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マツヨイグサ属[後編]

小杉 波留夫

こすぎ はるお

サカタのタネ花統括部において、虹色スミレ、よく咲くスミレ、サンパチェンスなどの市場開発を行い、変化する消費者ニーズに適合した花のビジネスを展開。2015年1月の定年退職後もアドバイザーとして勤務しながら、花とガーデニングの普及に努めている。
趣味は自宅でのガーデニングで、自ら交配したクリスマスローズやフォーチュンベゴニアなどを見学しに、シーズン中は多くの方がその庭へ足を運ぶほど。

マツヨイグサ属[後編]

2024/09/17

資料によるとマツヨイグサ属は、メキシコから中央アメリカに発生した植物とされています。その後、寒冷期に南下した氷河によって、コロニーが分断されては、温暖期に集合するようなことが何度も繰り返され、多様なマツヨイグサの種属が生まれたそうです。そのマツヨイグサ属は、南北アメリカ大陸以外に生息していなかったのですが、今では人の活動によって、東アジアを含め世界に分布を広げました。後編は、日本に分布している「黄色ではない」マツヨイグサ属とその近縁種についての植物記です。

マツヨイグサ

日本にやってきたマツヨイグサたちにも、はやり廃りがあるようで、最近はマツヨイグサやオオマツヨイグサなどをあまり見なくなりました。それに引き換え、コマツヨイグサやメマツヨイグサは、どこにもあるほど目につきます。後編で紹介する、黄色くないマツヨイグサたちも日本の気候によくなじみ、道端のあちらこちらで繁殖しています。

ユウゲショウ

道端の一角にピンク色をした花の群落がありました。この花は、最近私たちの身の回りでよく見かける花だと思います。日本では、ユウゲショウという風流な名前がついていて、夕方に咲くと思われています。ユウゲショウOenothera rosea(オエノセラ ロゼア)アカバナ科マツヨイグサ属。この写真を撮ったのは、5月16日朝方9時46分です。

上の写真は、5月6日午後13時32分です。ユウゲショウがいつ咲くのか、いろいろと見解があるので、原生地の北米における情報を調べた結果、「花は日の出近くに咲く」と記述されていました。どうやら、ユウゲショウという名前の真意は不明としか言えません。この花の開花時刻は検証が必要です。

種形容語のroseaとは「バラ色」という意味で、この植物の花色を表します。原生地は、メキシコからコロンビア付近の亜熱帯とされていますが、人の介在で温暖な世界に広がり、東アジアにも移入分布するようになりました。日本には明治時代に園芸用に導入され、野生化し南東北以南の荒れ地や道端に生息域を拡大しています。

ユウゲショウは、種子からも更新が容易な多年草です。草丈は低く、20~30cm、よく枝分かれして横に広がります。花の大きさは1.5cm程度になります。花弁は4枚、雄しべ8本、雌しべ1本、柱頭は、マツヨイグサ属にお約束の四つに裂けています。花色はローズ色ですが、よく見ると赤い静脈があります。たまに色素合成ができないシロバナユウゲショウを見つけることがあります。今では、どこにでも生えている雑草といった扱いですが、なかなか美しい野の花です。

モモイロヒルザキツキミソウ

東京湾岸の埋め立て地にできた海浜公園を歩いていると、こんなピンクの花が一面、群落になって咲いていました。美しい花を付ける植物なので邪魔な印象は受けませんが、ユウゲショウと同じように、最近、身の回りでよく見かけます。モモイロヒルザキツキミソウOenothera speciosa(オエノセラ スペシオサ)アカバナ科マツヨイグサ属。種形容語のspeciosaとは、「美しく華やかな」「見栄えする」という意味です。

モモイロヒルザキツキミソウは、春から夏に30~50cm程度の茎を立ち上げて、葉の葉腋(ようえき)からこのような花を咲かせます。日本に住みついた理由は、園芸用に種子を販売したものが拡散したからです。この植物の原生地は、北米ミズリー州から南テキサス、メキシコの乾燥した岩だらけの大草原とされ、徐々に北米南部の道路や鉄道沿いなど裸地に広がりました。

この植物は、多年草です。深刻な病虫害がないこと、根茎で横に広がること、そして種子をよく付け、実生繁殖が容易です。さらに耐乾燥性があるので、道端でも生きる丈夫さを持ち、東アジアなどへの帰化を容易にしました。

ヒルザキツキミソウとは、文字通り昼に開花が見られることから名付けられています。花の直径は5cm程度ですが、ときに6~7cmの大輪も見られます。花色は、白もありますが、ほとんどは淡いピンク色からピンク色なので、モモイロヒルザキツキミソウといいます。色幅があり、開花から時がたつと色が濃く変化します。

モモイロヒルザキツキミソウの花は、マツヨイグサ属お決まりの4枚花弁、8本の雌しべ、1本の雌しべ、柱頭の先が四つに分かれています。白地にピンクの縁取りとピンクの脈があり、基部が黄色に染まる花姿はなかなかの美人です。どこにでも雑草のように生えるマツヨイグサ属ですが、無理に日本に連れてこられたのです。外来の帰化植物ではありますが、特に悪さをするわけでもありません。日本の道端や荒れ地に咲くマツヨイグサ属は、国土になじんだ愛すべき植物たちでした。

ゴデチヤ

マツヨイグサ属に近縁で、北米大陸の西海岸地域に原生しているのが、Clarkia amoena(クラーキア アモエナ)アカバナ科クラーキア属です。以前は、Godetia(ゴデチヤ)属に分類されていたため、今でも園芸的にはゴデチヤと呼ばれています。属名のClarkiaは、1800年代アメリカ合衆国の西部領土化を推進するため、その地域を探検したWilliam Smith Clark(ウィリアム・スミス・クラーク、1826~1886)に献名された名です。種形容語のamoenaとは、「人に好かれる」「魅力的な」「魅惑的な」「優美な」などの意味があり、紙細工のようなこの植物の美しさを表しています。

※上の写真以降は、全てClarkia amoenaの改良種で学名はClarkia(Godetia)hybrida Hort.となっています。

クラーキア属のほとんどは北アメリカ西部に原生する一年生の野草でした。現在、40種以上がクラーキアに分類されています。このクラーキア アモエナ種は、花が大きく花色が豊富なため「イロマツヨイグサ」と呼ばれ、園芸用に改良されました。20世紀には固定種の「旭杯(きょくはい)」や「ミス長崎」といった切り花用品種がありましたが、サカタのタネが品種改良した「ジューン」シリーズを販売するようになると、世界的にこの品種が使われるようになりました。「ジューン」シリーズは、赤、サーモンピンク、ラベンダー、ホワイトなど、花色も豊富です。生育旺盛な草姿と色映えのよい花が人気の品種群になりました。

色鮮やかなゴデチヤは、5~6月に開花期を迎えるので、英語でFarewell to spring(フェアウェル トゥ スプリング)「春よ、さようなら」と呼ばれ、春から夏へ季節をつなぐ花なのです。絹のような光沢を持ち、頂点に群がって咲くこの花の風情は、今もなお人気の園芸草花になっています。

次回は、夏の夜に大きな白花を咲かせる「ケチョウセンアサガオ」のお話です。お楽しみに。

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