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【第11回】農薬のラベルを見よう!②<使用時期、総使用回数、使用方法編>

望田明利

もちだ・あきとし

千葉大学園芸学部卒。住友化学園芸研究開発部長として、家庭園芸薬品や肥料の開発普及に従事。現在は園芸文化協会理事、家庭園芸グリーンアドバイザー認定講習会講師などとして活躍中。各種園芸雑誌等に病害虫関係の執筆多数。自らも自宅でさまざまな種類の草花・花木などを栽培している。

【第11回】農薬のラベルを見よう!②<使用時期、総使用回数、使用方法編>

2022/10/18

前回に引き続き、今回も農薬のラベルを見ていきましょう。同じ薬剤なのに、作物の種類によって使用時期や方法、総使用回数がどうして異なるのか、疑問に思うことはありませんか。今回は、ラベルに記載されているそれらが何を意味しているのか、どのようにして決めるのかを解説していきます。

※「農薬のラベルを見よう!」は、本文に使用する作物名および分類名を農林水産省の表記に統一しています。

【目次】
1. 使用時期とはなんだろう

2. 総使用回数とはなんだろう

3. 使用時期、総使用回数はどのようにして決めているの?
 ①一日摂取許容量(ADI)と急性参照用量(ARfD)
 ②作物にどのくらいの農薬が残留しているか調べる「作物残留試験」
 ③一日当たりに平均してどのくらい食べるのかを示す「フードファクター」
 ④作物から摂取しても健康に影響が出ない農薬の量
 ⑤適用作物の決め方
【コラム:実際に摂取している農薬の量は?】

4. 使用方法とはなんだろう

1. 使用時期とはなんだろう

「ベニカベジフル(R)スプレー」の適用病害虫と使用方法(提供:住友化学園芸株式会社)より抜粋

例えば野菜の使用時期には「収穫7日前まで」「収穫3日前まで」などの収穫前日数が記載されています。収穫前日数は、生産者が収穫日の何日前まで薬剤を散布してよいということを意味しています。つまり「薬剤を散布後から記載された日数がたっていれば農薬の残留量が基準値以内に収まるので、収穫して食べても安全です」ということを示しています。薬剤によっては、日数ではなく「定植時」「は種時」など作業時期を記載する場合や「発生初期」など病害虫の発生時期に合わせた表記もあります。

例えば「ベニカベジフル(R)スプレー」をだいこんに使用する場合は「収穫7日前まで」散布できます。これは「ベニカベジフル(R)スプレー」を散布後、7日たてば収穫して食べても安全ということを示しています。

2. 総使用回数とはなんだろう

花き類・観葉植物(アイビーなどの草本植物の観葉植物)や野菜類では、種まきから枯れるまでの間に散布してよい回数です。樹木類(木本植物の観葉植物を含む)や果樹類では、1年間に散布してもよい回数を記載しています。

総使用回数には「1回」「3回以内」などの使用回数が記載されています。「―」と回数が表示されていない場合は、散布回数に制限はありません。使用回数は、作物への農薬残留量や環境に対する影響を重視しています。当然のことですが、使用回数が多いほど農薬残留量も多くなります。

注意したい点は、総使用回数は製品ごとではなく有効成分ごとに決められていることです。そのため、複数の有効成分が含まれている製品では「本剤の総使用回数」「A成分の総使用回数」「B成分の総使用回数」などのように有効成分ごとに表示されます。本剤の総使用回数は、A成分とB成分の総使用回数が少ない方の回数が表示されます。

また、同一有効成分でも粒剤や乳剤などの剤型があり、「茎葉に散布する」「土壌に混和する」などさまざまな使い方のできる薬剤があります。このような場合は「本剤は4回以内(茎葉散布は4回以内、土壌混和は1回以内)」などの表示になります。さらに、「4回以内(育苗期の株元散布および定植時の土壌混和は合計1回以内、散布および定植後の株元散布は合計3回以内)」など、成分によって使用時期の違いで使用回数が定められている場合もありますのでご注意ください。

