タネから広がる園芸ライフ / 園芸のプロが選んだ情報満載

連載

【第12回・最終回】生育中の植物が枯れる

望田明利

もちだ・あきとし

千葉大学園芸学部卒。住友化学園芸研究開発部長として、家庭園芸薬品や肥料の開発普及に従事。現在は園芸文化協会理事、家庭園芸グリーンアドバイザー認定講習会講師などとして活躍中。各種園芸雑誌等に病害虫関係の執筆多数。自らも自宅でさまざまな種類の草花を栽培している。

【第12回・最終回】生育中の植物が枯れる

2021/11/16

今回は、生育中の草花が枯れる症状について解説していきます。枯れる原因にもいろいろあり、今までの回では病害虫を中心に解説しました。今回は病害虫別にまとめるより理解しやすいと思われますので、被害症状別に解説しました。

【目次】
被害1. 生育中の植物が枯れる、枯れた植物の茎の一部が変色している
 ●犯人:立枯病、茎枯病など
  立枯病、茎枯病の特徴
  立枯病、茎枯病の防除方法

被害2. 生育中の植物が枯れる、枯れた植物の地際部分の茎が変色している、白い絹糸のようなものがまとわりついている
 ●犯人その1:萎凋(いちょう)病、根腐(ねぐされ)病など
  萎凋病、根腐病の特徴
  萎凋病、根腐病の防除方法
 ●犯人その2:軟腐(なんぷ)病
  軟腐病の特徴
  軟腐病の防除方法
 ●犯人その3:白絹病
  白絹病の特徴
  白絹病の防除方法

被害3. 生育中の茎や地際分部の茎が変色していないのに枯れる
 ●犯人その1:青枯病
  青枯病の特徴
  青枯病の防除方法
 ●犯人その2:ネグサレセンチュウ、コガネムシ幼虫
  ネグサレセンチュウ、コガネムシ幼虫の生態
  ネグサレセンチュウ、コガネムシ幼虫の防除方法

立ち枯れ性の病気の防除方法
 [ちょっと雑学1]立ち枯れた原因は細菌? 糸状菌? 簡単な調べ方
 [ちょっと雑学2]鉢・プランターの土の消毒方法

被害1. 生育中の植物が枯れる、枯れた植物の茎の一部が変色している

植物が立ち枯れる原因(害虫が原因の場合を除く)について解説していきます。植物には茎の内側に維管束があります。維管束には根から吸収した水分や養分を植物体内に運ぶ「道管」と、葉中の葉緑素による光合成つくられたでんぷんを運ぶ「師管」があります。維管束は植物の根から葉まで張り巡らされています。道管が病原菌によって侵されると水分の移動が妨げられ、侵された場所より上部の茎や葉に水分が行かなくなり枯れてしまいます。

病原菌が道を壊しちゃったから先へは進めないぞ!

●犯人:立枯病、茎枯病など

茎の一部分が病原菌に侵されて変色し始めます。この変色部分が茎を一周すると、茎の内部で水分の移動が難しくなり、変色部分から上部が枯れてしまいます。アスター、インパチエンス、キキョウ、ケイトウ、トルコギキョウ、ナデシコなど多くの草花が被害を受けます。

立枯病によって茎が変色したアスター(写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集)

立枯病によって茎が変色したアスター(写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集)

立枯病、茎枯病の特徴

主に糸状菌のフザリウム菌、リゾクトニア菌によって引き起こされます。菌は感染して枯れた植物に残存して土壌中で越冬します。また、葉に斑点を生じる各種の糸状菌は茎にも寄生し、被害が茎を一周すると、同様に立ち枯れを起こします。立枯病については、以下のリンク先も参照してください。

立枯病、茎枯病の防除方法

3ページ目の「立ち枯れ性の病気の防除方法」を参照してください。

被害2. 生育中の植物が枯れる、枯れた植物の地際部分の茎が変色している、白い絹糸のようなものがまとわりついている

●犯人その1:萎凋(いちょう)病、根腐(ねぐされ)病など

生育した株が感染すると、初めは下葉や外側の葉が黄変し、次第に黄変した枯れる葉が広がって、株全体が枯れてしまいます。枯れた植物の地際部分が変色・腐敗しています。アスター、ガーベラ、シクラメン、ゼラニウムなどの植物が被害を受けます。

萎凋病のシクラメン(写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集)

