小杉 波留夫
こすぎ はるお
サカタのタネ花統括部において、虹色スミレ、よく咲くスミレ、サンパチェンスなどの市場開発を行い、変化する消費者ニーズに適合した花のビジネスを展開。2015年1月の定年退職後もアドバイザーとして勤務しながら、花とガーデニングの普及に努めている。
趣味は自宅でのガーデニングで、自ら交配したクリスマスローズやフォーチュンベゴニアなどを見学しに、シーズン中は多くの方がその庭へ足を運ぶほど。
装飾花 ガマズミ属
2014/05/30
東北の春は遅い。4月下旬、他の木々がやっと芽を吹く頃、岩手県宮古市赤前地区の林で、ハッとするくらい白く美しいの花を見かけた。ムシカリ(ガマズミ属、Viburnum furcatum)だった。関東では山地に行かないと見られないムシカリが、岩手では平地に咲く。
ムシカリは別名オオカメノキともいわれ、千島、樺太から北東アジアの東端に沿って自生する、キュートな落葉の小低木だ。花姿は丸く、アジサイ属と間違えそうな装飾花を周囲に配置して、中心部に両性花をつける。
装飾花はアジサイ属やガマズミ属などに見られる。雄しべ、雌しべの構造はなく、もっぱら見せかけをよくするためのもの。さながら花のお化粧である。自分をきれいに見せ、訪れて花粉を媒介してくれる虫を誘う。アジサイの装飾花は4枚のガク片、対してガマズミ属は5枚の花弁が発達する。
同属のヤブデマリ (Viburnum plicatum var. Tomentosum)は南東アジアの東端に沿って分布し、一見ムシカリと似ている。よくみると、5枚の装飾花が1枚だけ特に小さく、妙な形をしている。花つきがよく、コデマリのように花が順に並んでいる姿が美しい落葉低木で、樹高5m程度になる。
ヤブデマリの園芸種にオオデマリがある。すべて装飾花になる品種で、同一種といわれている。オオデマリを二回り小さくしたようなコデマリ(Spiraea cantoniensis)はバラ科で類縁関係ではない。
アジサイ属やガマズミ属の装飾花に集まるのは虫だけではない。人も惹かれるのはなぜだろうか? ムシカリやヤブデマリは、道路際の林縁や湿度のある沢筋に自生していた。このような美しいガマズミ属が道端で、誰に見守られることもなく普通に咲いている、日本の自然が誇らしく思えた。
岩手県で見つけたムシカリ。中心部が両性花で、周囲の大きなほうが装飾花。
花はまばらにつく。
山梨県に咲いていたヤブデマリ。装飾花は1枚だけ花弁が小さい。
ムシカリに比べてかなり花つきがよい。