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【第9回】植物成長調整剤と除草剤について知ろう

望田明利

もちだ・あきとし

千葉大学園芸学部卒。住友化学園芸研究開発部長として、家庭園芸薬品や肥料の開発普及に従事。現在は園芸文化協会理事、家庭園芸グリーンアドバイザー認定講習会講師などとして活躍中。各種園芸雑誌等に病害虫関係の執筆多数。自らも自宅でさまざまな種類の草花・花木などを栽培している。

【第9回】植物成長調整剤と除草剤について知ろう

2022/08/16

農薬には、殺虫剤や殺菌剤以外に植物成長調整剤や除草剤もあります。今回は、植物成長調整剤や除草剤にはどんな種類や選び方があるのかを解説していきます。

【目次】
1. 植物成長調整剤ってなんだろう?

2. 果実を付ける、発根を促す「オーキシン」
 ①果実を付けたい
 ●着果促進剤の使い方
 ②挿し木をしたい
 ●発根促進剤の使い方

3. 発芽促進や種なしブドウをつくる「ジベレリン」
 ①種の発芽をそろえたい
 ②種なしブドウをつくりたい
【コラム:ジベレリンの使用濃度とは?】

4. 伸びを抑える「わい化剤」
 ●わい化剤の使い方

5. 除草剤ってなんだろう?

6. 除草剤を正しく選ぼう
 ①枯れるまでの時間と効果の持続期間で選ぶ
 ②散布する場所で選ぶ
 ③雑草の草丈と種類で選ぶ
【コラム:オーキシンで雑草が枯れる?】

7. 除草剤の散布方法を知ろう
 ①粒剤タイプ
 ②希釈するタイプ、シャワー剤タイプ

1. 植物成長調整剤ってなんだろう?

植物は、成長を自分でコントロールするために、植物の体内で植物ホルモンを作っています。植物ホルモンはごく微量で作用し、代表的な植物ホルモンとして「オーキシン」「サイトカイニン」「ジベレリン」「エチレン」「アブシシン酸(アブシジン酸)」が知られています。

「オーキシン」「サイトカイニン」「ジベレリン」は、生育・伸長・開花・結実・発根・細胞分裂などの促進や休眠打破など、植物の成長に重要な働きをしています。

「エチレン」「アブシシン酸(アブシジン酸)」は、種子の発芽の抑制、果実の成熟・落葉・落果・休眠などの調整の働きをしています。

これらを人工的につくり出した物質や、逆にホルモンの作用を抑制する物質を「植物成長調整剤」と呼んでいます。

では、家庭園芸用に販売されている植物成長調整剤は、どういうものかを見ていきましょう。

2. 果実を付ける、発根を促す「オーキシン」

①果実を付けたい

植物の雌しべに虫などが花粉を付けることで、果実が付きます。受粉が正常に行われないと、離層(枝や果梗、果実のへたの部分の間に生じる特殊な細胞層)ができ、果実が育たず落下します。

オーキシンは離層ができることを妨げる作用があり、受粉をしなくても果実が付きます。主にトマト・ナスなどのナス科やメロン・ズッキーニなどのウリ科の果実の付きをよくする効果があり、オーキシンを含んだ「着果促進剤」を使用します。

開花当日あるいは開花前後の花に着果促進剤を散布することにより、落果を防ぎ果実を実らせます。なお、ナスやトマトでは、果実を大きくしたり果熟を促したりする作用もあります。

●着果促進剤の使い方

トマトの場合、下から数えて1段目を「第1花房」、2段目を「第2花房」と呼び、第1花房から花が房状に咲き始めます。花房ごとに開花3日前~3日後の6日の間に1回、花房全体にかかるように着果促進剤を丁寧に散布しましょう。トマトは花房の真ん中の花が咲いたときを目安にするとよいです。一方で、ナスやメロンは開花した当日の花に散布します。

【注意点】
・気温によって希釈濃度が異なるので注意します
・希釈濃度は厳守してください
・できるだけ散布する箇所以外、特に頂芽や若葉に薬剤がかからないように散布してください。新葉が、縮んだり元気がなくなるなどの影響が発生することがあります
・同じ花房や花へ時間をおいて何度も散布すること(重複散布)は避けてください。果肉が肥大化せず、隙間ができるなど果形が悪くなることがあります。希釈液に食紅を入れると散布した果房が着色されて分かりやすくなるので、何度も散布することを防げます
・着果促進剤には、自分で希釈して使用する製品と、あらかじめ使用濃度に希釈した製品があります。自分で希釈した着果促進剤の希釈液は他の農薬と異なり、4週間程度は保存が可能ですが、できるだけ早く使い切ってください

「日産トマトトーン(R)スプレー」(写真提供:住友化学園芸株式会社)

「日産トマトトーン(R)」(写真提供:日産化学株式会社)

②挿し木をしたい

植物を増やすためには「種をまく」「接ぎ木をする」などの方法があります。そのほかに、草花の茎や庭木の枝を土に挿し発根させて増やす「挿し木」という方法もあります。

挿し木は、切り取った枝や茎である挿し穂の切り口から新しい根が出てくることで、個体を増やす方法です。オーキシンを含んだ「発根促進剤」を切り口に付けてから土に挿すと、切り口の細胞分裂が活性化して根の成長を促し、早く土に根付かせることができます。

