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【第1回】病害虫ってなんだろう?

望田明利

もちだ・あきとし

千葉大学園芸学部卒。住友化学園芸研究開発部長として、家庭園芸薬品や肥料の開発普及に従事。現在は園芸文化協会理事、家庭園芸グリーンアドバイザー認定講習会講師などとして活躍中。各種園芸雑誌等に病害虫関係の執筆多数。自らも自宅でさまざまな種類の草花・花木などを栽培している。

【第1回】病害虫ってなんだろう?

2021/12/21

植物を育てていると、虫が発生した、葉が食べられたり変色した、苗が倒れたり枯れたなどさまざまな症状が現れ、対応に苦慮することが多々ありますよね。これら病気や害虫そのもののことを「病害虫」、病気や害虫による被害のことを「病虫害」と呼んでいます。農薬についてお話をする前に、その対象である病害虫について、病害虫の種類や被害症状を勉強していきましょう。

【目次】
1. そもそも植物の病気や害虫ってどうして発生するんだろう

2. 植物の病気ってなんだろう
 ①病原菌の種類と性質、主な被害症状を知ろう
 【コラム:この病気の原因は細菌? 糸状菌(かび)?】
 【コラム:ウイルスって生物? コロナウイルスと植物ウイルス】
 ②病気の発生条件
 ③病気のように見えて、病気ではない場合(非病原菌)

3. 害虫とはなんだろう
 ①害虫の発生条件
 ②食害性害虫の種類
 ③吸汁性害虫の種類

[教えて望田先生! 農薬の疑問]

1. そもそも植物の病気や害虫ってどうして発生するんだろう

病気や害虫が発生するのはどうしてだろう、と考えたことはありますか? 運が悪かったのでしょうか。いえ、そうではありません。病害虫が発生する「条件」がそろってしまったことが原因です。では、その条件とは……?

病気が発生する条件のまず1つ目は当然「植物」があること。2つ目は「病原菌がある・害虫がいる」こと。そして肝心の3つ目は「温度と湿度」です。

この3つの条件がそろって、初めて病気が「発生」するのです。また、害虫の場合はというと、「温度」が大きく影響します。気象条件が変わらなければ、毎年ほぼ同じ時期に病害虫とも発生します。

2. 植物の病気ってなんだろう

植物が何らかの原因によって、本来の姿にならず、異常な状態(変形や枯れるなど)になることを植物の「病気」と呼びます。このとき、病原菌によって起きる場合は「〇〇」、病原菌でないものによって引き起こされる場合を「〇〇」と呼んで区別します。

①病原菌の種類と性質、主な被害症状を知ろう

さて、病原菌について述べていきたいと思います。どんな被害症状が出るのか、どんな性質を持っているのかについて見ていきましょう。

●細菌

細菌は、ウイルスとは違い、顕微鏡で観察できます(なかなかそこまでは皆さんはしないとは思いますが)。葉にも感染しますが、土の中で生きていた細菌が、肥料をやるときや除草をしたときなどに傷ついた根から侵入することが多いです。細菌が原因の例としては、地際が腐ってくる軟腐病(なんぷびょう)、地際にコブをつくる根頭がん腫病(こんとうがんしゅびょう)、青いまま立ち枯れる青枯病(あおがれびょう)などが挙げられます。

青枯病の被害が広がったトマト(写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集)

青枯病の被害が広がったトマト(写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集)

軟腐病を発病したハクサイ(写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集)

軟腐病を発病したハクサイ(写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集)

●糸状菌(かび)

実は病気の大半は糸状菌(かび)によって起きています。この糸状菌は、土の中、枯れた植物が残ったままになっているもの、または生きている植物に寄生して冬を越して生き延びます。黒星病(くろぼしびょう)、褐斑病(かっぱんびょう)、炭疽病 (たんそびょう)など、葉や実に斑点ができる、立ち枯れを起こす、うどんこ病のようにかびが付着するなど、非常に多くの症状が出ます。葉に斑点が生じたり変色したりした場合、前に述べたウイルスと細菌、後で③で解説する非病原菌が原因の場合もあります。しかし、はっきりとした原因が分からない場合は糸状菌によって起きたと考えて対応するとよいでしょう。

