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マンテマ属[その4] センノウと呼ばれるさまざまな植物たち

小杉 波留夫

こすぎ はるお

サカタのタネ花統括部において、虹色スミレ、よく咲くスミレ、サンパチェンスなどの市場開発を行い、変化する消費者ニーズに適合した花のビジネスを展開。2015年1月の定年退職後もアドバイザーとして勤務しながら、花とガーデニングの普及に努めている。
趣味は自宅でのガーデニングで、自ら交配したクリスマスローズやフォーチュンベゴニアなどを見学しに、シーズン中は多くの方がその庭へ足を運ぶほど。

マンテマ属[その4] センノウと呼ばれるさまざまな植物たち

2023/07/25

かつてのナデシコ科センノウ属という分類区分はなくなりましたが、今もマンテマ属の中にセンノウという和名のイメージは消えず、残り続けています。困ったことに、マンテマ属以外にも○○センノウという植物があるので、ますますこのセンノウという実体が「あやふや」です。

カッコウセンノウ

カッコウセンノウSilene flos-cuculi(シレネ フロスククリ)ナデシコ科マンテマ属。なんとも爽やかな和名と姿です。英名ではカッコウセンノウのことをragged-robin(ギザギザのコマドリ)といいます。生息地は意外と広範囲で、ヨーロッパ、コーカサス、シベリアの湿った草原、草地に生息しています。

カッコウセンノウの種形容語のflos-cuculiは、「花」と「カッコウ」の合成語です。Cuculiとは、カッコウの鳴き声に由来します。ヨーロッパでカッコウは、春を告げる鳥とされています。この花の色合いと雰囲気は、春の装いなのでしょう。よく種を付けるので、実生(みしょう)※で増やすことが簡単な植物です。

※実生…種子から育った植物

アケボノセンノウ

アケボノセンノウSilene dioica(シレネ ディオイカ)ナデシコ科マンテマ属。ヨーロッパ全体に原生する2年草もしくは宿根草で、日本に入って以来、帰化が進行中の植物です。マンテマ属では珍しい雌雄異株(しゆういかぶ)で、左上の写真が雄株、右上の写真が雌株です。種形容語のdioicaも、雌雄異株という意味です。

スイセンノウ

スイセンノウSilene coronaria(シレネ コロナリア)ナデシコ科マンテマ属。この植物は、地中海沿岸部、コーカサス、日当たりのよい岩斜面などに生息しています。持ち前の丈夫さで、日本では宿根草ガーデンの定番の園芸植物として普及しています。全草(全ての部位)が白い繊毛で覆われ、葉色だけでも庭のアクセントになり重宝します。

スイセンノウは、フランネルソウなどの別名があり、フランネルとは起毛した布のことです。英語の別名はRabbit’s Ears(ウサギの耳)です。この植物は乾燥に強く、病虫害に無縁です。鹿などの食害もないと聞きます。そして、痩せた土地も苦にしません。まったく持って丈夫さが取りえ、庭に植えても特別な手入れが必要ありません。

スイセンノウ

スイセンノウの種形容語coronariaは、王冠を意味します。開花期は春から夏。茎の先端部分に3cm程度の五弁花を咲かせます。花色は濃いローズ色が基本ですが、白地に薄いピンクの線が入る花色、純白もあります。漢字で酔仙翁と書くのは、上の画像のような花色をほろ酔いの顔色に見立てたのでしょう。

ムギセンノウ

ムギセンノウAgrostemma githago(アグロステンマ ギタゴ)ナデシコ科ムギセンノウ属。以前は、マンテマ属とされSilene githago(シレネ ギタゴ)とされたこともあります。英名は、corn cockleで、東地中海地域が起源とされる穀物畑の雑草とされています。野生のムギセンノウは、背丈が1m程度、花の大きさは2~2.5cmくらいです。

ムギセンノウは、花の後に比較的大きな種子をたくさん付けるため、ヨーロッパで収穫された小麦に混ざり、北米やオーストラリアなどに波及して行きました。上の画像は未熟な白い種子ですが、熟すと黒くなります。ムギセンノウは、種子も含め有毒とされるため、昔は、この種子が混ざると収穫物の品質が下がりました。今では、種子のクリーニング技術が向上し、不純物として除去できます。

ムギセンノウは、小麦畑を悩ませる雑草が起源なのですが、花径5cmくらいの大輪系が選抜され、風情のある園芸作物になりました。「たねダンゴ」用の種子としても利用されています。属名は、Agros(畑)+stemma(花冠、王冠)を意味します。種形容語のgithagoの意味はよく分かりませんでした。

左の画像の花が、野生種と選抜した大輪系品種です。大輪系には、それぞれ「パープルクイーン」「サクラガイ」「オーシャンピンク」という品種名が付いています。迷惑な小麦畑の雑草もきれいな園芸植物に昇華したのです。

以前「たねダンゴの来た道」という記事を書きました。サカタのタネで販売している絵袋入り種子「たねダンゴ(R) ミックス」は、春まき用と秋まき用があり、秋まき用には、ムギセンノウ(アグロステンマ)を含む6種類の混合種子をダンゴに混ぜて作ります。

上の写真は、神奈川県横浜市にある「赤レンガ倉庫」で、向かいの空き地は、市民と作った「たねダンゴ」花壇です。2月中旬から早咲きの花は咲き始め、開花の終盤になるとムギセンノウの花が一斉に咲いて5月の風になびくのです。それはなんとも美しい、小麦畑の雑草だったムギセンノウが作る花景色なのでした。

次回は「マンテマ属[その5] シレネいろいろ」です。お楽しみに。

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