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冷水に咲く[前編] バイカモ

小杉 波留夫

こすぎ はるお

サカタのタネ花統括部において、虹色スミレ、よく咲くスミレ、サンパチェンスなどの市場開発を行い、変化する消費者ニーズに適合した花のビジネスを展開。2015年1月の定年退職後も嘱託として勤務しながら、花とガーデニングの普及に努めている。
趣味は自宅でのガーデニングで、自ら交配したクリスマスローズやフォーチュンベゴニアなどを見学しに、シーズン中は多くの方がその庭へ足を運ぶほど。

冷水に咲く[前編] バイカモ

2017/08/22

静岡県駿東郡清水町に流れる柿田川は全長1200m、日本一短い一級河川であり、同時に日本一の清流といわれています。河川水は全て地下から湧き出た水です。その水量は1日に約100万トン。色度ゼロ、濁度ゼロのとても清らかな水です。この川は富士山の南斜面などに降った雨水が湧水として噴き出し、何の前触れもなく、いきなり国道一号線の下から始まります。

フィリピン海プレートがユーラシアプレートと北アメリカプレートの二つに沈み込む場所にある富士山は、活火山とされています。噴火のたびに小さな火山に新しいマグマが積み重なるようにして大きくなった積層火山に分類され、現在の山は地質的に新富士といわれます。標高は3776m、誰でも知っている日本一高い山です。駿河湾から単独でそびえ、夏は太平洋からの湿った風が、冬は北西からの季節風が富士山にぶつかり、大量の雨雪を降らせます。その降水量は天文学的で年間22億トンと見積もられています。

新しい富士山から流れ出た溶岩の跡が三島駅前の楽寿園に残っています。形状から縄状溶岩といいます。マグマが冷えるときに揮発性のガスを出しながら固まりました。新富士の表面を覆う火山灰は通気性と通水性がよく、雨水は地下にすぐに染み込んでいくので、富士山の上部や中部に川を見ることはありません。空中に蒸発していく以外の水は全て地下水になるのです。

南方に流れ出た溶岩は愛鷹山と箱根に挟まれた谷を下り、三島方面に流れました。富士山に染み込んだ地下水は、その溶岩流に沿って溶岩洞窟や亀裂、隙間を通り、柿田川や三島の町に湧き出しています。

静岡県駿東郡清水町、東名高速道路沼津インターから程近く、車で15分ぐらいの市街地の中に日本一の清流、柿田川はあります。

湧水量1日約100万トン、その規模は日本一といわれます。清らかな水が地下から絶えることなくコンコンと湧き出す柿田川は、さながら水の王国と呼びたいものです。

この川の湧水箇所は数十カ所もあり、至るところで地下から水が湧き出します。写真は柿田川最上流の場所です。ここから川は始まり、狩野川に合流するまでを柿田川といい、合わさって駿河湾に注いでいます。

柿田川の水は産業資源に利用され、この場所はある工場の敷地だったと聞きました。川にゴミが捨てられ、コンクリートの護岸ができ、ドブのような川であったというのです。黒い砂を巻き上げ噴出する湧水の横に金属の配管が残っていて、それを物語るようです。有志、地域の方々によって土地が買い上げられ、清掃が行われました。自然は汚さなければよみがえるのです。この川で作業をされていた方の話には感動しました。配管の周りに小アユが群れていて水しぶきが上がっています。

柿田川の中流域です。湧水を集めてとうとうと流れます。汚れのない豊かな水です。水温は一年を通じて約15度。清らかな流水と冷水が、今回の話題であるバイカモが生息する条件です。柿田川の水中に見えるのがバイカモの仲間です。

こちらは標高1400mの高層湿原に流れる、日光戦場ヶ原の湯川です。バイカモは東アジア北部に自生し、冷水に沈水して生息する水草です。水草とは一度陸上生活に適応した植物が、再び水の中に戻っていった植物のことをいい、特定の種属を意味していません。

バイカモRanunculus nipponicus var. submersus(ラナンキュラス ニッポニクス 変種 サブメルサス)キンポウゲ科キンポウゲ属。種形容語のnipponicusは日本を表し、変種名のsubmersusは水面下に生じるという意味です。漢字で「梅花藻」と書き、梅の花のように5弁で丸い花姿からの命名です。

この植物は多くのキンポウゲ属が陸上植物であるのに対し、茎や葉を水になびかせ、沈水して生育します。柿田川に生えているバイカモは、湯川に生えているバイカモとほんの少し変わっていました。

次回は「冷水に咲く[後編] バイカモ」です。お楽しみに。

JADMA

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