![外来の春咲き小球根植物[その1] ハナニラ属](../../image-cms/header_kosugi.png)
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小杉 波留夫
こすぎ はるお
サカタのタネ花統括部において、虹色スミレ、よく咲くスミレ、サンパチェンスなどの市場開発を行い、変化する消費者ニーズに適合した花のビジネスを展開。2015年1月の定年退職後もアドバイザーとして勤務しながら、花とガーデニングの普及に努めている。
趣味は自宅でのガーデニングで、自ら交配したクリスマスローズやフォーチュンベゴニアなどを見学しに、シーズン中は多くの方がその庭へ足を運ぶほど。
外来の春咲き小球根植物[その1] ハナニラ属
2025/02/18
ソメイヨシノの咲くころ、地面には小さな星のような花が一面に咲き出します。それは、もともと日本の国土に生えておらず、地球の裏側に生えていた植物です。それでも、東アジアの風土になじみ、世代を重ねて自生しています。どんどん増えるたくましさを持ちながら、雑草として疎まれないのは、この植物の魅力によるのでしょう。
ハナニラ
ハナニラIpheion uniflorum(アイフェイオン ユニフロラム)ヒガンバナ科ハナニラ属。和名は、ニラのにおいがする葉にちなみますが、食用にはなりません。花だけをつまんで嗅ぐと、葉とは違う、甘くてよい香りがします。属名のIpheionは、ギリシャ語に由来するのですが、詳細は不明。種形容語のuniflorumは、「単生する花」を表し、この植物が一つの花茎に一つの花を咲かせることに由来します。
ハナニラは、ブラジル、ウルグアイ、アルゼンチンなどに多くの種属を分布している、小さな球根性の植物群です。以前は、ユリ科と考えられてきたのですが、ヒガンバナ科に移された時にトリスタグマ属に変更されました。しかし、分類が何度も変更されたこともあり、世界では依然として、ハナニラ(アイフェイオン)属として認容されています。
ハナニラ属は、欧米ではSpring star flowerとして親しまれています。アルゼンチンやウルグアイに生えていたこの多年草は、19世紀のフランスの博物学者やイギリスの植物学者によって知られ、学名が付けられました。そして、アルゼンチンの首都ブエノスアイレス近郊から集められた球根が海を渡り、イギリスに到着して庭に植えられ、園芸植物として世界に導入されていったのです。それらは、ノーメンテナンスで育ち、種子や球根で増え、半日陰の場所でもよく育つなど、幅広い環境耐性を持っていたのでした。
日本には、明治時代に観賞用のハナニラがアルゼンチンから導入されたと記述されています。球根を一度植えると、手入れや施肥などを必要としない持ち前の丈夫さでよく増え、各地で野生化しています。
ハナニラは、地下部の葉に栄養をためる鱗茎(りんけい)という小さな貯蔵器官を持ちます。地上部の葉は肉質で、幅5mm、長さは15cm程度です。花は、葉腋(ようえき)から花茎を10~20cm伸ばし、単生します。
ハナニラは、単子葉植物なので、花は三数性です。花被は6枚で、内花被3枚、外花被3枚に分かれ、基部は筒状です。雌しべ1本に対し、雄しべは、短い3本と長い3本で合計6本あります。面白いことに長い雄しべが先に熟し、短い雄しべは、雌しべと同時に後から熟すことが観察できました。
花が終わったころ、ハナニラを掘り上げてみました。鱗茎の基部にたくさんの子球ができ、その数は半端ではありません。成株から数倍に増えることでしょう。さらに、種子も付くので、ハナニラは栄養繁殖と種子繁殖をする二刀流ということです。
そして、ハナニラが植わっていた場所を耕すと先ほどの子球が散らばり、1年で一面にハナニラの楽園を作ります。それに加え、ハナニラの葉が持つニラのにおいは、草食動物が嫌うようで、シカやヤギなどの食害を受けない様子。おまけに、害虫による深刻な被害や病気も見たことがありません。
ハナニラ「ロルフ フィドラー」
この丈夫なハナニラには、いくつかの品種があります。上の写真の花は、「ロルフ フィドラー」といって、ウルグアイのある丘の頂上で発見されたそうです。花びらの青色が濃く、丸みのある花容がきれいで、私のお気に入りです。内花被と外花被の区別が分かるでしょうか?先ほど長い3本の雄しべが先に熟すと書きましたが、その様子も分かります。
ハナニラ「ピンクスター」
ハナニラは、白や青がオーソドックスカラーですが、こんなピンクのハナニラもあります。上の写真の花は「ピンクスター」といいます。いろいろな花色のハナニラが園芸的利用を楽しいものにしています。遠く離れたアルゼンチンやウルグアイなどの南米を故郷にするハナニラたちですが、これらの花が春に咲く風景は、今では日本の春を感じさせる景色の一つになりました。
ハナニラには、さまざまな花型や色があり、中間色もあります。花被の大きさは、総じておよそ3cm幅ですが、中には、5cmを越える大きな花もあり、倍数体変異なのかもしれません。これらがさらに交雑して、日本でもさらにさまざまなタイプを生んでいくのだと思います。
読者の皆さまの中には、黄色いハナニラを見たことがある方もいらっしゃるのではないでしょうか。それもハナニラ(アイフェイオン)属に極めてよく似た植物なのですが、今では違う属種に分類されることが多いのです。次回は、黄色いハナニラを含む「ハタケニラ属」と「ベツレヘムの星」と呼ばれる植物のお話です。お楽しみに。