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毒の木[後編] ウルシ属とその周辺

小杉 波留夫

こすぎ はるお

サカタのタネ花統括部において、虹色スミレ、よく咲くスミレ、サンパチェンスなどの市場開発を行い、変化する消費者ニーズに適合した花のビジネスを展開。2015年1月の定年退職後もアドバイザーとして勤務しながら、花とガーデニングの普及に努めている。
趣味は自宅でのガーデニングで、自ら交配したクリスマスローズやフォーチュンベゴニアなどを見学しに、シーズン中は多くの方がその庭へ足を運ぶほど。

毒の木[後編] ウルシ属とその周辺

2021/12/14

ヤマウルシというウルシ科の植物は、日本の山地に生息しています。しかし、ウルシというウルシ科の植物を、日本の自然山野で見たことがありません。おそらく、ウルシはハゼノキと同じように、他の東アジアから日本に持ち込まれ、日本で利用されてきたと考えるのが妥当だと思います。

ウルシの樹液を使い、天然の樹脂塗料にする文化は、アジアモンスーンの通り道に沿って存在しています。縄文遺跡からは、漆器が見つかっていて、日本においては紀元が始まるずっと前から、ウルシが栽培されていたことが分かっています。ウルシの樹脂は、乾燥すると光沢があり、大変、強固な物質に変化します。それは耐水、耐熱、耐腐食性を示し、接着剤としても優秀です。

ウルシの学名は、Toxicodendron vernicifluum(トクシコデンドロン ヴァーニシフルウム)ウルシ科ウルシ属といいます。種形容語のvernicifluumは、ワニスを生じるという意味です。ワニスとはVarnish(バーニッシュ) のこと。それは、短縮されニスと呼ばれます。ウルシは、中国~ヒマラヤに原生しています。しかし、この天然塗料が有効に固まり、その効果を十分に発揮するには、高い空中湿度が必要であったために、日本において、漆の利用が盛んに行われたのでした。

前に述べた通り日本の山地には、ヤマウルシToxicodendron trichocarpum(トクシコデンドロン トリコカルプム)ウルシ科ウルシ属が原生しています。種形容語のtrichocarpumは、tricho(糸状の)+carpos(果実)の合成語。それは、この植物の果実に糸状のとげが密生しているからです。

ヤマウルシは、日本全土の他、中国中南部など、東アジアの山地に原生しています。春の芽吹きと、秋の低温で葉が赤く色づき、森の中でもよく目立つ落葉小高木です。紅葉と灰褐色の樹皮。そして、ウルシ科独特の羽状複葉が、その目印となります。

ヤマウルシの小葉には、ヤマハゼと同じように毛が生えています。葉軸は赤く、小葉の形が幅広の楕円(だえん)形をしていて、葉先が急にくぼみ尖ります。小葉が基部に近づくと小さくなっているようです。私は葉に触っても大丈夫ですが、かぶれますので、気安くヤマウルシ、ハゼノキ、ウルシの葉に触れないでください。

次は、つる性のウルシ属です。

ツタウルシToxicodendron orientale(トクシコデンドロン オリエンターレ)ウルシ科ウルシ属。種形容語のorientaleは、東洋という意味です。ツタウルシは、日本に生えるウルシ属の中で最も接触性細胞毒性が強いので、注意すべき樹木とされています。

※近年分類体系の見直しが進んでおります。ツタウルシはウルシ属から変更された可能性もあります。

ツタウルシは、日本を含め東アジア北部に原生するウルシ属です。山地に生えるという記述をよく目にしますが、私は幾度となく海岸縁の塩水をかぶるような環境でこの植物を目にしてきました。日当たりさえよければ、山地から、海岸縁までさまざまな環境にこのツタウルシは適応性があります。

ツタウルシは、ウルシらしくありません。おきて破りのつる性。羽状複葉の約束事を無視して、3枚1セットの三出複葉です。この見た目は、他のウルシ属とかなり違い独特です。

日本に自生しているウルシ属は、ウルシを除けばこの4種類です。あなたが出合うかもしれない接触性の毒の木たちをしっかり覚えておきましょう。木の下を通るだけで、かぶれるという人もいます。くれぐれも触れるのはやめておきましょう。これらは、野外における危険のサイン。特にヤマウルシ、ツタウルシにはご注意を。

ウルシ科は、熱帯域に多くの種を分布させていますが、私たちの住む温帯域では、少数派です。日本で見掛けることができるその他のウルシ科を紹介していきます。

ヌルデRhus javanica(ルス ジャバニカ)ウルシ科ヌルデ属。私たちの身近にヌルデは、けっこう生えています。この植物の最大の特徴は、葉柄に翼が付いていることです。

ヌルデの種形容語のjavanicaは、インドネシアのジャワ島を表します。秋、ヌルデの実が成熟すると、果皮の周りにリンゴ酸カルシウムを分泌します。これをヌルデ塩といいます。これに触るとヌルとします。手がヌルッとするので「ヌルデ」という名になったのだと思います。この塩を料理や薬に使う人もいますが、それは、森の生き物、小鳥たちのミネラル補給に利用されています。

チャンチンモドキChoerospondias axillaris(コエロスポンディアス アキシラリス)ウルシ科チャンチンモドキ属。チャンチンモドキ(香椿擬)の和名は、センダン科チャンチン属のチャンチンToona sinensisに似ているという意味です。チャンチンは、「東アジア植物記」でも取り上げたことのある植物です。若葉を野菜代わりに食べる変わった樹木でした。

チャンチンモドキの種形容語のaxillarisとは、「腋生」という意味です。チャンチンモドキは雌雄異株です。上の写真は、雄株で雄花が枝先に群生して開花します。写真にはありませんが、雌花は葉腋に1つずつ花が咲きます。それが、種形容語の意味です。

ウルシ科は、本来、熱帯、亜熱帯域に分布中心を持っています。チャンチンモドキは、中国中南部、台湾、東南アジア、ヒマラヤ周辺に生える暖地の落葉高木。20mくらいに大きく育ちます。日本には、九州の熊本、鹿児島などにまれに生えていることを考えると、日本列島南部の地歴を、この木を通じて知ることができます。

次回は「ヤツデのススメ[前編]」です。お楽しみに。

JADMA

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