●発根促進剤の使い方

挿し穂は、蒸散によるしおれを防ぐために残す葉の枚数を減らすか、葉の一部をあらかじめ切り落とします。薬剤が付きやすいように、挿し穂の切り口を水で湿らせ、薄い層になる程度に発根促進剤をまぶします。茎の一部を挿し穂として使用する場合、成長点に近い方を上、根に近い方を下にし、下の切り口に発根促進剤をまぶします。上下を間違うと発根しません。また、土にそのまま挿すと、まぶした薬剤が落ちてしまいます。薬剤が落ちないように、あらかじめ割り箸などで土に穴を開けておき、挿し穂を差し込んで、ぐらつかないように周りの土を指で軽く押さえます。

挿し木をしたら、日陰で管理します。新しい葉が出てきたら活着(かっちゃく、根付いて成長すること)したことになります。庭木類の挿し穂は、春挿しの場合は前年に伸びた枝、秋挿しはその年に伸びた枝を挿すのが一般的です。

「ルートン(R)」(写真提供:住友化学園芸株式会社)

3. 発芽促進や種なしブドウをつくる「ジベレリン」

ジベレリンは、生育・開花・発芽促進、落果防止など植物によってさまざまな作用があります。主に、種の発芽促進やブドウの無種子化・果粒の肥大促進に使用されることが多いです。

①種の発芽をそろえたい

種をまいても、発芽時期がバラバラになってしまうことがあります。一斉に発芽すれば、移植も楽に行え、生育や開花がそろいます。
50~200ppmのジベレリンの溶液に、種を24時間程度浸します。細かい種は、溶液を浸したティッシュペーパーなどに種を置いた方が手軽に行えますが、ティッシュペーパーなどが乾燥しないように注意してください。

②種なしブドウをつくりたい

種なしブドウをつくるには、ジベレリンで2回処理します。1回目の処理で種はなくなりますが、実が小さくなってしまいます。そこで、2回目の処理をすることでふつうの大きさの果粒に肥大させます。このように2回処理することが不可欠となります。

品種によって使用時期と濃度が異なります。育てているブドウがどの品種に該当するか分からない場合はメーカーに問い合わせてください。

【注意点】
・ジベレリンには非常に多くの作用があり、使用する植物、時期によって作用が異なります
・低濃度で影響が表れるため、他の植物にかからないように注意してください

「STジベラ錠5」(写真提供:住友化学園芸株式会社)

【コラム:ジベレリンの使用濃度とは?】

水で希釈して使用する薬剤は、通常、100倍、500倍などのように希釈倍数が表示されています。ジベレリンは希釈倍数ではなく、10ppm、50ppmなどのように使用濃度で表示されます。ジベレリンは、ごく微量な濃度で作用します。ジベレリン製品には多くの種類があり、それぞれ含有量が異なります。また、使用する目的や作物によって使用濃度が異なるため、希釈倍数表示では誤使用を招く恐れがあるので、ジベレリンは使用濃度で表示されているのです。

希釈倍数については第7回で解説していますので、そちらを参照してください。

【注意点】
・ジベレリン製品にはいろいろあり、例えば1錠にジベレリン5mgを含む製品と、25mgを含む製品では希釈倍数が異なるので、希釈するときは注意しましょう

1錠当たりジベレリン5mgを含む「STジベラ錠5」の希釈表(提供:住友化学園芸株式会社)

4.伸びを抑える「わい化剤」

草姿や樹姿がコンパクトな鉢植えの植物を、花が咲き終わったので庭に植えたら草丈や樹高が高く伸びてしまったという経験はありませんか?多くの鉢植え草花類や花木類は、コンパクトな草姿や樹姿にするために「わい化剤」を使用しています。わい化剤は、ジベレリンが植物体内で生成され、伸長しようとする作用を妨げる働きをします。

一般的にわい化剤と呼んでいますが、茎に葉が付く部分である節と次の葉の付く節の間にあたる「節間(せっかん)」の伸びを抑える働きをするため「節間伸長抑制剤」とも呼ばれます。

秋に各地で開催される菊花展では、大きく育った大輪菊の脇に40~50cm程度の草丈の大輪菊が飾られています。「福助作り」といってわい化剤で草丈を低く抑えています。

●わい化剤の使い方

植物によって希釈倍数や使用時期が異なります。一般的な使用方法は、苗を鉢に植えたときや、摘芯してわき芽が伸び始めたときに、新芽部分を中心に散布します。散布前に伸びた部分は節間が詰まることはありません。散布後に伸長が抑制され、散布後に伸びた節間が短くなり、コンパクトにまとまった草姿や樹姿になります。開花時期、花や葉の大きさ、結実などに多くは影響しません。

【注意点】
・高濃度で散布すると、まったく伸長しなくなることがあるため、使用濃度は厳守してください
・植物全般に影響を及ぼすので、他の植物にはかからないように注意します

「ビーナイン水溶剤」

5. 除草剤ってなんだろう?