【コラム:この病気の原因は細菌? 糸状菌(かび)?】

葉に病斑を作る、株元が腐ってくる、立ち枯れを起こすなどの症状は細菌と糸状菌のどちらでも発生します。葉に症状が出る病気は、原因になった病原菌をひと目で判断することは難しく、通常は病害虫の本やネット検索などに頼ることになります(研究者は菌を培養して顕微鏡などで観察して判断しています)。株元が腐った症状では、その場所で異臭が感じられたら細菌(主に軟腐病(なんぷびょう))が原因です。立ち枯れ症状の場合は、被害にあった茎を切り取って水の中に入れます。切り口から白い濁った液が出てきたら細菌が原因によって起きた症状と分かります。細菌と糸状菌のコラムは以下のリンク先も参照してください。

●ウイルス

ウイルスとは非常に小さなもので、電子顕微鏡でなければ見ることができません。自分では細胞を持たず、単独では生きられないため、植物(動物)の細胞を借りて増殖していきます。生物ではないという考え方が主流です。

ウイルスが原因の場合は、症状が現れてからでないと感染に気付かないので厄介です。主な症状は、緑色だった葉の一部が淡緑色~黄色のモザイク状になる、葉が奇形になったり、小さくなったりし、また植物の株全体が縮んだようになったり(萎縮する)、花弁に斑紋が入ったりします。

感染してしまったら、残念ながら退治する方法はありません。他の、まだ感染していない健全な植物への感染を防ぐためにも、抜き取ってごみとして焼却処分にしましょう。

モザイク病を発病し、葉脈に沿って緑色の濃淡のモザイクが発生したカンナの葉(写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集)

モザイク病を発病し、葉脈に沿って緑色の濃淡のモザイクが発生したカンナの葉
(写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集)

モザイク病を発病したピーマンの葉(写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集)

モザイク病を発病したピーマンの葉(写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集)

【コラム:ウイルスって生物? コロナウイルスと植物ウイルス】

最近コロナウイルスが話題になっていますね。植物に寄生するウイルスも人間に感染するのでは? と心配になりませんか。植物によって寄生するウイルスは異なりますが、植物ウイルスが動物(人間)に感染することはないといわれています。

2. 植物の病気ってなんだろう

②病気の発生条件

では、病気を引き起こすウイルス、細菌、糸状菌(かび)はどのように発生するのでしょうか。発生するための条件を見ていきましょう。

●細菌が原因の場合

細菌は健全な植物には侵入することができません。害虫などに食べられた傷口や、私たちが手入れをする作業中に傷ついた部分から侵入します。気温が高いときに細菌が繁殖しやすいので、夏に感染することが多いです。

●糸状菌(かび)が原因の場合

糸状菌(かび)は、胞子を飛ばして感染を広げます。しかし、葉に胞子が付いても必ず発病するわけではありません。胞子が発芽して菌糸を伸ばし、植物の中に侵入するには、糸状菌が繁殖しやすい温度と湿度が必要になります。そのため、湿度の高い梅雨期での感染が目立ちます。

黒星病を発病したバラ(写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集)

黒星病を発病したバラ(写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集)

うどんこ病を発病したダリア(写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集)

うどんこ病を発病したダリア(写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集)

炭疽病を発病したカキ(写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集)

炭疽病を発病したカキ(写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集)

●ウイルスが原因の場合

アブラムシなど、植物の体液(樹液)を吸う害虫が、ウイルスに感染した植物の汁を吸い、次に健全な植物に寄生して汁を吸うときに感染します。このように害虫によって感染が拡大することがとても多いです。また、私たちが手入れをする際に使ったハサミなどに付着した樹液によっても感染してしまいます。

③病気のように見えて、病気ではない場合(非病原菌)

