文
望田明利
もちだ・あきとし
千葉大学園芸学部卒。住友化学園芸研究開発部長として、家庭園芸薬品や肥料の開発普及に従事。現在は園芸文化協会理事、家庭園芸グリーンアドバイザー認定講習会講師などとして活躍中。各種園芸雑誌等に病害虫関係の執筆多数。自らも家庭菜園で多品目の野菜を栽培している。
【第11回】病原菌による根と地際のトラブル
2020/10/20
前回は主に茎の症状についてまとめました。茎や根のトラブルは、株全体が枯れるという致命的な影響を与えることが多いので、慎重に対処しましょう。今回は根と地際で起こる病原菌による被害についてまとめました。
【目次】
被害1. 下葉から変色が広がり株全体がしおれて枯れる
●犯人:糸状菌(かび)のフザリウム菌
萎凋病(いちょうびょう)、萎黄病(いおうびょう)の特徴
萎凋病、萎黄病の防除方法
被害2. ナスやハクサイの葉あるいは株の半分が変形・変色し症状が拡大し枯れる
●犯人:糸状菌(かび)のバーティシリウム菌
半身萎凋病、黄化病の特徴
半身萎凋病、黄化病の防除方法
被害3. 各種野菜の生育初期に立ち枯れる、レタスの下葉が枯れ次第に全体が枯れる
●犯人:糸状菌のリゾクトニア菌
立枯病、すそ枯病の特徴
立枯病、すそ枯病の防除方法
被害4. トマト、ナス、キュウリなどの葉が青いまま立ち枯れる
●犯人:細菌のラルストニア菌
青枯病の特徴
青枯病の防除方法
[ちょっと雑学] 糸状菌(かび)と細菌の被害の見分け方
土壌病害虫に対処する方法まとめ
土壌病害虫を完全に防ぐのは難しい
土壌消毒剤の使用は家庭菜園では難しい
家庭菜園で土壌病害虫防除を手軽に行うには
被害1. 下葉から変色が広がり株全体がしおれて枯れる
●犯人:糸状菌(かび)のフザリウム菌
根から侵入した病原菌の影響で下葉から黄色っぽく変色し、次第に上部まで黄変して枯れます。トマトなどでは萎凋病(いちょうびょう)、キャベツ、ダイコンなどでは萎黄病(いおうびょう)と呼びます。
萎凋病(いちょうびょう)、萎黄病(いおうびょう)の特徴
トマトの萎凋病の場合、根から侵入した病原菌の影響で下葉から黄色っぽく変色する症状が次第に広がり、株全体がしおれて枯れます。キャベツやダイコンなどの萎黄病では外葉の半分が変色し、次第に症状が全体に拡大して枯れます。ダイコンでは根部の肥大が始まるころから発病が目立つようになります。
萎凋病のトマト
萎凋病、萎黄病の防除方法
キャベツ、ダイコンなどの萎黄病の防除には土壌消毒剤を使用します。今回の最後に記した「土壌病害虫に対処する方法まとめ」で述べていますが、家庭菜園では土壌消毒剤の使用は難しいでしょう。その中で病気にかかりにくい方法や、ある程度防除できる方法をまとめましたので、そちらをご参照ください。
なお、トマトの萎凋病では発病初期に「ベンレート(R)水和剤」を株元周辺の土にまいて防除できます。
被害2. ナスやハクサイの葉あるいは株の半分が変形・変色し症状が拡大し枯れる
●犯人:糸状菌(かび)のバーティシリウム菌
バーティシリウム菌によって引き起こされる病気です。トマトやナスでは半身萎凋病、ハクサイでは黄化病と呼びます。
半身萎凋病、黄化病の特徴
半身萎凋病の特徴は、葉あるいは株の半分は正常で残りの半分が黄変や湾曲し、症状が進行すると枯れるなどの症状が現れることです。ハクサイの黄化病では結球前に発病すると生育が遅れ、中心部は結球せずに黄色くなり、被害が激しい場合はハボタンのように株が開いてしまいます。
半身萎凋病のトマト
半身萎凋病、黄化病の防除方法
ナスなどの半身萎凋病では発病初期に「ベンレート(R)水和剤」を株元周辺の土にまきます。黄化病は土壌消毒します。
被害3. 各種野菜の生育初期に立ち枯れる、レタスの下葉が枯れ次第に全体が枯れる
●犯人:糸状菌のリゾクトニア菌
リゾクトニア菌によって引き起こされる病気です。連載の第2回で記載されている苗立枯病もこの菌によって起き、ホウレンソウでは立枯病、レタスではすそ枯病と呼びます。
立枯病、すそ枯病の特徴
ホウレンソウの立枯病では幼苗期に立ち枯れます。レタスのすそ枯病では地面に接した下葉の葉柄(ようへい)に褐色の病斑をつくり次第に全体に広がって葉が褐変して枯れます。下葉だけで収まることもありますが、発生が激しいときは結球葉にも拡大して球全体が腐ってしまいます。