萎凋病のシクラメン(写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集)

萎凋病、根腐病の特徴

糸状菌のフザリウム菌、ピシウム菌、リゾクトリア菌など、土壌中に生存している病原菌によって起きます。主に葉に被害を及ぼす病原菌は葉で分生子を生じ、数年間土壌中で生きています。春になると菌核から菌糸が発芽し、菌糸や胞子が放出され、土中の水分などで移動し、根などに付着して感染します。

根腐病を発病したカンパニュラ(写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集)

根腐病を発病したカンパニュラ(写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集)

萎凋病、根腐病の防除方法

3ページ目の「立ち枯れ性の病気の防除方法」を参照してください。

●犯人その2:軟腐(なんぷ)病

土壌中の細菌によって引き起こされる病気です。上記の糸状菌同様、地際部分が変色腐敗して枯れますが、被害部分は特有の異臭がします。アイリス、シクラメン、スイセン、チューリップ、ユリなどの球根類やカトレアなどのラン、サクラソウ、ヒマワリなど多くの草花類が被害を受けます。

軟腐病を発病したジャーマンアイリス(写真提供:住友化学園芸株式会社)

軟腐病を発病したジャーマンアイリス(写真提供:住友化学園芸株式会社)

軟腐病の特徴

軟腐病を起こす病原菌は、高温を好みます。また、水はけの悪い場所で発病しやすいという特徴があります。この病原菌は単独で植物体に侵入しませんが、害虫によって根がかじられた、施肥や雑草取りの際に根を傷つけたりすると、その傷口から侵入します。

軟腐病の防除方法

3ページ目の「立ち枯れ性の病気の防除方法」を参照してください。

●犯人その3:白絹病

糸状菌によって起きる病気です。ガーベラ、キク、クレマチス、パンジー、ボタン、ユリなどほとんどの草花が被害を受けます。地際部分の茎に白い絹糸のようなものが付いて株元が腐り、倒れてしまいます。

白絹病を発病したアイリス(写真提供:住友化学園芸株式会社)

白絹病を発病したアイリス(写真提供:住友化学園芸株式会社)

白絹病の特徴

高温性の土壌病原菌のため、梅雨明けから夏、気温が高くなると発病しやすくなります。発病初期は白い菌糸に覆われるため、他の病気とはっきりと区別できますが、菌核ができ、次第に白い部分が茶褐色になってくると区別しにくくなります。密植すると、1株が感染してしまうと隣の株へと次々と感染が拡大します。土と接している部分から感染するので、野菜ではカボチャやメロンも被害を受けます。

白絹病の防除方法

3ページ目の「立ち枯れ性の病気の防除方法」を参照してください。

被害3. 生育中の茎や地際分部の茎が変色していないのに枯れる

●犯人その1:青枯病

細菌によって起きる病気です。アスター、キク、ダリア、ヒマワリなど多くの草花が被害を受けます。昼間に植物の葉が垂れ下がり、夕方涼しくなると葉が上向くため、水不足のように見えますが、水やりをしても同じような症状が続き、回復せず、葉が緑色のまま立ち枯れるという症状です。

青枯病を発病したキク(写真提供:住友化学園芸株式会社)

青枯病を発病したキク(写真提供:住友化学園芸株式会社)

青枯病の特徴

梅雨明けから夏の高温期になると発病しやすくなります。被害の進行速度が非常に速く、おかしいと感じてから数日で立ち枯れてしまいます。

青枯病の防除方法

後述の「立ち枯れ性の病気の防除方法」を参照してください。

●犯人その2:ネグサレセンチュウ、コガネムシ幼虫

両害虫ともほとんどの草花が被害を受けます。根が腐る(ネグサレセンチュウによる)、根が食べられてなくなる(コガネムシ幼虫による)ため、水分が十分に吸収されず、生育不良になって葉が枯れ始め、激しい場合は立ち枯れ状に枯れます。枯れた植物は根がほとんどないため簡単に抜くことができます。

ネグサレセンチュウ、コガネムシ幼虫の生態

ネグサレセンチュウは地温15℃程度から活動し、高温多湿を好みます。根の中に産卵、ふ化した幼虫のために根が弱ったり腐ったりします。コガネムシは種類によって異なりますが、多くの種類では成虫は6~8月ごろ現れ、葉を食害して被害を与えます。土中に産卵し約2週間程度でふ化して幼虫が現れ、さなぎになる翌年5月ごろまで植物の根を食害します。春と秋の温度があるときは比較的土の浅い部分に生息し、寒い時期は、露地栽培では30cm以上深く潜り、鉢やプランターでは底の方で越冬します。

