草花をタネから育て、芽が出て、やがて花が咲く。この上なく楽しいことです!
今回は釣り鐘状の花を咲かせ、庭植えや鉢植え、切り花など幅広い楽しみ方ができるカンパニュラ メジュームをご紹介します。繊細な鐘の音を奏でるかのように咲く可憐な花を楽しみに、タネまきから始めましょう。
カンパニュラ属は主に北半球の温帯から亜寒帯にかけて、300種ほどが広く分布しています。その大部分が宿根性ですが、今回ご紹介するカンパニュラ メジュームは、カンパニュラ属には珍しく、タネによって繁殖をする二年草に分類される草花です。
属名の“カンパニュラ”は「小さい鐘状のもの」という意味で、和名の「フウリンソウ(風鈴草)」も、花の形から名付けられました。5~6月にかけて、その名の通り釣り鐘状の花を多数付けます。
元来メジュームは、成長した株が低温にあうことで花芽を形成し、日が長くなってくると開花する性質を持っています。そのためタネを春まきして、翌年の初夏に開花するのが通常のサイクルで、タネまきが遅れたり秋まきにすると株張りが不十分で、翌々年の開花となってしまうのがこれまでの品種でした。
ところが、サカタのタネで育成した世界初のF1品種「メイ」シリーズは、秋まきで翌年ほぼ100%開花します。つまり、それまで二年草だったカンパニュラ メジュームを一年草タイプに変えた、記念すべきシリーズなのです。さらに、花芽分化に低温を必要としない性質を持たせた「チャンピオン」シリーズや小輪タ イプの「チャイム」シリーズは、本来の性質を大幅に変えた画期的な品種で、世界中で切り花用に栽培されるようになりました。
今では品種も豊富にそろい、寒さにも強く、丈夫で育てやすい草花です。この愛らしく風情のある鐘の花が、皆さんの心にきっと響いてくれますように。
耐寒性も強く、病害虫も少なく育てやすいカンパニュラは、花壇、鉢、切り花とさまざまな用途で利用されています。花色も豊富なので、好みの花色をタネから育ててみてはいかがでしょうか。
-
秋にまいて翌年咲く!人気のベル形の花彩りを楽しめる人気の切り花。従来のカンパニュラと違い、花芽を付けるのに低温を必要としない画期的な品種です。
-
びっしり花が咲くかわいい小輪「チャンピオン」シリーズよりも小輪のかわいいカンパニュラ。秋にまいて翌年5~6月には開花します。
-
しっかりした茎で切り花にもぴったり可憐な鐘状花。サカタのタネが世界で初めてラプンクルス種の一代交配化に成功しました。強健で茎も強く、切り花にしたときの花持ちも抜群です。
-
花つき、花もちのよさが光る人気品種生育が早い一代交配種で、秋にタネまきしても翌年の春に開花する画期的なメジューム系の改良品種です。
-
おしゃれな大輪花カップとお皿を思わせるユニークな花形。寒さに強く育てやすい大輪種。
-
鐘の形をした花は、涼味を誘う夏の花として人気初夏に開花する鐘に似た花形で、寒さに強く育てやすい品種です。紫・桃・白の混合で株元から数多く枝が出て、花壇や切り花に適します。
品種によって、タネまきの時期が違うため注意してください。二年草タイプの品種は5~6月にまきます。「メイ」シリーズ、「チャンピオン」シリーズ、 「チャイム」シリーズは8月下旬~9月上旬がおすすめのまきどきです。タネのまきどきがまだ暑い時期なので、9~10.5cmの素焼き鉢かピートバンにまくのがおすすめです。タネは平均にばらまきし、覆土はしません。10日前後で発芽するので、雨の当たらない場所で管理し、日中晴れたら日よけをして強光を避けます。 ※人気の「涼姫」も、タネまき・栽培方法は同じです。
「メイ」シリーズは遅くとも9月上旬までにタネをまきます。「チャンピオン」シリーズ、「チャイム」シリーズは9月下旬までまけるので、数回に分けてタネまきしてみましょう。発芽までは絶対に乾かさないように気を付けてください。
発芽後、密に生えているところは、苗が徒長しないように間引きます。本葉が出始めたころの小苗のうちに、6~7.5cmポットもしくは200穴のセルトレーに植えて育苗します。移植後の苗は大変小さいので、水をやるときには、ハス口を上に向けて静かに与えてください。この時期はまだ暑いので、風通しのよい半日陰で育苗します。ある程度根が張り出したら、薄めの液肥を適宜水やり代わりに与えます。
移植を嫌うので、本葉が出始めたころの小苗のうちに行ってください。水やりは過湿に気を付け、やや控えめにして育てるのがコツです。
ポットに根が回ったら20~25cm間隔で植え付けます。植え付け場所は日当たり、水はけのよいところが適しています。酸性土を嫌うため、定植の1~2週間前に、苦土石灰をまいてよく耕しておきます。定植前には堆肥などの有機物を早めに施し、よく土と混ぜておきます。鉢植えの場合は18cm以上の大きめの鉢に植えます。
本格的な寒さが来るまでに根が張るように、ポットに根が回ったら早めに定植、鉢上げをします。鉢上げのサイズは大きいほど根量が増え、しかも株張りがよくなり、管理もしやすいので、18cm以上の鉢をおすすめします。
定植後は冬の低温期に当たるため、株の生育が緩慢ですが、しっかり根を張らせておくことで、彼岸を過ぎて急速に生長します。鉢植えの場合、厳寒期の乾燥が大敵です。表土が白くなってきたら早めに水を与えます。摘芯をしなくてもうまく分枝し、開花時にはピラミッド状の草姿に整います。ただ切り花にする場合は、中心部の茎が太すぎるので、側枝の方が適しています。開花した株は枯死します。
摘芯しなくてもよく分枝しますが、摘芯をうまくやるとよくそろった細めの枝が多数同時に上がるので、見応えのある草勢になり、切り花にも手ごろになりま す。摘芯は2月中~下旬にピンセットで芯の小さな芽を摘んでやります。芯が大きくなってから摘芯すると真ん中の部分がポッカリ空いた状態になってバランスが悪くなります。
2018年1月18日更新
菅野政夫(かんの・まさお)
1952年山形県生まれ。神奈川県立相模原公園副園長、サカタのタネグリーンハウス館長。1973年坂田種苗株式会社(現(株)サカタのタネ)入社後、試験場勤務20年以上、オステオスペルマムなど栄養系植物の栽培・育種に携わる。