立枯病、すそ枯病の防除方法
多くの野菜に発生する苗立枯病や立枯病には発生初期に「オーソサイド(R)水和剤」を周辺の土に散布して被害拡大を防ぎます。レタスのすそ枯病には発病初期に「ベンレート(R)水和剤」を散布しますが、下葉が土に触れないようにマルチングすると発病が軽減されます。
被害4. トマト、ナス、キュウリなどの葉が青いまま立ち枯れる
●犯人:細菌のラルストニア菌
細菌のラルストニア菌により引き起こされる病気で、青枯病と呼びます。
青枯病の特徴
トマト、ナス、ピーマンなどのナス科の植物やキュウリをはじめ、多くの野菜に発生します。梅雨明けから気温の高い日が続くと被害が出てきます。晴天の日中に葉がしおれ、夕方回復するという状態が数日続き、葉が茶色などに変色して枯れることなく緑色のまま枯れてしまいます。水不足のためしおれたと勘違いしやすいので注意が必要です。
青枯病のピーマン
青枯病の防除方法
病原菌は土壌中の水分で移動し、傷ついた根から侵入して発病します。土壌消毒以外の防除方法はありませんので、高畝にして水はけをよくするなどして、施肥や除草時に根に傷を付けないように注意します。
[ちょっと雑学]糸状菌(かび)と細菌の被害の見分け方
糸状菌、細菌ともに道管や維管束を侵して、植物は立ち枯れ状になります。病原菌の見分け方は、変色した茎を水の中に入れて揺すってみます。変色した道管などから白く濁ったものが出てくるようだと細菌が原因です。糸状菌の場合は出てきません。
土壌病害虫に対処する方法まとめ
土壌病害虫を完全に防ぐのは難しい
土壌病原菌は土壌中で数年間、長いものでは10年以上生存します。土壌病害虫の防除の基本は「畑に持ち込まない」ということですが、種子、購入した苗、長靴などに付着した土などから畑に侵入してくるため、完全に阻止することは難しいものです。
土壌消毒剤の使用は家庭菜園では難しい
家庭用に販売されている薬剤でも白絹病、萎凋病などの病気に対して土壌混和・土壌灌注(かんちゅう)などで効果が期待できる薬剤はありますが、すべてをカバーすることはできません。農家では土壌消毒剤を使用して防除しますが、家庭菜園での使用は難しいでしょう。
家庭菜園で土壌病害虫防除を手軽に行うには
それでは家庭菜園ではどのようにしたらよいでしょうか。以下の8つの方法をぜひ試してみてください。
① 密植を避け、高畝にして水はけをよくする。
② 連作を避ける。
③ 施肥や雑草除去作業時には根に傷を付けないように行い、傷口からの病原菌の侵入を防ぐ。
④ 土壌被害を受けた作物残渣(ざんさ)を畑に放置したり土中に埋めたりすることは避け、必ず畑から持ち出して焼却処分する。
⑤ トマト、キュウリなど果菜類では接ぎ木苗を植える。
⑥ 緑肥を利用する。 (マリーゴールドやクロタラリアがセンチュウからの被害を、チャガラシが萎凋病、青枯病からの被害を抑制するなど)
⑦ 石灰窒素を利用する。 (センチュウ、雑草種子を防除する効果があるが、汗などで濡れた皮膚に付着するとかぶれたりするので、使用時には注意が必要)
⑧ 真夏の太陽熱を利用して土壌病原菌と雑草種子を防除する。 土を耕運機などでよく耕し、たっぷりと灌水して透明マルチシートで覆います。また、耕す際に米ぬか(1kg/㎡程度)などを入れてもかまいません。ひと月ほど畑が使用できなくなりますが、各種の土壌病原菌と雑草種子を防除できます。
[ちょっと雑学]土壌病害にかかるとなぜ植物は枯れるの?
葉に発生する病気で植物が枯れることはほとんどありませんが、根や地際部が被害を受ける土壌病害に感染すると、ほとんどの植物は枯れてしまいます。根から吸収された水分や養分は、道管を通って葉や果実などに運ばれます。その道管および道管を含む維管束が侵されて腐敗してしまい、水分の移動ができなくなるために枯れてしまうのです。
次回は「ウイルスと害虫による野菜の生育不良」をお送りします。お楽しみに。
注釈
防除薬剤は病害虫の効果だけで記載しております。使用の際は適用作物をご確認の上、ご使用ください。
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集
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