小杉 波留夫
こすぎ はるお
サカタのタネ花統括部において、虹色スミレ、よく咲くスミレ、サンパチェンスなどの市場開発を行い、変化する消費者ニーズに適合した花のビジネスを展開。2015年1月の定年退職後もアドバイザーとして勤務しながら、花とガーデニングの普及に努めている。
趣味は自宅でのガーデニングで、自ら交配したクリスマスローズやフォーチュンベゴニアなどを見学しに、シーズン中は多くの方がその庭へ足を運ぶほど。
天恵 クサイチゴ
2014/05/23
横浜は大都会だが、その台地には人知れず里山が残されている。仕事を終え、都筑区の隠れ里を歩いて家まで帰る小さな旅に出た。サクラ類、ハンノキ、クヌギやカシ類などの樹木の下に、ニリンソウやアマドコロ、ナルコユリ、ホウチャクソウ、エビネ、オモト、ギボウシなど、里山の草たちがひっそりと暮らしている。
そうした林縁には決まって、バラ科キイチゴ属の小低木、クサイチゴ(Rubus hirsutus)が生えている。この植物は、北は日本の本州、韓国、台湾を経てアジア大陸東岸を南下し、雲南に至る南東アジアに生息、花が咲いてから実がなるまでが早く、別名早生苺ともいわれている。
都筑の里山は雑木林に囲まれていて、地元の人以外はほとんど、その存在を知らないかもしれない。そこのけもの道にクサイチゴが一面に咲いていて、これだけ生えればその果実は食べ放題だろうと思い、開花から1カ月後に再び訪れた。
片手いっぱいに摘み、口へ放り込むと瑞々しく爽快で、甘い味がする。噛むと中のタネがコリコリとはじけ、クリスピーな歯ざわりも最高。このクサイチゴはベリーとしても一級の味わいだろう。あたりはほの暗く、薄暮の時にたくさん摘んで帰ろうとすると、近くで“バッキ”と、動物が枯れ枝を踏んだ音がした。
その時、欲からふと我に返った。“いけない、これは獣や鳥たちの大切な食べ物だ、野生の者たちへの天恵を、人が侵してはだめだ”。味見だけで終わりにして、徒歩では長い家路についた。
クサイチゴの花。雌しべが中央に集まり、周辺に雄しべがつく(写真3枚とも、2014年5月14日撮影)
横浜市都筑区の里山で。予想どおり、実がたくさんついていた
美味しいクサイチゴの集合果、ベリーとしても一級品