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【第24回・最終回】緑肥(春〜秋まき栽培)

佐倉朗夫

さくら・あきお

1975年、東京教育大学農学部卒業。神奈川県農業総合研究所や民間企業で野菜栽培の経済性や環境保全型農業の研究、有機野菜の栽培技術向上に取り組む。現在、明治大学特任教授、黒川農場副農場長。同大学リバティアカデミー「アグリサイエンス」講座で市民を対象とした有機農業講座を担当。著書に『有機農業と野菜づくり』(筑波書房)、『佐倉教授「直伝」! 有機・無農薬栽培で安全安心な野菜づくり』(講談社)、『家庭菜園 やさしい有機栽培入門』(NHK出版)などがある。

【第24回・最終回】緑肥(春〜秋まき栽培)

2017/12/05

緑肥とは、作物を畑で育て、土にそのまますき込むことで肥料分になったり、有機物として土壌改良に役立つ草の肥料のこと。雑草も土にすき込めば緑肥になりますが、コントロールしやすい作物をわざわざタネまきして栽培することが重要で、そのための作物が緑肥作物です。

ナス栽培では、風よけと害虫対策にソルゴー栽培が効果的 写真:谷山真一郎

作型と栽培

菜園の土をむき出しにしない緑肥の活用はおすすめ

有機農業や自然栽培の原理は、生物多様性や植物と土との栄養分の循環の中にありますが、菜園の土をむき出しにしないで、常に植物(作物)がある状態を保つためにも緑肥の活用は重要です。次の作付けまでしばらく間が空く畝、通路、菜園の周辺など、適当な場所を見つけて緑肥を作りましょう。

緑肥には、野菜の栽培のような作型は存在しませんが、耐寒性や菜園へすき込む時期などを考えると栽培する時期が決まります。主に春〜夏にかけて栽培する春まきと、秋〜翌年の春ごろまで栽培する秋まきがあります。緑肥の種類も、雑草に夏草と冬草があるように、夏に適したものと冬に適したものがあるので、春まき栽培と秋まき栽培で緑肥を使い分けます。家庭菜園では菜園に作物が少なくなる冬に裸地になることを防ぐことと、春からの野菜の生育を助けてくれることなどから、秋まきで冬越しさせる栽培がおすすめです。

イネ科は肥料分の供給、害虫の飛来阻止、風よけなどに期待大

代表的な緑肥作物はイネ科とマメ科で、イネ科には、ライムギやエンバク、コムギ、オオムギ、ソルゴーなどがあり、マメ科に比べて草丈が伸びることが特徴です。大体は1~1.2mの高さになり、ライムギなどは2m前後にもなるので、バイオマス(有機物)量の確保には効率的です。土にすき込むことによる肥料分の供給と、土壌微生物の餌となる有機物の供給といった土づくり効果以外にも、草丈が高いことから、害虫などの飛来阻止、風よけなどの障壁効果も期待できます。

さらに、生育後に刈り取ったわらは、敷わらとしても使えます。なお、コムギやオオムギでは、カボチャやスイカなどつる性の野菜のマルチング代わりにする特殊な使い方もあります。リビングマルチと呼ばれますが、それに適した専用の品種も市販されています。

マメ科は根粒菌との共生で、窒素養分を土壌にためて地力アップ

マメ科の緑肥作物には、ヘアリーベッチやクローバー類、レンゲ、クロタラリア、セスバニア、エビスグサなどがあります。大きな特徴は、根粒菌というバクテリアとの共生によって、作物の生育に欠かせない窒素を空気中から取り込んで根にためる性質があることです。この作用を窒素固定といいますが、空気中から取り込まれた窒素は、植物が利用できる窒素養分となって土壌中にたまり、地力の増進効果が期待できます。

野菜の近くに緑肥作物のタネはまかない

緑肥作物を栽培する際、タネをまくための特別な畝は必要ありません。空いた畝やスペース、菜園の周辺を利用して育てたり、野菜の畝と畝の間の通路で育てたりします。
畝全体に緑肥作物を育てる場合は問題がないのですが、畝間や通路を利用して育てる場合は、あまり野菜の近くに緑肥作物のタネをまかないようにして、肥料分や日照の取り合いにならないよう注意します。緑肥作物は、食用を目的とする野菜より生育が旺盛であるだけでなく、緑肥作物の多くは、ほかの植物の発芽や生育を抑制するアレロパシー※効果があります。それによって雑草の発生を抑えてくれるのですが、野菜のタネへの影響もあるので注意が必要です。

※アレロパシーとは「植物が放出する化学物質が他の生物に阻害的、あるいは促進的な何らかの作用を及ぼす現象」を意味し、他感作用と訳されている。

緑肥作物の種類と品種名

作型例(温暖地に適応/寒地、暖地では異なるので注意)

エンバクの栽培手順(温暖地の場合)

1.タネまき

緑肥作物の栽培では間引きや追肥などの管理作業はしないので、タネまきはすじまきをおすすめします。ばらまきでもよいのですが、すじまきの方が覆土と鎮圧が確実にできるので発芽がそろいやすいためです。