具体的には下記の例のようになります。

「モスピラン(R)・トップジン(R)Mスプレー」の適用病害虫と使用方法(提供:住友化学園芸株式会社)より抜粋

例えば上のラベルを見てください。「モスピラン(R)・トップジン(R)Mスプレー」をトマトに使用する場合、有効成分アセタミプリド(代表的な商品名は「モスピラン(R)粒剤」「モスピラン(R)顆粒水溶剤」など)は4回まで使用できますが、「モスピラン(R)粒剤」を定植時までに1回使用、その後の生育期の茎葉散布や株元散布は3回以内の使用になります。同様に、有効成分チオファネートメチル(代表的な商品名は「トップジン(R)M水和剤」「トップジン(R)Mゾル」など)は6回まで使用できますが、種子消毒に1回、茎葉散布に5回以内使用できます。本剤(「モスピラン(R)・トップジン(R)Mスプレー」)のように茎葉散布する薬剤は、茎葉散布の使用回数が少ない有効成分アセタミプリドの使用回数に合わせるので、本剤の使用回数の上限は3回になります。

トマトに対し、「モスピラン(R)・トップジン(R)Mスプレー」を2回使用すると、「モスピラン(R)粒剤」「モスピラン(R)顆粒水溶剤」などはあと1回使用することができます。

定められた使用回数だけでは、病害虫に対して十分な効果がない場合があります。その場合は、C成分、D成分など他の有効成分の製品を使用して防除しましょう。

3. 使用時期、総使用回数はどのようにして決めているの?

人は毎日朝食、昼食、夕食と食事をします。その食事で健康に悪影響が出ることは絶対に避けなければいけません。第5回では、どのような試験を行っているかを解説しましたが、農薬を散布した野菜を食べると健康を害するのではと不安に思う方もいるのではないでしょうか。

安全性を確保するためには、第10回で解説した「適用作物」、今回解説する「使用時期」「総使用回数」が重要で、これらを順守して育てられた作物は、一生涯食べ続けても健康を害することはないとされています。

ちなみに「使用時期」「総使用回数」は、①一日摂取許容量と急性参照用量、②農薬の作物残留量、③フードファクター、④作物から摂取しても健康に影響が出ない農薬の量から決められています。それぞれ分けて説明していきましょう。

①一日摂取許容量(ADI)と急性参照用量(ARfD)

「一日摂取許容量(ADI※)」は、食品添加物や農薬などのように、意図的に食品に使用される物質や残留する農薬について、一生涯に毎日摂取し続けても健康への悪影響がないと推定される一日当たりの摂取量のことです。食品添加物や農薬など、食品の生産過程で意図的に使用されるものの安全性指標として用いられます。

※ADI:Acceptable Daily Intakeの略

動物を使用して中・長期毒性試験を行いますが、毎日食べても実験動物に影響を与えない量である「最大無作用量」が求められます。しかし、これは動物でのデータであり、そのまま人間に適用することはできません。動物によって「最大無作用量」は異なるため、一番厳しい数値を基準にして、生物間の差で1/10、個体差で1/10を掛けた量を「一日摂取許容量」としています。

また、24時間以内の短時間に摂取しても、健康に悪影響を生じないと推定される摂取量を「急性参照用量(ARfD※)」といいます。口から摂取して胃に投与した際の毒性「経口急性毒性」の最大無作用量に、「一日摂取許容量」と同様に、1/100の安全係数を掛けた量です。このように、長期、短期に人が摂取しても影響を及ぼさない上限値が定められています。

※ARfD:Acute Reference Doseの略

中・長期毒性試験については第5回で解説していますので、そちらを参照してください。

②作物にどのくらいの農薬が残留しているか調べる「作物残留試験」

実際に作物に農薬を散布して残留量を調べます。当然のことですが、散布回数が多い、または収穫までの期間が短いほど農薬の残留量は多くなります。

使用回数が例えば5回以内の場合は、散布は展着剤などを使用し、5週にわたって週1回散布し、各回の散布翌日、3日後、7日後などに収穫して残留量を検査します。分析はトマト、キュウリ、リンゴなど生食や皮ごと食べられる野菜や果物を洗わず、薬剤が付着したままの状態で分析するなど厳しい条件で行われます。

