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連載

【第22回】ホウレンソウ

佐倉朗夫

さくら・あきお

1975年、東京教育大学農学部卒業。神奈川県農業総合研究所や民間企業で野菜栽培の経済性や環境保全型農業の研究、有機野菜の栽培技術向上に取り組む。現在、明治大学特任教授、黒川農場副農場長。同大学リバティアカデミー「アグリサイエンス」講座で市民を対象とした有機農業講座を担当。著書に『有機農業と野菜づくり』(筑波書房)、『佐倉教授「直伝」! 有機・無農薬栽培で安全安心な野菜づくり』(講談社)、『家庭菜園 やさしい有機栽培入門』(NHK出版)などがある。

【第22回】ホウレンソウ

2017/10/03

一昔前のホウレンソウは、葉の縁がとがって切れ込みが深く、根元は濃赤色に色づき、土臭さはないけれど特有の香りがして味は濃いなどの特徴を持った日本在来種と呼ばれる東洋種でした。しかし、昨今の主流は西洋種の性質を強く受けた交雑種。葉は厚くて葉先が丸く、葉の縁は滑らかで葉柄が太い丸葉で、店頭ではこの形態のホウレンソウばかりが目立ちます。
抽苔(ちゅうだい=とう立ち)の関係で東洋種は春まき栽培には使えませんが、家庭菜園では、春は西洋種、秋は東洋種と使い分けるのも楽しいものです。あくが少なく生でも食べられると銘打った「サラダホウレンソウ」もありますが、やはりホウレンソウはおひたしや油炒めが定番料理でしょう。

葉色が濃い立ち性タイプの品種「ミラージュ」。暑さに強く、べと病に対しての抵抗性もある上、適応作型の広さも特長 写真:谷山真一郎

分類と生態

原産地:中東、イラン
科名:アカザ科(従来の分類体系による)ホウレンソウ属
連作障害:あり(1〜2年空ける)
生育適温:15〜20℃

作型と栽培

現在の品種の多くは東洋種と西洋種の交雑種

ホウレンソウはアカザ科(従来の分類体系による)の植物で、原産地は中東、イランで栽培化されたといわれています。その後、東西の両方向に伝わり、日本へは中国で発達した東洋種が16世紀後半に渡来し日本に土着して日本在来品種となり、ヨーロッパで発達した西洋種は幕末〜明治時代に渡来しました。東洋種は日本ホウレンソウと呼ばれることもありますが、現在の品種の多くは西洋種に東洋種の遺伝子を入れた交雑固定種や、西洋種と東洋種の一代雑種(F1)です。
東洋種と西洋種ではタネや葉の形状が違い、生態的には花成(かせい=花芽が形成されること)の要因となる日長への反応が大きく異なります。

東洋種のタネは角タネ、あるいは針タネと呼ばれるように角を持った形状。一方、西洋種は丸タネと呼ばれ球形をしています。東洋種の葉は深く切れ込み、葉先がとがっていて根元の赤みが濃いのが特徴で、西洋種は葉の切れ込みがなく丸い葉です。

タネまきの時期に応じた品種選びがポイント

ホウレンソウの花芽分化は長日と低温で誘起されますが、長日の効果が圧倒的に高くなります。また、東洋種は西洋種よりも敏感で、東洋種は12~13時間日長、西洋種は14~16時間日長で促進されます。春から夏に向けての栽培では東洋種は抽苔が早くなり、西洋種は抽苔が遅い晩抽性(ばんちゅうせい)を表します。長日の影響を受けにくい晩抽性の西洋種は栽培上で有利であるため、この長所を取り入れた交雑種が普及し、現在では周年栽培が可能となっています。しかし交雑種においても晩抽性のレベルはさまざまであり、タネまきの時期に応じた品種を選ぶようにしましょう。

耐寒性は強く、耐暑性や雨に弱い

生育適温は15~20℃と低く、10℃まではよく成長し、0℃を下回っても凍害を受けません。その半面、耐暑性は弱く、25℃以上では栽培は困難になり、雨にも弱いため日本では夏の栽培は寒冷地や高地に限られます。栽培期間は高温期で1カ月、低温期では2カ月程度と短いので、直まき栽培が行われます。

ホウレンソウの作型例(温暖地の場合)