ネグサレセンチュウ、コガネムシ幼虫の防除方法

マリーゴールドがネグサレセンチュウの繁殖を抑制するので、被害箇所に植えると被害が軽減されます。コガネムシの防除は幼虫が大きくなっている春よりは、ふ化した幼虫が小さい秋が最適です。秋花壇の植え替えのときや鉢・プランターに苗を植えるときに、「ダイアジノン(R)粒剤」を土中に混和して、若い幼虫を退治します。

立ち枯れ性の病気の防除方法

立枯病、萎凋病、根腐病、軟腐病、白絹病、青枯病などの“立ち枯れ”を起こす病原菌は、枯れた植物の残渣(ざんさ)などに付着して、土壌中で越冬します。本来なら、土壌消毒で土中の病原菌を退治しますが、残念ながら家庭で手軽に使用できる薬剤はありません。一度病気が発生すると、茎葉などに発生する病気に比べて退治が難しいので、病気で枯れた残渣(ざんさ)は、できるだけ丁寧に取り除きましょう。可能であれば、周辺の土を取り除いて日光消毒します(後述の「鉢・プランターの土の消毒方法」を参照)。

また、密植あるいは窒素成分過多で軟弱に育つと被害を受けやすくなります。降雨や水やり時の跳ね返りや根に傷をつけることがあると、病原菌が茎に付着したり、根から侵入したりするので注意してください。

軟腐病や青枯病は細菌によって起きる病気です。病原菌は水分で移動し、傷ついた根から侵入します。花壇では、通路よりレンガ1個分くらい高いところで囲うと水はけがよくなり発病が抑えられます。糸状菌のフザリウム菌が引き起こす立枯病や萎縮病などには「ベンレート(R)水和剤」、リゾクトニア菌やピシウム菌が引き起こす立枯病や根腐病には「オーソサイド(R)水和剤」を被害株周辺の土に散布します。白絹病は他の立ち枯れと異なり、はっきりと原因がわかります。「フロンサイド(R)粉剤」を土中に混和あるいは被害株周辺の土に散布します。

軟腐病や青枯病などの病原菌は水分で移動するので水はけのよい花壇を作りましょう

[ちょっと雑学1]立ち枯れた原因は細菌? 糸状菌? 簡単な調べ方

原因が細菌なのか糸状菌なのかは、被害の見た目からは区別がつきにくいことが多いです。原因を調べる簡単な方法としては、以下のようなものがあります。

①変色部分の臭気の有無…糸状菌で枯れた場合は、ほとんど臭気はありませんが、細菌で枯れたときは腐ったような異臭がします。

②枯れた茎を水につける…切り口から白濁した液が出てくるようなら細菌が原因、出てこない場合は糸状菌が原因です。

[ちょっと雑学2]鉢・プランターの土の消毒方法

庭の土の消毒は難しいですが、鉢・プランターの土の消毒は比較的手軽に行えます。消毒に適している時期は、気温の高い7~8月です。消毒の方法は、以下のようになります。

①使用した土を取り出し、植物の根やコガネムシ幼虫などの虫を取り除きます。

②透明の厚いビニール袋に土を入れ、たっぷりと水分を含ませて、出入り口をひもなどでしっかり閉めます。

③日の当たる場所に10日ほど放置します。昼間の高温時には中の土の温度が60℃以上になります。これにより病原菌や雑草の種子を退治できます。

④消毒した土に10~20%程度の堆肥や腐葉土を混和して袋に入れて保管し、必要に応じて使用します。

土の消毒方法。使用した土から根や虫を取り除く→透明の厚手ビニール袋に入れ水分をたっぷり含ませる→口をしっかり閉めて日の当たる場所に放置

今回が草花編の最終回になります、読者の皆さまありがとうございました。

注釈

防除薬剤は病害虫の効果だけで記載しております。使用の際は適用作物をご確認の上、ご使用ください。

この記事の関連情報

この記事に関連したおすすめ商品は、サカタのタネ オンラインショップでご購入いただけます。

JADMA

Copyright (C) SAKATA SEED CORPORATION All Rights Reserved.