作物残留試験については第5回で解説していますので、そちらを参照してください。

③一日当たりに平均してどのくらい食べるのかを示す「フードファクター」

厚生労働省の国民栄養調査に基づいて定められた、一人の日本国民が一日当たりに食べる穀物、野菜、果物などの摂取量の平均量を「フードファクター」といいます。国民平均、高齢者、妊婦、小児別の一日当たりの農産物摂取量があり、農薬などの残留基準設定は、フードファクターを用いて計算されています。

厚生労働省の国民平均、高齢者、妊婦、小児別の一日当たりの農産物摂取量は、以下の通りです。

厚生労働省:平成17~19年食品摂取頻度・摂取量調査の特別集計業務報告書より抜粋

④作物から摂取しても健康に影響が出ない農薬の量

「一日摂取許容量」の対象となる物質は、全て野菜や果物などの作物から摂取されるわけではありません。水や空気からも摂取が考えられるので、水が10%、空気が10%、作物からは80%以内の摂取になります。ここでは分かりやすいように大きい数値で説明しますが、実際は単位の違う非常に少ない数値です。仮に「一日摂取許容量」が100mg/kg/day(体重1kg当たり毎日摂取してもよい量)だと作物からは80%の80mg/kg/day が摂取してもよいことになります。「フードファクターによる食べる量」×「農薬残留量」の作物ごとの合計値を、「一日摂取許容量」の80%以下にしなければなりません。

例えば、国民平均体重が50kgとすると、80mg×50=4000mgとなります。つまり、その物質は毎日最大4000mgを食べても健康に影響が出ないと推定されます。以下の表では、米、トマト、ホウレンソウのみを例に取り上げましたが、登録のある作物の総合計値が4000mg以下でなければなりません。高齢者、妊婦、小児でも同様に農薬摂取量を調べます。

⑤適用作物の決め方

どの作物を適用作物として登録するかは農薬メーカーが決めます。農薬をなるべく使用してもらいたい作物は残留量を多く設定し、重要視しない作物は登録を取らないあるいは残留量を少なく設定する、使用回数を減らす、収穫時期を遅くするなどして調整します。

トマト、キュウリ、ナスなどのように、生産者が毎日収穫する作物の使用時期は「収穫前日まで」が基本です。特にキュウリは1日たてば大きくなり過ぎて販売に適さなくなります。また、農薬の今後の適用拡大、基準の変更などを考慮し、作物から摂取してもよい量の50%前後の農薬の残留量に抑えている農薬が多いです。

【コラム:実際に摂取している農薬の量は?】

実際、どのくらいの農薬が残留しているのでしょうか。平成21~22年度食品中の残留農薬などの一日摂取調査結果が厚生労働省から発表されています。農薬など47の物質がいずれかの食品群において検出されましたが、検出された物質の残留量は、一生涯食べ続けても悪影響がないと推定される一日摂取許容量の0.01~5.92%でした。

4. 使用方法とはなんだろう

希釈して使用する農薬の使用方法は茎葉にまく「散布」がほとんどですが、それ以外の方法も紹介します。

液剤や粉剤では
・茎葉にまく「散布」
・希釈液を土にまく「土壌灌注(かんちゅう)」
・粉剤を土に混ぜる「土壌混和」
・希釈液に球根や苗を漬ける「浸漬(しんし)」
・粉末のまま種子や球根に使用する「粉衣」

粒剤には、下記のような使用方法があります。
・株元にばらまく「株元散布」
・種まきや苗を植えるときに穴や溝を掘った中にまく「植穴散布」「植溝散布」
・土の中に散布して混ぜる「土壌混和」

以上、2回にわたり農薬のラベルの見方について紹介しました。農薬を購入される際には、ぜひお役立てください。

次回は、農薬を使用しない病害虫の防除方法について解説します。

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