畑や庭で、目的以外の生えて困る植物を雑草と呼びます。除草剤は雑草を退治する薬剤です。雑草は、私たちが育てている野菜・草花・庭木類と同じ植物です。除草剤の選び方や使い方を間違えると、大切に育てている植物まで枯らしてしまうことがあるため注意して使用しましょう。

それでは、除草剤の選び方と剤型別の散布方法に分けて解説していきます。

6. 除草剤を正しく選ぼう

①枯れるまでの時間と効果の持続期間で選ぶ

●茎葉処理型(速効性)

できるだけ早く雑草を枯らしたい方におすすめです。葉から成分が吸収されるため、効果にむらがなく早く枯れます。土中に落ちた除草成分は、速やかに水や炭酸ガス、アミノ酸などに分解され、根からは吸収されないため、雑草の種はまた発芽してきます。希釈して散布するタイプやそのまま散布するシャワー剤タイプがあります。

●土壌処理型(遅効性)

雑草を長期間生えないようにしたい方や、雑草全体を広範囲に枯らしたい方におすすめです。植物の根から除草成分が吸収されて効果を発揮する粒状タイプのため、除草成分が植物に吸収されるまで時間がかかります。そのため、すぐに効果はでません。土中に除草成分が残るので、3~6カ月ほど効果が持続します。土壌の種類や乾燥具合によって効果にむらがでることもあります。

●茎葉土壌処理型

雑草を長期間生えないようにしたい方や、できるだけ早く枯らしたい方におすすめです。葉からも、根からも除草成分が吸収されて効果を発揮します。土壌に除草成分が残るため、土壌散布剤として取り扱います。希釈して散布するタイプやシャワー剤タイプ、粒剤タイプの製品があります。

②散布する場所で選ぶ

●空き地、駐車場、家周り、勝手口など近くに植物を植えていない場所(植物から1m程度離れている場所)あるいは植物を植える予定のない場所

雑草ができるかぎり長期間生えないように、効果が3カ月、6カ月など記載されている土壌中に除草成分が残る製品が適します。

●空き地であるが1年以内に植物を植えたいと思っている場所

効果の持続期間が3カ月程度の製品や、茎葉処理型の製品が適します。

●庭木や垣根がある場所

土壌の表層に除草成分が吸着する製品や、茎葉処理型の製品が適します。ただし、関西の真砂土(まさつち・まさど)は砂質土壌成分が流亡しやすいため、土中に除草剤が残る製品を使っても効果が期待できません。

●芝生が生えている場所

ラベルに芝生用、芝生に使用できると記載されている製品が適します。

●野菜類が植えてある場所

家庭菜園では畝間に使用しますが、茎葉処理型の製品が適します。

【注意点】
・草花類が植えてある場所や野菜のように畝間が狭く密植している場合は除草剤の使用は控え、手で除草しましょう
・枯れて困る草花、野菜には除草剤がかからないようにしましょう

③雑草の草丈と種類で選ぶ

●発芽前の雑草の種、草丈20cm以下の雑草

根から除草成分が吸収されて効果を発揮する粒状タイプの土壌散布剤が適します。

●草丈20cm以上の雑草、ドクダミやスギナなど地下茎で繁殖する雑草

葉から吸収されて成分が土壌に接すると分解して除草効果がなくなる茎葉処理型の製品が適します。

地下茎で繁殖する雑草は1回の散布で地上部分の葉や茎は枯れますが、地下茎は生きているので蓄えられた養分で再び生えてきます。2~3回程度生えるので、そのたびに散布すれば養分を使い切り生えてこなくなります。

【コラム:オーキシンで雑草が枯れる?】

植物ホルモンのオーキシンは、日本シバの中に生える広葉雑草(クローバー、タンポポなど)の除草剤にも使用されます。植物ホルモンが成分のため、芝生も広葉雑草もよく吸収します。

シバはイネ科の植物なので、成分を吸収したとしても植物体に余分なホルモンは分解してしまいます。しかし、広葉雑草は分解せずにため込んでしまう性質があります。そのため、広葉雑草のホルモンバランスが崩れ、新芽部分の黄化・変形などの症状が表れ、枯れます。

雑草の生えている場所に集中して薬剤を多量に散布すると、シバも枯れることがあるので、満遍なく散布するようにしましょう。

7. 除草剤の散布方法を知ろう

①粒剤タイプ

1平方メートル当たりの散布量は5~50gです。まず、イラストのように「縦まき」します。その後に「横まき」すると散布むらが防げます。

②希釈して散布するタイプ、シャワー剤タイプ

葉から吸収するため、かけむらのないように丁寧に散布します。大切に育てている植物の葉に散布液がかからないように注意しましょう。除草剤を散布するための噴霧器やジョウロはできるだけ別途用意します。除草剤の成分が微量でも残っていると育てたい植物に影響を与えるため、殺虫剤などの散布や水やりに使用するものと共用しないことをおすすめします。

以上、植物成長調整剤と除草剤について紹介しました。ぜひお役立てください。

次回は、農薬の適用作物について、ラベルの見方などを解説します。お楽しみに。

JADMA

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