってくる
犯人:灰色腐敗病
タマネギは、保存が利き、密植できるため多く栽培する傾向があります。しかし、貯蔵中に表皮の内側に黒いかびが発生して腐ってくることがあります。
灰色腐敗病の特徴
タマネギの貯蔵中に上部の切り口から肩にかけて腐敗し、灰褐色などのかびが生え、黒褐色の菌核を生じます。春先の生育期に感染し、当初は葉が黄色に変色して垂れ下がり、被害が激しいときは葉が黄~白色になって立ち枯れてしまいます。雨が降った後など、土が多湿状態のときに収穫すると被害がより広がってしまいます。なお、貯蔵中にタマネギが軟化腐敗し、悪臭がするのは被害1で解説した軟腐病です。
灰色腐敗病の防除方法
玉を肥大させようと窒素成分が効き過ぎていたり、水はけが悪かったりすると発病しやすくなります。そのため、施肥量に気を付けましょう。感染して被害症状が表れても収穫に近いからと放置することなく「ベンレート(R)水和剤」や「トップジン(R)M水和剤」を散布します。また、収穫は晴天のときに行います。
[ちょっと雑学]貯蔵中に黒いかび!? が発生した
タマネギの貯蔵中に表皮の内側にすすのような黒いかびが発生することがあります。これは黒かび病で、種子や苗にも保菌されていることが多く、生育中は目立った被害は表れません。根などに寄生して収穫時に切断部から内部に侵入します。灰色腐敗病と同じ薬剤で発生が防げます。
被害4. ダイコンを輪切りにすると内部が黒くなっていた
犯人:黒腐病・萎黄病・バーティシリウム黒点病
水分や栄養分の通り道である道管部分や維管束など、ダイコンの内部が黒くなります。
黒腐病のダイコン
黒腐病・萎黄病・バーティシリウム黒点病の特徴
細菌によって起こる黒腐病は、切断面の道管部が黒変しています。病気が進行すると内部が腐敗し黒くなり、その部分が空洞になったりします。葉に症状が出ることもあり、不整形に黄変し、それが「Ⅴ字形」になるのが特徴です。春と秋の雨や曇りの日が続くと発病しやすくなります。春より秋に多く見られます。
糸状菌によって起きる萎黄病の切断面は維管束が黒変しています。葉は下葉から黄変してきます。春まき栽培では生育後期に、秋まき栽培では生育前期から発生します。
糸状菌によって起きるバーティシリウム黒点病は、茎葉など地上部には外観上の変化はなく、収穫して切断して初めて気が付きます。維管束が点状に黒変し、内部も放射状に黒変が表れます。
黒腐病・萎黄病・バーティシリウム黒点病の防除方法
いずれも土壌伝染するので、事前に土壌消毒剤で土を消毒して発生を防ぎます。被害株を放置すると発生源になってしまいます。そのため、耕運機などで土の中で混ぜたり、畑に放置したりせず、集めて焼却してください。また、連作すると発生しやすくなるので、ダイコンはもちろんのこと他のアブラナ科植物の連作も避け、高畝で作るなど水はけをよくしましょう。
次回は「茎がしおれた、茎の色が変わり枯れてしまった」をお送りします。お楽しみに。
注釈
防除薬剤は病害虫の効果だけで記載しております。使用の際は適用作物をご確認の上、ご使用ください。
写真提供:住友化学園芸株式会社
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