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中国の公園事情 モクゲンジ

小杉 波留夫

こすぎ はるお

サカタのタネ花統括部において、虹色スミレ、よく咲くスミレ、サンパチェンスなどの市場開発を行い、変化する消費者ニーズに適合した花のビジネスを展開。2015年1月の定年退職後もアドバイザーとして勤務しながら、花とガーデニングの普及に努めている。
趣味は自宅でのガーデニングで、自ら交配したクリスマスローズやフォーチュンベゴニアなどを見学しに、シーズン中は多くの方がその庭へ足を運ぶほど。

中国の公園事情 モクゲンジ

2016/06/21

洛陽の朝は黄色くかすんでいました。黄土高原の細かいちりが空気に含まれているのでしょう。ホテル前の公園では、朝早くから楽しげな音楽や不思議な音が漏れ伝わってきます。公園に出ると太極拳をする人たち、ヘンテコな創作ダンスをするおばさんたち、中国式独楽(こま)で派手な音を出すおじさんたち、公園の木をやたらと叩き、背中をこすり付けるグループ、花壇をぐるぐると手をぶらぶらするだけで歩き回る人々、皆、誰に臆することなくおかしな体の動き、好きな運動、いろいろな趣味に高じているのでした。

洛陽は中華中原の大都市。洛水が流れる北部に拓け、多くの古代王朝の都でした。日本の平安京は洛陽を模倣したといわれ、いまだ京都には洛バスが走り、洛南、洛北などの地名があります。そして京都に行くことを上洛といいます。多くの戦乱で都は焼かれ、都市部には古代の栄華を誇るものが見当たりません。しかし、流れている空気がいにしえの雅を伝えている気がしました。

中国の都市では、市民はマンション住まい、共有の中庭や公園は大規模に緑化され、たくさんの木が植えられます。洛陽の花壇の主役はなんといっても「牡丹」(ボタン)ですが、それが終わると「月季」(中国で現代バラの株立ちハイブリッド種の呼び名)が、公園に色を添えます。

中国では定年を迎えると、何かしらの形で公園デビューが待っています。それは、自分の好きなことでよいのです。お年寄りたちが独楽を回していました。その独楽の側面をむちで叩きつけ、勢いを増していきます。

一方、公園の石畳を利用して、書にいそしむ人たちもいます。さすが漢字の故郷だけあって、行書体の美しい筆遣いと配置には拍手をさしあげました。

公園にはさまざまな木々が植えられます。日本では珍しい、モクゲンジが花を咲かせていました。モクゲンジKoelreteria paniculataムクロジ科モクゲンジ属は、中国の華北~華南の大陸東岸省、雲南と朝鮮半島に自生し、日本では日本海側などに隔絶して生える落葉高木です。

モクゲンジKoelreteria paniculataの花です。1cmほどの花を夏に咲かせ、雨のように落とすことから、英語ではGolden-rain treeといわれます。この植物は、枝の先に円錐状に花をつけます。種形容語paniculata(パニクラータ)は円錐花序という意味です。葉は互生で、おおざっぱで不規則な鋸歯をもちます。木は10mほどに育ちます。

モクゲンジKoelreteria paniculataの属名Koelreteria(コールリュウテリア)は、18世紀のドイツ人植物学者Joseph Gottlieb Kölreuter氏にちなみます。果実は秋に熟し、袋状の3つの部屋に分かれます。その中に2つの種子がつくのですが、無事に育つのは1つだけが多いようです。この袋果、皆さんがよくご存知の植物に似ていませんか?

そうです。フウセンカズラです。フウセンカズラはモクゲンジと近縁のつる性草本で、同じくムクロジ科です。ムクロジについては、東アジア植物記の「インドの石鹸 アワアワの実[前編]2014/09/26」と「インドの石鹸 アワアワの実[後編]2014/10/03」をご覧ください。

中国の公園は、人々の憩いの場です。各々好きな趣味に高じ、体を動かしているのは健康の維持に役に立つはずです。そして自分の体力や好みに応じ、それぞれのグループに自由に参加しているようです。人々が家に閉じこもらず、公園を通じ市民同士が交流しあえば、相互扶助の契機になってゆくでしょう。それはこれからの中国が目指す「和諧社会」の実現に符合するものだと思いました。中国の公園植栽樹は、時に空気の浄化装置になり、お年寄りに憩いの場を提供する養老樹となり、健康増進樹でした。


次回は「龍門と遠志」を取り上げる予定です。お楽しみに。

JADMA

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