小杉 波留夫
こすぎ はるお
サカタのタネ花統括部において、虹色スミレ、よく咲くスミレ、サンパチェンスなどの市場開発を行い、変化する消費者ニーズに適合した花のビジネスを展開。2015年1月の定年退職後もアドバイザーとして勤務しながら、花とガーデニングの普及に努めている。
趣味は自宅でのガーデニングで、自ら交配したクリスマスローズやフォーチュンベゴニアなどを見学しに、シーズン中は多くの方がその庭へ足を運ぶほど。
いつまでも野に咲け チョウジソウ
2014/06/13
埼玉県さいたま市の田島ヶ原は、サクラソウの自生地として国の特別記念物となっており、4.2ヘクタールほどのサクラソウのサンクチュアリになっています。この地名から推測するに、荒れる川の中州だったのでしょう。江戸時代には見渡すような原野にサクラソウが咲いていたといいます。
ここにはサクラソウ以外にも、河川の氾濫原に生える野草が花を咲かせています。アマドコロやノウルシ、珍しいヒキノカサなどが自生していますが、荻、葦の間からポッツン、ポッツンと60cmほどの茎を立ち上げ、涼しげな空色で5弁星形の花をつける植物が見えます。それがチョウジソウ(キョウチクトウ科チョウジソウ属、Amsonia elliptica)です。
河川の氾濫原など湿った原野に生える多年草なのですが、治水など河川改修のため、チョウジソウが生える環境がなくなり、世界から姿を消そうとしている東アジアの植物となってしまいました。日本の各地で昔は生えていたという話を聞きますが、この植物を野生で見る機会は本当に少なくなり、5都道府県において絶滅、ほとんどの地域で絶滅危惧種の指定を受けています。いつまでも野に咲いてほしいと思うのは、私一人ではないはずです。
5月の田島ヶ原を見渡す。ピンク色のサクラソウ、黄色のノウルシが目につくが……。
近寄ってよく見ると、すっくと立ち上がるチョウジソウが見つかる。
きれいな五角形を描くチョウジソウの花。スパイスの丁子(クローブ)の蕾に似ているのは横から見た時。