各作型の特徴と栽培のポイント

[秋・冬まき栽培]
暑さが苦手で長日で抽苔する特性から、秋・冬まき栽培が作りやすい作型。温暖地では9月末にまく秋まきが確実。気温が花芽分化を誘起する低温になったとしても、短日下であるために花芽の発達が抑えられて抽苔の心配はない。最もホウレンソウの生態に合った作型といえるが、収穫期が年を越す場合は温暖地でもトンネルなどの被覆による保温が必要。また、寒地にいくほどタネまきの時期を早くする。

[春まき栽培]
気温上昇期の栽培で、温暖地では3月に入ってからタネをまく。日長が長くなるので長日に感応して花成が始まり、温度上昇でさらに促進されるため、品種には晩抽性の西洋種か交雑種を選ぶ。特に温度が低い寒地では西洋種が使われる。タネまきの時期は暖地にいくほど早くなる。

栽培手順(温暖地の場合)

1.植え床の準備

タネまきの2週間前に、1平方メートル当たり1.5Lの堆肥を施して耕します。酸性が強い畑の場合は、タネまきの1カ月前にカキ殻などの有機石灰を1平方メートル当たり60g程度施してもよいのですが、多少の酸性であっても通常は必要ありません。

通路幅を50cm取り、植え床幅70cm、高さ15cmの畝を作ります。タネはすじまきにしますが、植え床幅70cmでは2条まきにします。長い畝の場合は、直径20mmの支柱を使って鎮圧して、深さ1cmのまき溝を作ります。

〈小面積の場合〉

小面積の場合は植え床の縦方向にすじを作る方法よりも、植え床を横切るように作る横切り作条(よこぎりさくじょう)が便利です。この場合は、条間25cmのすじまきにします。厚さ1.5cm程度の角材などを使って鎮圧して、深さ1cmのまき溝を作ります。

2.タネまき

まき溝にタネを1.5cm間隔(人さし指の太さ程度の幅)で置いて、なるべく薄まきにします。その上に土を1cm程度かぶせ、手のひらで土を強く押して鎮圧します。足で踏んでも大丈夫です。

タネまき後、ハス口を付けたジョウロでたっぷりと水やりをします。発芽までの約1週間程度は、土を乾燥させないことが大切です。

3.間引きと追肥

発芽がそろったらなるべく早い時期に、5~6cmの間隔にハサミで地際から切って間引きます。間引いたら、ボカシ肥料を1平方メートル当たり30g程度を列間にまいて覆土をします。その後、本葉4枚のころに最終間引きを行って株間10cm程度にします。最終間引きが終わったら、前回と同様に同量のボカシ肥料を施します。

4.収穫

草丈が20~25cmになったら収穫期です。根が深く伸び、株元も太くて硬いので、地際をカマで切って収穫します。

秋まき栽培では、葉が地をはうように生育する株があるので、カマの刃を土中に入れて根から切るようにします。葉柄の基部を切ってしまうと葉がバラバラになってしまうので注意します。

有機栽培のコツ

ホウレンソウの大敵、べと病

ホウレンソウの大敵の一つにべと病があります。初めは下葉の表面に、境界がはっきりしない黄白色の小さな斑点ができます。斑点は次第に拡大して薄い黄色になり、さらに被害が進むと葉の大部分が黄色くなり、被害が激しくなると株全体が黄白色になり枯れてしまいます。雨が多く天候不順な年には発生が多くなります。多発するようならばホウレンソウの栽培を1年以上休むことになりますが、通常は、タネまきは薄まきにする、間引きは時期に遅れず正確に行う、全身に病徴を示す株は早期に株ごと除去する、水やりでは葉に水をかけない、などの栽培管理の方法で防ぐことができます。

べと病回避は品種選びとともに栽培・土壌管理など総合的に考える

べと病は、ホウレンソウでは抵抗性品種の育成・改良が進んでいるので、品種を選ぶことで回避できる場合があります。しかし、抵抗性品種は万能ではなく、病原菌自体も新しい品種に対して病原性(「レース」と呼ばれる)を変化させていくため、発病の可能性がなくなるわけではありません。ホウレンソウのべと病に対しては、毎年のように新しいレースに対応した新しい抵抗性品種が開発されており、レース1から始まり現在はレース11が販売されているようです。この闘いには終わりがないので、品種選びだけに頼らずに、先に述べた栽培管理や水はけなどの土壌管理の改善なども加えて、総合的に考えることが必要です。

次回は「コマツナ」を取り上げる予定です。お楽しみに。

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