これまで病気についてお話ししてきましたが、病気が原因で起こっているわけではないのに、一見、病気に見えてしまう症状もあります。それらを見ていきましょう。

●日焼け、冷害など気象的要因が病気のように見える

室内や日陰で育てていた植物を急に直射日光に当てたら葉が変色した、温度不足で葉先から枯れてきた、台風の後に葉が枯れた(塩害)などの気象が原因となるものがあります。

●薬害、大気汚染など化学的要因が病気のように見える

農薬の希釈濃度を間違えて濃度が高い農薬をまいてしまった、除草剤を散布したジョウロで水やりをした、空気中の有害物質で植物の組織が壊されたなどの要因によっても葉が変色します。

●害虫の被害が病気のように見える

キクを育てていると、下の方の葉から枯れてくる場合があります。その場合は、キクハガレセンチュウが原因の可能性があります。また、タケやササの葉に黄色の斑点が生じるのはハダニの被害です。ハモグリダニ、アザミウマ(スリップス)などによる被害も病気と間違えられることがあります。

ハダニの被害を受けたササ(写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集)

ハダニの被害を受けたササ(写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集)

●肥料の過不足や土壌酸度が合わないために病気のように見える

トマトの尻腐れ症(カルシウム欠乏)、キュウリの白変葉(マグネシウム欠乏)といった症状は、特定の肥料成分が不足すると、葉にさまざまな症状が現れるものの例です。また、土壌酸度が合わないと発芽しても枯れてしまいます。

尻腐れ症になったトマト(写真提供:住友化学園芸株式会社)

尻腐れ症になったトマト(写真提供:住友化学園芸株式会社)

3. 害虫とはなんだろう

さて、ここまで病気について見てきました。ここからは害虫について見ていきましょう。皆さんは花壇や畑にいる虫が全て害虫だと思っていませんか? それは違います。害虫とは次のような場合の虫をいいます。

・植物の葉などを食べて害を与える虫(食害性害虫)
・体液(樹液)を吸って害を与える虫(吸汁性害虫)

植物に直接害を与えないアリなどは、不快害虫になり農薬の対象外になります。

では、その害虫について詳しく見ていきましょう。

①害虫の発生条件

マイマイ目(貝の仲間)、ハリセンチュウ目(線形動物)、ダニ目(クモの仲間)を除き、害虫の大多数は昆虫類です。昆虫の生育は温度に大きく影響されるため、地域によって発生時期や発生回数が異なります。暖かい地域が発生しやすく、極端な温度変化がなければ毎年同じ時期に発生します。

②食害性害虫の種類

植物を食べて被害を与える「食害性」の害虫を見ていきましょう。

●マイマイ目の害虫

ナメクジ、カタツムリ。夜間に活動し、若い葉や新芽、花などを食べます。

●ワラジムシ目の害虫

ダンゴムシ。手で触れると丸くなる虫。若い葉や茎を食べます。

●バッタ目の害虫

コオロギ、バッタなど。秋口からの被害が目立ち、葉を虫食い状態に食べてしまいます。

●チョウ目の害虫

チョウやガの幼虫で毛のある幼虫はケムシ、毛のない幼虫はイモムシ(アオムシ)と呼ばれます。多くは葉を食べますが、夜に行動して食べるヨトウムシ、軟らかい茎を食べるネキリムシ、新芽部分を食べるシンクイムシ、葉を巻くハマキムシ、枝や幹などの中を食べるボクトウガなど植物のさまざまな場所に被害を与えます。なお、親になったチョウやガは植物に害を与えません。

●コウチュウ目の害虫

コガネムシ、ハムシ、カミキリムシ、ゾウムシなど。この仲間は親子とも植物に被害を与えます。コガネムシの幼虫は植物の根を食べてしまうので、植物が生育不良になって枯れたりします。コガネムシの親は葉を食べます。被害が激しい場合などは全て食べられてしまって葉脈だけしか残らないこともあります。カミキリムシは、幼虫時代は幹の中心部分や樹皮の内側を食べ、親は葉を食べます。