まき溝は三角ホーの先端などを利用して、深さ1~2cmの溝を作ります。条間は20~30cmとします。

タネをまく間隔は2~3cmにします。やや密植させた方が、刈り取って土にすき込むときの裁断やすき込みがしやすくなり、分解も早まります。

タネまき後に覆土し、クワか三角ホーで表面をしっかりと鎮圧します。

2.刈り取りのタイミング

緑肥は収穫が目的ではないので、刈り取る時期は後作との関係や周辺の作物の草丈などの成長の度合いを見極めて決めます。土にすき込んで利用するのであれば、有機物の分解時に発生する二酸化炭素や有害菌の発生などが、作物の生育を阻害する恐れがあるので、分解し腐熟させるためにある程度の期間が必要です。そのため、夏季で3~4週間、冬季では1~2カ月は、タネをまいたり苗を植え付けたりすることはできないので、後作の状況によって刈り取り、すき込みの時期を決めます。なお、隣接する野菜の栽培の邪魔になるようならば迷わず刈り取ります。

3.刈り取り

刈り取りの適期は、一般的にいえば、イネ科の緑肥作物は穂が出る直前、マメ科の緑肥作物は開花直前です。この時期に刈り取れば、養分の肥料効果も高くなります。タネができてしまった緑肥作物は分解しにくいので、土へのすき込みは避けた方が無難です。

刈り取り後、すぐに土にすき込んで分解させる場合は、作物を倒す前に柄の長い植木バサミなどを使い、上の方からなるべく細かく裁断していきます。マメ科の場合は枯れてからすき込んでも大丈夫です。

4.すき込み

すき込みは、農家の人ならばトラクターで簡単に行えますが、家庭菜園ではスコップやクワを使います。すき込みが大変な場合は、刈り取った後にすぐ土にすき込まず、畝の敷草(マルチング)に使うのもよいでしょう。時間はかかりますが、そのまま畝の上で腐熟させれば土にすき込む手間が省けます。

すき込みや敷草が難しい場合は、畑の隅に穴を掘って埋めても構いません。ただし、そこでの野菜の栽培は、すき込んだ場合と同様に腐熟期間が必要で、おおむね夏冬を問わず1~2カ月は栽培できないと考えてください。緑肥の栽培は、後作など菜園の栽培計画と緑肥の利用計画をもとに、計画的に行うことが大切です。

有機栽培のコツ

緑肥作物の有効利用は、有機栽培に積極的に取り入れよう

緑肥は土づくりには欠かせない技術の一つですが、その効用はそれだけではありません。病害虫の抑制効果への期待も大きく、最近はそれを目的にした緑肥作物の栽培も一般的になってきました。イネ科の緑肥作物に限りますが、天敵を呼び込み温存する効果です。ナスの栽培ではソルゴーが天敵のすみかとして有効であることから、周囲にソルゴーを栽培することが行われています。

さらには、緑肥作物のアレロパシーの積極的な利用です。ヘアリーベッチは高いアレロパシー効果を持つことが知られており、有機栽培だけでなく、殺虫剤や殺菌剤、除草剤を使う一般の慣行栽培においても、雑草抑制効果を利用することで除草剤の使用や耕起作業の軽減を可能にしています。また、エンバクと同属の野生エンバク品種では、キタネグサレセンチュウを強力に抑制するため、それを目的にダイコンの前作に栽培されています。土壌センチュウに対しては、その他にもクロタラリアやエビスグサ、キク科のマリーゴールドなども、そのセンチュウ抑制作用が利用されています。

さらに、リビングマルチとしての緑肥作物の利用も、有機栽培では積極的に取り入れるとよいでしょう。さまざまな緑肥作物の効用を享受することに加えて、畑へのプラスチック製品の投入を減量する意味でも有機農業らしい栽培技術です。ポリマルチや敷わらの代替になるので低コスト、緑肥は自然に立ち枯れるので省力的、さらに乾燥防止、鳥害の軽減などの効果もあります。昨今はリビングマルチ専用の緑肥品種も市販されており、カボチャなどのウリ類だけでなく、サツマイモなどでも利用されています。

「自然の力・有機の力」は、月刊誌『園芸通信』にて2015年1月号からスタートしました。2016年からはウェブ版になりましたが、全部で36回にわたり有機栽培を紹介してきました。3年間を通して読んでいただいた読者の皆さんは、どのように感じてくださったでしょうか。

一般の、いわゆる慣行農業といわれる栽培方法と大して違いがないと感じていただけたのならば、筆者にとっては大成功です。野菜を育てるための基本は有機栽培も慣行栽培も同じです。有機栽培は何か特殊なものだと考えていた読者の方も多くいたのではと思いますが、そうではないのだということを理解してほしいと思いながら回を重ねてきました。里山の木々や草が肥料も与えず、耕しもせず、病害虫防除もしないのに、毎年毎年、元気に育つのは、自然の営み、さらにいえば土に植物を育てる力があるからです。農業はそういう自然の営みの特殊なパターンとしてつくり出されたもので、それが農業の本来の姿だと思います。

自然とのつながりの中で営まれる有機農業は、近代農業における自然離脱の方向とは異なり、農業の本来の姿を継承しながらの発展を目指しています。経済性、効率性、収益性を追求する現代社会の中で有機農業の発展はまだまだですが、収量や効率性だけが目的ではない家庭菜園は有機農業に適していると思います。無化学肥料・無農薬の有機栽培は時間がかかるかもしれないし、自然が相手なので難しさもあるかもしれませんが、それに対していろいろと工夫することも楽しいと思います。「自然の営み」や「土」には作物を育てる力があるのですから、家庭菜園だからこそ、それを利用する有機栽培をぜひ行ってほしいと思います。

JADMA

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