●ハチ目の害虫

ハバチ、クキバチ、ハキリバチなど。 ハバチの幼虫は一見するとイモムシと間違われ、葉を食べます。ハキリバチの親は葉を1cm程度の大きさの円形に瞬間的に切り取っていきます。

●ハエ目の害虫

ハモグリバエなど。ハモグリバエは葉肉部分を食べ、食べた跡が白い筋状に見え、それが葉に絵を描いているように見えるので、エカキムシとも呼ばれています。

③吸汁性害虫の種類

植物の葉や茎などから汁を吸って被害を与える「吸汁性」の害虫を見ていきましょう。

●ハリセンチュウ目の害虫

ネコブセンチュウ、ネグサレセンチュウ、ハガレセンチュウなど。主に根に寄生する害虫で、ネコブセンチュウは根にこぶを作ってその中から植物の樹液を吸って弱らせます。 ネグサレセンチュウは根を腐らせるため、生育不良になり枯れたりします。

●ダニ目の害虫

ハダニ、ホコリダニ、サビダニなど。ハダニは葉裏に寄生し汁を吸いますが、葉表から見るとその場所が針先の太さ程度に白く見えます。被害が拡大すると、白い点が集合して葉色が悪くなり枯れたりします。ホコリダニが新芽に寄生すると、生育が止まってしまいます。サビダニは寄生植物によって被害症状は異なります。トマトに寄生すると葉の裏側が褐色に変化して光沢を帯び、被害が拡大すると枯死します。かんきつ類に寄生すると葉裏が褐色に変化し、果実の表皮が灰白色でザラザラになります。

カンザワハダニの吸汁によって葉が褐変したバラの被害葉(写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集)

カンザワハダニの吸汁によって葉が褐変したバラの被害葉
(写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集)

●アザミウマ目の害虫

アザミウマ(スリップス)。花が好きな害虫で、花弁に斑模様が入ったり変色したりします。

●カメムシ目の害虫

アブラムシ、カイガラムシ、コナジラミ、カメムシなど多くの種類がいます。アブラムシは新芽や葉裏に群生している小さな虫ですが、生育不良やウイルス病を媒介します。カイガラムシは枝や幹、葉に寄生して枝枯れを起こしたり、すす病の主な原因となったりします。カメムシは果樹類を腐敗させたり、エダマメでは実入りが悪くなったりします。

ツノロウムシと排泄物の上にすす病が発生したツバキ(写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集)

ツノロウムシと排泄物の上にすす病が発生したツバキ
(写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集)

[教えて望田先生! 農薬の疑問]

【質問】
ハダニは雨に弱いといわれていますが、わが家では雨が多かった年でもハダニが発生してしまいました。なぜでしょうか。天候などの環境との関係が知りたいです。

【望田先生より】
ハダニの被害、困りますよね。ハダニは雨に弱いといわれていますので、夏の夕立のような強い雨が降ると、ハダニの成虫と幼虫は溺れてしまうこともあります。そうすると一時的に生息数が減少するので、被害が軽減します。そのため、繁殖が旺盛になる夏の高温時に葉裏に散水する方法は、被害を軽くするためには有効です。ただし、ぬれている状態が続くと病気にかかりやすくなることがあるので注意は必要ですよ。また、隙間なく植えていると、風通しも悪く接している葉からハダニが移動して被害が拡大するので注意してください。雑草にも寄生していることがあるので除草も心掛けましょう。

今回は、大切な植物の成長を邪魔する困った病害虫について、どんな条件で発生してしまうのか、病害虫にはどんな種類がいるのかについて解説しました。

次回は「そもそも農薬ってなんだろう」です。病害虫に対抗する農薬について、そもそも農薬とはどんなもので、どういう種類があるかについて詳しく見ていきましょう。

注釈

防除薬剤は病害虫の効果だけで記載しております。使用の際は適用作物をご確認の上、ご使用ください。

JADMA

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